第三話 部活勧誘
昼休みが終わり、家庭科室へ移動した私達は今、裁縫をしていた。
私の正面にいる不器用ながらも必死になって、針に糸をとうそうとする類を見ながら、私は、自分の作業をした。
私は裁縫をしながら、ふとさっきの昼休みでの会話を思い出していた。
家庭科の授業が始まる少し前、私達は話しがなかなか尽きずに話し込んでいた。
そんな中でこんな会話があった。
「僕、イラストというか、絵を描くことも苦手なんだよね」
「そういえば、えなってイラスト描くの得意だったよね」
「う〜ん 得意というか、好きな事のほうが当てはまるかな」
「じゃあ、僕の苦手な料理も出来て、絵も描けるってこと?」
「それだけじゃないぞ。裁縫も出来るし、楽器も吹けるんだぜ」
また、亮は仁王立ちをして、自慢げに言った。
自分のことじゃないのに。
美音もそう思ったらしく、
「なんであんたが自慢げなのよ」
美音は、怒りをあらわにしながら、怒りっぽく言う。
「別に良いだろ! どうせ、俺は行動力だけが取り柄なんだから」
「そういうところがいけないからモテ無いんじゃないの? もっと類を見習ったほうが良いよ! そういえば、そんな言葉があったような……そうそう! 『爪の垢を煎じて飲む』ならぬ類の爪の垢を煎じて飲ませたいだね」
美音が人差し指をたてて、得意げにしていると、亮も負けじと美音に言いかえした。
「類はいい奴だし、別にいいんだけど、お前は一言余計だ! それこそお前に絵菜の爪の垢を煎じて飲ませたいわ」
「えっ! えなちゃんの爪の垢飲めるの? やった〜! えなのなら喜んで飲む〜」
「お前、本当に良いのか? というか、そのうち絵菜に引かれるぞ」
亮がいつものように美音を煽ったので、私も亮に乗っかってみることにした。
「もう十分引いてるから、大丈夫」
「っえ! わ、私が大丈夫じゃないから〜! 引かないで〜!」
美音は、涙目になりながら駆け寄ってくる。
それから、私に抱きついてきた。
私は、美音をなだめるようにして、頭を撫でる。
「ごめん、ごめん 冗談だから」
「本当に冗談? 引いてない?」
美音は、私に抱きついたまま、顔をあげた。
そして、上目遣いで私を見てくる。
「うん、本当、本当だから 引いてないよ」
「良かった〜! 本当に引かれて、嫌われちゃうのかと思ったよ〜!」
「あは、ははははは……」
私が苦笑いをしていると、亮が皆が思っていそうな疑問を類にぶつけた。
「そういえば、類は、どの部活に入るんだ?」
「あっ、それ私も気になってた!」
「う~ん」
類は、腕を組み、顔を斜め上に向けて悩んでいた。
「前の学校は、部活に入らなくてよかったから、帰宅部だったけれど……」
「この学校は、1年生は、強制だからね」
「うん…だから、みんな、どの部活に入っているのか知りたくて」
類が質問をすると、真っ先に亮が答えた。
「俺たちは、軽音部に入っているんだ」
「俺たち?」
「うん! 1年生だと私とえなちゃん、亮、それから他のクラスの男子がいるよ」
類は、混乱しているようで頭の上に?がたくさん浮かんでいるような顔をした。
「…? 亮のことだから、運動部に入っていると思ってた。それから絵菜は、吹部とかだと思ってたし」
「あー、言いたいことは分かるけど、私が軽音部入りたいって言ったら、美音も入るって言うし、何故か亮も居て驚いた記憶があるな~」
「そうなんだ、部活どうしようかな……」
美音が勢いよく手を挙げた。
「はいは~い、じゃあ類も軽音部に入ればいいんじゃない!」
「おいおい、さっきそれで類、困ってただろ」
「あっ、そうだったね。ごめん」
美音が亮に注意されてバツが悪そうにしている。
「大丈夫だよ。それに、元々みんなと同じ部活に入りたいと思ってたところだから。でも、軽音部というと曲を作ったり、楽器を演奏したりするんでしょ? 僕は、不器用だけど大丈夫かな?」
「それこそ大丈夫だろ、この俺ですらできるんだから!」
「それは、自慢することではないと思うんだけど」
相変わらず、亮の言葉につっこむ。
そんな様子を見ていた類は、決意したようで、
「軽音部に入ることにする。だから、これからよろしく」
「うん、よろしくね」
「よろしくな」
「よろしく〜」
「じゃあ、顧問に言いに行ったり、申請書を書いたりしないとな!」
そんなこんなで、亮に連れて行かれてしまう、類とその後を追いかける美音。
その様子を見ていた私は、あることを思い出した。
「そういえば、次は移動教室じゃ………まっいっか」
私は、皆の後を辿るように追いかけた。
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