第七話 封筒の中身
類が転校してきて、数日が経った今日、あることを除けば、いつも通りだった。
その、『あることあること』というのは、例の『謎の封筒』のことだ。
『謎の封筒』を調査するべく、私たちは、放課後に私の家に行くことになっている。
いや、なっていたと言うべきか。
そんな私たちが今、何をしているかというと、みんなで仲良くゲーム大会中だ。
「よっしゃ! またしても俺の勝ち!」
「絶対いかさましてるでしょ! 不正よ、不正」
「美音の賛同かな、僕も」
「いや、してないし。というか、類まで疑ってくるのか。少しショックなんだが。そもそもハンデあげただろ」
亮が、落ち込んでいると、そこの追い打ちをかけるように、美音が言葉を紡いだ。
「うぅ、そうだけど! でも勝ってるってことは、やっぱり不正してるって!」
「それは単に、美音ちゃんたちが弱いだけでは?」
そう言うと、二人とも言い返せないらしく、逆に亮は感激していた。
「やっぱり、絵菜は古い付き合いってだけあって、わかってくれてるな」
「古い付き合いって?」
「あぁ、類は知らないもんね。えなちゃんと亮は幼馴染で、家が近くなの。ちなみに私は、中学校からの親友って感じかな」
「そうなんだ。説明、ありがとう」
「うん、ってそれよりも、もう一回やろう! 今度こそ、勝ってやるんだから!」
どうして今こんな状況になっているかというと、遡ること数十分前。
私たちは、業後に私の家へと集まった。
というか、皆で直行した。
「ただいまー」
「おじゃまします」
「おっじゃまっしま~す! ここが、えなちゃんのお家なんだ! 何気に来たことなかったから、来れて嬉しいかも」
「お、お邪魔します」
各々、玄関で靴を脱いでいると、お母さんが、リビングのドアから顔をのぞかせていた。
「お帰り~、って思ってたよりも、お友達、連れてきたのね。遊んだりするの?」
「うん、まぁそんなとこかな。でも、大事なこともあるから」
「そっか~、じゃあ、リビングにお茶とお菓子持ってくるね。あと、ゲーム機ならテレビの近くにあるから、遊んでいきな」
といった感じで、言われるががままやっていたら、この有り様というわけだ。
どうやら、中々、友達を家に連れてこない娘が突然メールで『今日、友達を家に上げたいんだけどいい?』と聞いて、本当に家に連れてきたことがよほど、嬉しかったのだろう。
だからなのか、お菓子やゲームなどの準備が整っていたことに私は驚いていた。
が、今はそれどころじゃなくて、どうにか、あの封筒のことに、話題を戻さないと、と思っていた。
幸いにも、お母さんは、『自分の部屋にいるから』と言って退散していったし、兄は、まだ学校から帰ってきていない。
お父さんに至っては、仕事で、いくら定時帰りだといっても今の時間帯は早すぎるので、帰ってくることはまずないと思う。
だから、今、言わなければいけない、チャンスを逃してはいけないということはわかっているが、楽しそうな三人を見いていると、どうにも言い出せなかった。
そんな、戸惑ってる私の心を読んだかのように、類が口を出した。
「というかさ、僕たちなんでこの絵菜の家に集まったんだっけ?」
「えっと、『謎の封筒』の中身を調べるために、絵菜ちゃんのおうちに来ただったと思う」
「だよな。だったらさ、早く開封して、中身を確かめないといけない気がするんだけど。それに、そのあとの考察とか解析が大事なんだから」
「それもそうだな。すまん、封筒のことすっかり忘れて、遊びほうけてた。それに、せっかく絵菜が気を使って、誘ってくれたのに」
「私からもごめん」
皆、申し訳なさそうにしている。
本当に、根っからいい子だからなと感心しつつも、自分も遊んでたしと自分のことを責めた。
「ううん、いいよ別に。私も遊んでたし、それに、声もかけられなかった。類が、声を掛けてくれたからよかったけど」
私が申し訳なさそうにすると、三人とも申し訳なさそうにして、結局のところ沈黙が続いた。
そんな流れを変えようと、私は、三人に封筒を出すように促す。
「とりあえず、封筒を出さない? 私から開けるから」
「いや、それなら一斉に開封した方がいいんじゃないか」
「賛成!」
「じゃあ、『せーの』で開けるといいと思う」
「分かった。じゃあ、いくよ」
私の声に反応して、各々自分の封筒を開ける準備をする。
それを確認してから、私は、合図を送った。
「せーの」
同時に開かれた封筒の中身には、みんな同じようなものが入っていた。
「お札?」
「これ、お札じゃなくてお守りみたい」
「確かに『合格祈願』って書いてある」
「じゃあ、ただ、大学とかに受かってほしいためだけに先生たちが送ったプレゼントってこと? だとしたら、大ごとにするまでもなかったね」
美音ががっかりしていると、私の隣に座っていた類が、美音の言葉に反応した。
「美音、それは少し違うかもしれない。これを見て」
類が、指をさした先はお守りの『合格祈願』と書かれた後ろの文字だった。
「なんか書いてあるぞ」
「亮の言う通り、文字が書かれているんだ」
「本当だ! どれ、どれ」
美音は、前かがみになってその文を読み始める。
「じゃあちょっと読むね。えっと、『まずこの文字が読めているそこのあなた。初めましてかな? とりあえず、今きっと疑問に思っていることがあると思う。それはきっと、なぜ、封筒の色が違うのか。そして、その封筒の色が違うのは、なぜ、他の誰にも見えていないのか。ということだと思う。このお守りには、長文が書けないから、理由を端的に書くけれど、それは、神に近い存在だからという理由かな。封筒の色は、たぶん赤だと思うけれど、それよりも上は、さすがにいないか。とにかく、この文章を読めているあなたなら、きっとこの意味を解読できるはず。私も、いつかあなたに会うことになると思うからその時は、よろしくね。最後に一個、忠告。これはあくまでも、起こるかもしれない、未来の話だけど、胸に止めておいて欲しい。神に近い存在を狙うやつらが、あなたを襲うかもしれないということを。』で終わりかな。さすがに長文読んだから喉乾いた。」
美音は、お母さんが出したお茶を一口飲んで、のどを潤している。
「つまり、俺たちは『神に近い存在』だから、襲われないように気をつけろよ。ってことか。というかなんでお前、読めるんだ? 俺には、封筒の色と同じで、読めないんだが」
「だからじゃないかな。亮、封筒の色と同じに見えるってことは、美音には、僕のお守りが白に見えているってことだから」
「そうか。というか、赤は出てきたのに、白は出てこなかったんだな」
「それと、『神に近い存在』って何なんだろうね。何か分かった? えなちゃん」
お茶を飲み終えた美音は、会話に参加してきて、私に話題を振った。
「多分だけど、『神に近い存在』って『巫女さん』とか『天使』とかなんじゃないかな。それと色については......」
『ガチャ』
私が考えを話している途中で、玄関が開いた。
「ただいま」
どうやら、玄関を開けたのは兄だったらしい。
しまった。
今日、一斉下校ってこと、すっかり忘れてた。
これからリビングに入ってくるであろう兄に不安を覚えた。
この話、聞かれても大丈夫かな?
なぜ、そんなことを気にするかって?
それは、自分の部屋があるにも関わらず、かたくなにリビングから出ようとしないのが、私の兄だからだ。
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