なんでやねぇ~~ん
駅まで歩いて25分もかかる。
その間、何故だか川口君は何も話さなかった。
一人、会話を探して「アホらしかった。」と思った。
⦅なんや! なんか私したんやろか? けったいやな……。⦆
「しんどいの?」
「……まぁ、な。」
「寒いし、風邪ひかへんように……。」
「……うん。ありがとう。」
⦅具合、急に悪うなったんかな?⦆
駅に着いて、別れ際に「無理せんといてね。さようなら。」と言って別れた。
川口君は「うん。さようなら。」だけ……⦅? やっぱり、けったいやぁ~。⦆と思った。
家に着くと、弟が「お帰り。」よりも別の言葉で迎えてくれた。
「ただいまぁ~。」
「姉ちゃん、おめでとう!」
「何が?」
「お見合いや! お見合いの話、おばちゃんが持って来てくれはった。」
「おばちゃん?」
「ふん。勝子おばちゃんや。
姉ちゃん、良かったなぁ~。
これで、上手くいったら俺より先に結婚できるで。」
「まぁ……そやな。」
「なんや? 乗り気や無いって顔して。」
「まだ、何にも聞いてへんやん。相手の人のこと……。」
「そやったなぁ~。早よう。早よう。」
居間に行くと父と母が座って見合い写真と釣書を見ていた。
「ただいま。」
「お帰り。」
「お帰り。もう、幸一郎から聞いたようやな。」
「聞こえてた?」
「聞こえてた。勝子おばちゃんが心配して話を持って来てくれた。」
「そうやの……勝子おばちゃんが……。」⦅断るの難しいやん。⦆
「まぁ、浩子もいつ結婚してもエエ歳やねんからな。
話をもろうたことは有難いと思うんや。」
「そうや! 姉ちゃんが結婚してくれたら俺、もう何も言われへんようになる。」
「幸一郎、ちょっと黙っときや。
今はお父ちゃんが話してはるんやから…。」
「はぁい。」
「はい!は短こう。」
「はい。」
「浩子、お前、好きな人おらんのか?」
「………おらん、ねんけど。」
「はぁ……そうか……。」
「ええと思うで。」
「幸一郎! お父ちゃんが話してはると、お母ちゃん言いましたやろ。」
「けど、俺も関係あるやん。」
「なんや? 幸一郎。」
「姉ちゃん、高校卒業して、もう23歳やで。
もう5年や。
5年も何も無かったんやで。これからあるはず無いやん。
勝子おばちゃんの話、蹴ったら……もう無いんとちゃうの?
これが最後のチャンスかもしれんやん。」
「最後のチャンス……そやな。そうかもしれんわ。」
「浩子、お父ちゃんはお前を北海道へなど行かせとうない。」
「北海道の人なん?」
「今は大阪に居はるんやけどな。いずれ北海道へ帰って同居が条件や。
北海道に行くだけやない。
お舅さん、お姑さんと同居させとうないんや。
苦労するのが目に見えてる。」
「そやったら、お父ちゃんから断ってください。」
「お母ちゃん……。」
「うちのおばちゃんやないんですよ。
お父ちゃんのおばちゃんやありませんか!
お父ちゃんのおばちゃんやねんから、お父ちゃんが断って!
うちは何もしませんよって。」
「それは、そうやねんけどな。」
「うちは何もしませんよって!」
「お母ちゃん……。」
「姉ちゃん、どないする?
同居やって知らへんかったから、ええ話!言うたけど……
同居やねんやったら止めた方がええわ。
北海道へ行くちゅうのも、お母ちゃんも寂しなると思うわ。
お父ちゃんは北海道へ行かせる気ないみたいやし……。」
「けど、幸ちゃんの言う通りやよ。
5年、なんも無かったんやから、この先もなんも無いわ。」
「姉ちゃん……。」
「お見合い、よぉ考えるわ。」
「……うん。」
「お父さん、お母さん、ちょっと考えさせて! お願いやから…。」
「嫌やったら断るさかいな。断ってエエねんで。」
「うん。ありがとう。お父さん。」
「浩子、ご飯食べるよね。」
「うん。」
「あんたの好きなブリの照り焼きや。」
「嬉しいわぁ……ありがとう。お母さん。
食べて来るわ。」
夕食を一人で摂って自分の部屋に入った。
⦅あぁ……北海道かぁ……遠いなぁ……しかも、同居……。
好きでもない人の両親と……出来るんやろか?⦆
何故か川口君の顔が浮かんだ。
⦅なんでやねぇ~~ん。なんで、出て来るねん。なんでやぁ~~っ!⦆
声にならない叫びを上げている頃……。
自宅に帰ったばかりの川口秀樹は………母の「秀樹、ご飯は?」に「食べるよ。」と答えて、自室に入り着替えていた。
⦅あぁ……なんでやねぇ~~ん。 なんでや?
なんで急に話されへんようになったんや?
もぉ~分からへん。 なんでやぁ~~っ!⦆
……と声にならない叫びを上げていた。




