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第十八話 呪いの解呪

 私にはいくつも疑問が出てきていたが、今はそんなことはどうでもよかった。

 今、やるべきことはただ一つ。

 穂乃花先生の呪いを取り除くことだ。

 敵がどんな狙いで穂乃花先生に呪いをかけたのかも、さっきのテロリストたちと術者が関係あるのかも分からない今、下手に動くべきではないといわれたらそれもそうだと納得してしまうだろう。

 それに解呪をすることで、私たちの存在を暴くことや力量を図ろうとしているのであれば、相手の作戦に乗ってしまうことになる。

 だからといって、穂乃花先生を見殺しにするということはできない。

 確かに、この学校に通ってまだ日が浅いし、穂乃花先生のこともあまりよく分かってはいない。

 それでも、私たちの担任で困っているときは必ず手を差し伸べてくれる、そんな良い先生だということは、この二か月間でもよく分かった。

 私たちは、穂乃花先生に何度も助けられてきたにもかかわらず、仮に助けるすべを持っていたとして、自分の安全の方が優先だからと言って、それを使わないないで見殺しにするという恩知らずにはなりたくないし、私には到底なることはできない。

 自分の命が大切じゃないと言ったら嘘になる。

 けれど、それよりも大切なものがあると私は前世でも現世でも常々思う。

 どうやら、今まで前世の記憶を失っていたが、思考は変わらないらしい。

 それに、命は安くはないし、簡単に失ってしまうものだけれど、簡単に失ってはいけないものでもあって、でも、私は急所を突かれても心臓や頭を貫かれても『死ぬ』ということができないのである。

 もし、『死ぬ』ことがあってもその場で自己再生をして生き返るか、転生をしてしまうかの二択である。

 ようは、『不死身』ということだ。

 それが、私と類にかけられた『呪い』だから。

 この『呪い』は、きっとどこを探しても解呪することができるものはいないだろう。

 いつだったか忘れたが、実験と称して何度も切り刻まれるなどされたこともあったような気がする。

 それでも、『死』というものは実感できなかったが。

 だからこそ、穂乃花先生を解呪して、何か騒動がまた起こるようなことがあればそのときは、私の命に代えても皆を助けよう。

 それはきっと、私が持ち込んでしまった、騒動だから。


 私がずっと真剣に考えごとをしていたことが周りの人からは、逆に心配をさせてしまう結果になってしまっていたらしく皆こちらを心配そうに見ている。


「絵菜さん、もし私のことで悩んでいるようなことがあれば、気にしなくてもいいですよ。たとえそれが、命にかかわるようなことだとしても」


 穂乃花先生、命にかかわるようなことだとしたら余計に心配させると思うので、その言葉はちょっと違うと思いますよ。

 私は、思ったところがあったが口にはしなかった。

 それに、私は穂乃花先生のことを心配はしているが、皆が思っているようなことには多分ならないと思うからそんなに私のことを心配しなくてもいいのに。

 まぁ、相変わらず類には私が何を考えているのか見破られているようで、特に心配をしているようではなかったが。

 さずが、前世双子だっただけはある。


「絵菜、あ......ごめん。呼び方、『姉様』の方がよかった?」

「別にどっちでもいいけど、多分『姉様』だと皆が混乱して話がややこしくなるから今まで通り『絵菜』でいいよ」

「それなら、分かった。じゃあ、改めて絵菜、鈴木先生のこと助けられそう?」


 黒月をなでていた手を止め私の方を見る類。

 私と類、それからなぜか私と黒月でも視線が交じり合う。


「必ず! とは言えないけれど、多分できると思う」

「そっか。じゃあ任せる。この手の者は絵菜の方が得意だからな」

「そうだけど、そんなこと言われたらちょっとプレッシャーが......」

「それでも()()()()なんだな」

「まぁね。」


 私は、類と会話を済ませると穂乃花先生の前へ行き、向き合った。

 穂乃花先生はさっきの話の内容を理解しきれていないようで、混乱しているようだった。

 まあ、無理もないか。

 だって、突然テロ事件が起こったと思ったら、魔法を使えるという生徒は現れるし、それが終わったら次は『呪いがかかっている』って言われ、それも、自分のせいで悩ませているのではないかとすごく心配をしていた生徒に『解呪できる』と言われ、事件が起きてもすぐに解決される様を見ていれば頭が追いついていかないのも納得がいく。

