仕事
係で設計の仕事をしているのが大卒の川口君、ベテランの高卒・石井さんと大川さんと野口さんの4人だ。
宴会で川口君と組んで芸を見せてくれている山本さんは現場担当だ。
現場担当は、山本さんの他にも3人居る。
女子社員の主な仕事は申請書の作成だ。
その申請書の提出の担当者が2人。
何かあったらポケットベルで現場担当者を呼びだす。
係のホワイトボードには行先が書いてある。
現場担当は社内に居る時間が短いが、設計担当は社内に居る時間が長い。
そして、係で大卒は川口君と係長だけだ。
係の2人の主任を含めて、後は高卒ばかりである。
電話は黒電話が直通の電話で3本ある。
残りの電話は色が薄いグレーで内線専用なのだ。
電話交換から繋げて架かってくるのは、内線専用の電話で、顧客から電話、申請した役所からの電話などで使われている。
今日も設計担当から申請書作成のための図面を渡された。
「山田ちゃん、これ大至急で! 頼むわ。」
「はい。期限はいつですか?」
「明日の朝まで、出来たら今日中に! 頼むわな。」
「はい。」
⦅出来るんやろか? 大至急が5件やで。優先順に頑張るしかないわ。⦆
大至急の申請書作成をしていると、係長が応接セットに座った。
立ち上がりお茶を入れに行く。
「山田さん、大丈夫ですか?
私、行けますよ。お茶……。」
「大丈夫や。弥生ちゃん、ありがとう。」
給湯室に行き、お茶を淹れる。
淹れている間、あのセクハラ主任は来ない。
⦅平和や……もう二度とあんなことされとうないわ。⦆
お茶を出して席に戻り仕事を急いでする。
⦅今日は残業かな?⦆
就業時間になっても大至急が終わらない。
やはり残業になってしまった。
「山田さん、済みません。手伝えなくて……。」
「そんな、ええねんよ。結婚してるんやからね。
早よ、帰らな。忙しいやろ。」
「はい。済みません。お先に失礼します。」
「ふん。お疲れ様。気ぃつけてね。」
「はい。」
弥生ちゃんは大きな声で係の皆に「お先に失礼します。」と声を掛けて帰って行った。
⦅さぁ、頑張って早よ帰らなな。⦆と思っていたら、電話が鳴った。
トラブルを告げる電話だった。
ホワイトボードを見る。
担当の山本さんはまだ帰って来ていない。
ポケベルを鳴らして山本さんからの電話を待つ。
「はい。係でございます。」
「山本です。」
「山本さん、吹田の現場へ行って。」
「トラブルか?」
「はい。」
「分かった。行く。」
「気を付けて!」
残業をしながら山本さんのトラブルの結果が気になった。
「山田さん、まだ掛るか?」
「はい。もう少しかかります。」
「そうか、終わったら誰かに駅まで送らせるから……。」
「ええですよ。係長。一人で帰れます。」
「女の子が一人は危ない。終わったら送らせる。」
「済みません。」
設計図を持って来た川口君の余分な一言が耳に入って来た。
「ホンマに小さい女の子やさかい。心配やな。」
「むぅ、忙しいんですけど? ほんで、何ですか?」
「この申請、普通で……。」
「お急ぎや無いんですね。」
「そうや。」
「ほな、ゆっくりさせて貰いますわ。」
「ほどほどに、ゆっくりやで。」
「はぁ~い。」
やっと大至急の申請書を全て書き終えた時、山本さんが帰って来た。
係長と主任が声を掛ける。
「どないや?」
「はい。無事に終わりました。」
「現場でお子さんがこけたんやな……。」
「はい。謝罪に行き、病院へお連れしてきました。
お怪我は擦り傷だけでした。」
「そうか……大きなお怪我やのうて良かったな。」
「それで? 他にご要望はあったのか?」
「次の通院時にご一緒することになってます。」
「医療費とお詫びの品の代金、請求しいや。」
「はい。」
「お疲れさま。最後まで頼む。」
「はい。」
山本さんが席に着いたのを見て、給湯室に行きコーヒーを淹れた。
山本さんにコーヒーを出すと喜んでくれた。
「ありがとう。
あぁ……美味しいわ。」
「ホンマにお疲れさまでした。」
「まだ続くけどな。」
「お怪我、擦り傷で良かったですね。」
「ホンマや。大きな傷やったら……と思うとな。
それに足で良かった。
顔やったら、な。」
「こけた子は女の子ですか?」
「うん。そやから、顔や無くて良かった。
それに、傷は残らへんやろって先生が言うてはったし。」
「ホンマに宜しおました。」
「なんや! おばあちゃんと話してるみたいやな。」
「えへへ………。
あ、山本さん、お昼ご飯、食べはったん?」
「サラヤのおむすび食べたさかい。2個だけやけど。」
「お腹空いてはるでしょう? これ、チョコやけど、どうぞ!」
「山田さん、おおきに。
ええお嫁さんになるわ。山田さんは……。」
「貰い手が無いんですけど!」
「まぁ、なんとかなるやろ。
さぁ、事務やって帰ろ。」
「私はお先に失礼します。」
「うん。気ぃつけて帰りや。駅まで遠いさかい。」
「はい。ありがとうございます。」
係の皆に聞こえるように言った。
「お先に失礼します。」
「誰か送ったげて!」
「ええですって、係長。」
「山田ちゃん、僕が送りますわ。
送って来ます。」
「主任、ええです。一人でも大丈夫です。」
「山田ちゃん、嫁入り前の女の子やさかいな。」
「係長、主任、僕、終わりましたから、一緒に帰ります。」
「えっ?」
「そうか、ほな頼むわな。川口君。」
「それなら、安心できるわ。」
「失礼します。」
「お疲れさん。さいなら。」
⦅えっ? えっ?⦆
川口君は先に歩いて行き、後ろを振り返って言った。
「通用口で待ってるから……ゆっくりでエエで。」
「……はぁ……分かりました。」
何故だか川口君と二人で駅まで帰ることになった。
「サラヤのおむすび」は、おむすびだけを売っていた店舗です。
昭和50年代に各地にありました。
個人的な印象ではコンビニが出始めてから撤退して一店舗も残っていません。
車での移動が主な昔の会社員御用達の店舗でした。




