送別会
内山厚子の退職の日、係での送別会が開かれた。
私は花束を用意した。
係からの花束だった。
宴会が始まる前に予約していた花屋さんに取りに行った。
先輩が好きなカスミソウは絶対に入れると決めていた。
ただ、私はセンスが無いので、後は金額だけを伝えた。
花屋さんのセンスなら大丈夫!だと思う。
今日の宴会にはあまり参加されない課長が来られると聞いた。
係の宴会に参加されるのは、来られて直ぐの課長の歓迎会。
次は課長の送別会だと思っていた。
仕事が終わった人から会社を出る。
宴会場は係の人が少しずつ増えていった。
全員が座った頃、係長が第一声を発した。
「今日は、今まで頑張ってくれた内山さんの最後の出社日でした。
今までありがとう!
これから彼女は一大事業に挑みます。
どうか無事にご出産されますよう係一同祈っています。」
「ありがとうございます。」
「内山さん、お腹には大切な赤ちゃんが居ますから、絶対に無理しないように!
でも、楽しんでください!」
「ありがとうございます。
最後の宴会ですので、目一杯、楽しみます。」
「では、今日は課長も来てくださってますので、課長からひとこと……
お願いします。」
「いえいえ、僕からは……
内山さんのお無事なご出産と幸せを祈って乾杯しましょう!
では、かんぱい~!」
「かんぱい~!」
それからは、もういつもの宴会だった。
私は花束を店に預けていた。
この宴会の最後に内山先輩に渡す花束。
内山先輩を弥生ちゃんと私とで挟んで、ずっと話している。
もう会社に行っても内山先輩が居ないことが今は信じられない。
寂しい……と思う。
すると、係長から……。
「おぉ~~い。そろそろかな?って思うんだが?」
顔を見合わせたのは川口君と山本さんだった。
顔を見合わせて、席が離れているのに打合せしているようかの動きをして、それから、二人は前に出て歌い始めた。
「♪おおきな やまぁを ひとまたぎ♪」
そして二人で踊り出した。
それが、面白くて……宴会場は大爆笑になった。
いつも、この二人が宴会を盛り上げてくれている。
来春になったら川口君は居なくなる。たぶん……。
この宴会芸も後何回見られるんだろう?と思うと、寂しさが募っていった。
そして、まさかの御指名だった。係長からの……。
「山田さん、どうかな? 君も……。」
「えっ? 私ですか? けど……。」
「やります! 浩ちゃん、やろ! 最後やし。」
「えっ? 内山さんは止めておいた方がええんとちゃうかな。」
「いいえ、係長。8カ月やから大丈夫ですわ。
最後やし、浩ちゃんと一緒に…ね。」
「はい!」
拍手の中、課長と係長だけが戸惑っていた。
「♪た たん たらたら~ た たん たらたら~
たたたたたたたた たった たぁ~
ペッパーけいぶ じゃまをしないでぇ え♪」
二人で踊る最後だと思うと涙が出て来た。
何故だか大爆笑が起こった。
後ろを見ると、山本さんと川口君が躍ってる。
その踊り方が面白くて大爆笑になったのだ。
踊った後、内山先輩が話し始めた。
「もう、これで、私と山田さんのピンクレディはお終いです。
後ろのブラックレディは続くかもしれないですね。
山本君、川口君、ありがとうございました。
良い想い出になります。」
拍手が沸き起こった。
時間が近づいている。終わりの時間が………。
私は店に預けていた花束を持って来た。
課長の言葉の後に係長の言葉が続いていた。
「本当にお身体を大切にして元気な赤ちゃんを産んでください。」
「ありがとうございます。」
「内山さん、何か一言……お願いします。」
「はい。」
内山先輩はゆっくり息を吸った。そして話し始めた。
「18歳からお世話になりました。
気が付いたら25歳になってました。
この間に、結婚して子どもを授かりました。
これから一番大切な出産が待っています。
それを無事に終えたいです。
妊娠してからも職場の皆さんのお陰で無事に過ぎました。
ありがとうございました。
………ただ……一つ気掛かりがあります。
可愛い二人の後輩のことです。
うちの課ではありませんが、お隣の課の主任が……。」
「先輩!」
「大丈夫やから……。
お隣の課の主任のセクハラを止めて頂きたいのです。
お願いします。」
「内山さん、セクハラ……間違っていたら大変ですよ。」
「間違ってないから言っています。
私が今まで声を上げられなかったことです。
どうか聞いてください。
給湯室で主任は後ろから抱き上げます。
ただ抱き上げるだけでも私はセクハラやと思っています。
でも……主任は……ただ抱き上げるだけやない!
固くなった股間を女子社員のお尻に押し付けるために抱き上げています。」
「それは、事実ですか?」
「事実です! 私も証言できます。」
「私も話せますし………
主任からの嫌がらせを封じて頂けるなら証言者は増えます。」
宴会場の雰囲気は一気に変わった。
そこここで声がしている。
課長と係長は二人で顔を寄せて話している。
どうなるのか分からない。
内山先輩の身体が心配だった。
その時、大きな声で話し始めた人が居た。
「あの……僕が見た感じでは嫌がっています。
女の子は……。
女の子が嫌だと感じたら、それはセクハラです。
職場環境改善のためにも女子社員を守ってください。
お願いします。」
その言葉を発したのは川口君だった。