 私でも、同じ立場だったら混乱するだろう。

 だけど、混乱されたままでは少し困る。

 魔法を人にかけるということは、本来、魔法をかける人に術者は許可を取ってから魔法を掛けなければいけないのだ。

 人に魔法をかけるということは、それだけのリスクが伴う。

 成功すれば後遺症なども残らずに済むが、失敗すれば後遺症が残るかのせいもあるし、場合によっては意識不明になったり、亡くなってしまう人もいる。

 解呪の魔法をよく扱ったりする人たちは、細心の注意を払っているのと経験が豊富のためよほどのことがなければ失敗はしないが。

 けれど、今回のばっかりは彼らでも難しいだろう。

 とにかく、今から私がやろうとしている『呪いの解呪』についても同様で、魔法を使って解呪を行うため許可が必要となる。

 だから、私は穂乃花先生に対してしっかりと今からすることの説明と同意を求めた。


「今から、穂乃花先生にかかった『呪い』の解呪を行おうと思うのですが、穂乃花先生、魔法を穂乃花先生にかけてもいいですか? 魔法をかけなければ、呪いを解呪できませんが、魔法での解呪に失敗すると後遺症などが残ったり、最悪の場合、死に至ることもありますが。」

「......っちょっとだけ考えさせてくれるかな」

「もちろんです」


 顎に手を置き考えるようなしぐさをする穂乃花先生。

 ぶつぶつと聞こえないように独り言を言っているつもりなのだろうが、私にははっきりと聞こえていた。

 普通の人だったらきっと、聞こえていないだろうが。

 でも、さすがにプライバシーというものがあるから聞かなかったことにしよう。

 どうやら、決まったようでこちらをまっすぐ見てくる。


「じゃあ、絵菜さん、解呪、よろしくお願いします。やらなくても危険で、やっても危険なら成功することにかけた方がいい気がするし、それにうまく言えないんですが、その、絵菜さんならできる気がしたので」

「分かりました。では、始めます。その場で立っているだけでいいので」


 この場にいる全員が息を呑んだ。

 もちろん私も。

 私は、大きく息を吸うとゆっくりと息を吐いて深呼吸をした。

 それから、目の前で目をつぶって待っている彼女を見た。

 さっきまで普通に見えていた彼女は、今見ると体全体に黒い霧のようなものでおおわれているように見えた。

 きっと、私の目の色は、焦げ茶ぽい黒色から桜色へと変わっているのだろう。

 私は、穂乃花先生の方へ手のひらを向け、そこから私の魔力を穂乃花先生に流すようにする。

 すると、桜色がほんの少し混じった白色の魔力が、穂乃花先生を包む。

 私は、穂乃花先生に向けて魔力を流しながら、呪いが解けますようにと願った。

 ついでに、穂乃花先生に、皆に危険が及びませんように、もし危険がせまったら守りますようにとも願っておいた。

 すると、私の魔力は、私の意志に反応したかのようにこの教室にいる全員を包んでいく。

 その後、眩しい光が私たちを包んだかと思うと、次の瞬間、私の魔力は分散し、桜色が少し強くなった魔力が桜の花びらのようにひらひらと舞い降りていった。

 穂乃花先生の方を見ると、私の魔力を帯びてはいるが、『呪い』の基となった黒い霧のようなものはなくなっていた。

 どうやら、上手くいったらしい。


「綺麗」


 穂乃花先生は、思わずつぶやいてしまったらしく慌てて口を手で塞いでいる。

 私の魔力を纏ったことで、魔力が見えるようになったらしい。


「本当だ! これって絵菜ちゃんがやったの!?」


 はしゃぐ絵菜に対して、この光景を目に焼き付けるようにしている亮と海莉。


「きれいだな」

「うん、自分もそう思う」


 兄は、桜のような魔力を捕まえようとしているが、魔力なので到底つかめはしない。


「くっそー! これ取れないじゃないか!」


 まるで猫だなと思うと、思わず笑みがこぼれた。

 猫の姿をした精霊の黒月はというと、類のあたまの上に乗りただ見ているだけだった。

 猫の姿をしているのに、行動が猫じゃない。

 黒月は、その後類の頭から飛び降り、この光景を少し離れたところで見守っているミシェルのもとへと行った。

 類はというと、魔力なんか気にも留めずこちらを見ている。


「成功したみたいでよかったな」

「うん!」


 類は、私に向けて微笑みかけてくる。

 私もつられて、類に対して微笑みかけた。


 桜色の世界で、私たちは、今日のことを忘れ、ただただこの景色を、光景を楽しんだ。

 面白かった、また続きが読みたいという方は、ブックマーク、いいね、評価など宜しくお願いします。

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