第九話 事件の予兆
『謎の封筒研究会』を結成してから、3日経った。
私たちは、相変わらず『謎の封筒』のことについて、教室の片隅、窓側の席で話していた。
「で、結局は、分からないよな」
「そうだね。何であんなものを送ってきたのか、何故色が違うことが見えていないのか、色が違うのが見えても亮や美音ちゃんみたいに『いろいろな色が混ざってて分からない』っていう人もいるし」
「あ~もう! 考えたら考えただけ分からなくなってくる!」
「でも、分かっていることがあるとすれば『色』が関わってくること。それから、自分たちの身に危険が迫ってくる可能性があるということの二点ぐらいかな」
「うん、とりあえずはその考えでいいと思うよ」
そんなことを話していると、美音のおなかが鳴った。
「うっ。鳴っちゃったか~。一つ言い訳してもいい?」
「なんだ」
「よく考えてみてよ、今、この瞬間、この時間は、昼食の時間なんだよ! 皆も食べてて、見てるだけでおなか減るのに、いつも以上に、頭使ってるせいで、お腹すいたんだもん。仕方ないでしょ」
美音は、お腹が鳴ったことが恥ずかしかったようで早口で弁解した。
「まぁ、落ち着け。誰も責めてないんだから」
「そうだな。そろそろ昼食にしないと時間が無くなる」
「美音ちゃん、待たせてごめんね。とりあえず、食べてかよっか。食べながらでも話すことはできるし」
「なんか、皆が優しい。うん、ご飯食べる」
皆、自分の弁当箱や袋を持ってくる。
今日の私の弁当は、一段弁当におにぎり二つだった。
久しぶりな気がしたが、類が転校してきた日の弁当もこれだった。
それだけだと思っていたら、皮がウサギ型の林檎が入っていた。
そういえば朝、
「今日は果物入れておいたぞ。手を込んでだし、頑張ったからきっと驚くぞ」
と言っていたのは、こういうことっだったのか。
確かに、お父さんにしては、林檎の皮をウサギにするのは、相当すごい。
それから、私は、皆の弁当に目を移した。
類の弁当は、袋に入っており、今日は汁物と二段弁当のようだった。
お父さんだったら絶対、汁物も作れないし、弁当に入れようという発想も思いつかないだろう。
一様、汁物を入れる専用の弁当箱あるのにな。
また今度できるか聞いてみよ。
多分、いきなりは無理だけど。
美音の弁当は、親が手を込んで作っているようで、今日もキャラ弁で、米が兎の形をしていた。
ちなみに、キャラ弁は、父が挑戦しようとして、土日に練習していたが無理だったらしい。
亮だけが、弁当ではなく、購買で買ってきたらしき総菜パンと日替わりのデザートだった。
今日の日替わりデザートは『コーヒーゼリー』と『紅茶ゼリー』だったらしく、たくさん買ってある。
じつは、亮は『コーヒーゼリー』や『紅茶ゼリー』などが好きなのだ。
もちろん、コーヒーや紅茶も好きなようだが。
『紅茶ゼリー』が購買で売ってる時があるって知った時の類はすごかったな。
亮に、「お金払うから、『紅茶ゼリー』十個買ってきて」って言いだすんだもん。
その買ってきてもらった『紅茶ゼリー』十個を一人で食べちゃうし。
さすがに、毎回食べてる亮ですら、びっくりしてたな。
そのあと知ったんだけど、どうやら類も紅茶とかが好きらしい。
そんな共通点があったため、類と亮は、さらに仲良くなっていた。
皆の弁当を見ていると、どうやら準備が終わったらしい。
そのことを見図ったように、美音が手を合わせる。
「じゃあ、いただきます」
美音の後に続いて、私たちも手を合わせた。
「「「いただきます」」」
それからは、亮が大量に買ってきていたゼリーのおすそ分けをもらったり、そのもらった分、各々、亮に何かおかずなどをあげたり、美音のキャラ弁の写真を撮らせてもらったりなどした。
亮におかずをあげるのは、お金を渡そうとすると、
「お金じゃなくて、おかずとかでいいから、食べれるものをくれ」
と言い出すからだ。
私は、一通り食べ終わり、ゼリーを食べる前に林檎を食べようと容器の蓋を開けると亮が話しかけてきた。
「林檎の皮がウサギ型だ。もしかして、絵菜が自分でやったのか? それとも、母のほうか?」
「ううん、違うよ。お父さんがやったらしい」
「えっまじかよ」
「ウサギ型の林檎できるようになったんだ。すごいじゃん。えなちゃんのお父さん」
美音が、コーヒーゼリーを食べるのをやめて、会話に入ってくる。
「うん。少し歪なところもあるけど、でもきれいに切れてるからすごい。ちょっと食べるのがもったいない気がするけど」
「気持ちはわかるよ。だって、料理というか弁当作り始めてから、まだ二カ月ぐらいしか経ってないんでしょ。そう思うと本当にすごいよね」
美音が自分事のように感動していると、正面で、紅茶ゼリーを食べている類がボソッと何かを言った。
「僕も練習すれば......」
でも、私には聞こえなかった。
ただの幻聴かもしれなかったので、本人に聞くのはやめておいた。
それに独り言に反応された時の対処方法に困るのも知っている。
だから聞かなかったことにした。
それからは、封筒のことについて少し話したが、結局分からないまま家に帰ってきた。
家でも、政近と少し話したが分からなかったし、政近が受験生ということもあって、長くは、話せなかった。
そんなこんなで、もう夜、というか深夜の十二時だ。
私は、ベットで横になりながら、今日あったことを振り返りつつ、封筒のことについて考えていた。
『色』が関係があって、お守りには文を読めるのは、『赤かそれ以上』って書いてあった。
私と類が読めるのは、その『それ以上』に入っているからなのかな。
だとしたら、政近はどうなるんだろう?
そんなことを考えているうちに、私は睡魔に襲われ、眠ってしまった。
その日見た夢は、幼いころからよく見るあの夢だった。
類が転校してきた日に目た時と同じ夢。
世界は、灰色に染まり、崩れていく。
そんな中、一つの美しい声が崩れていく世界に、響きわたった。
「······この世界を頼みましたよ」
「私の愛いとしの子ども達」
いつもだったらここで終わるはず。
でも、今回のは少しだけ違った。
最後に、小学四年生ぐらいの少年と少女が出てきたからだ。
この夢を見る日には必ず、何かが起こると昔から決まっていた。
良いことも。
悪いことも。
類のこともそうだ。
この夢を見た日に、類が私たちの学校に転校してきた。
だからきっとこの夢も、何かが起こると予言しているのだろう。
もし何かが起こるのであれば、『良いこと』が起こってほしい。
私は、夢の中でそう願った。
今日、起こることが、人生最大の事件だとも知らずに。
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