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御伽話の魔法使い  作者: 薄霞
一章
9/79

5 一日目終了

 

 日もすっかり落ちた頃、リンクスはエレナと共に食堂で夕食を摂っていた。

 ロティオンとの電話によって落ちた気力も一眠りしたことですっかり回復し、エレナに夕食時の食堂の使い方を伝授して貰い席に着く。


「夕食は形式がめんどくさいね」

「リンちゃんっ、しー! 聞こえたら睨まれちゃうよっまだ何人か居るんだから気を付けて!」

「ごめんごめん」


 エレナは慌てて身振り手振りも使いリンクスを嗜める。リンクスは不満そうな顔のまま渋々口を閉じた。

 昼食は食券で手早く、時間も席も気にせずに食べられるというのに、夕食は色々と不自由だ。

 めんどくさいと称する理由の一つに、身分の高い人から優先で夕食を取るので平民は夕食の時間が遅くなることが挙げられる。

 何故身分で時間が決められたのかというと、学園にはかつて夕食でマナーの勉強をする、という貴族達が始めた取り決めがあった。そんな堅苦しい晩餐に付き合わされ、恥をかかされた平民組から不満が出たことが始まりだそうだ。

 リンクスは、夕食の時間が授業みたいになる面倒を防いでくれた名も知らぬ革命児に手を合わせ感謝をした。


「そういえばエレナちゃん。幼馴染の男の子とは一緒に食べなくていいの? 私はエレナちゃんと一緒で助かってるけどさ」

「……ここに来た初日は一緒に食べたんだ。でも、もっと上の爵位の貴族のお嬢様に絡まれて、婚約者でもない異性が親密に食事するなんて! って言われてお互い別々に」


 リンクスが軽い気持ちで尋ねると、もう既に貴族に絡まれていたことが発覚した。エレナが貴族に対して過剰に反応する理由も判明し、これに関してはご愁傷様としか言えない。

 婚約者でない異性と二人きりで食事するのは、慎みがないという古めかしい常識の者が未だ懐古主義者にはいるのだ。特に女性には厳しい目を向けられる。

 リンクス自身は、表に出る時にローブのフードか帽子を被った上に幻覚魔術などで姿を眩ませているおかげで、今回のような異性問題で絡まれることはない。

 リンクスの性別を知らないのだから、起こしようがないのだ。


「……もう絡まれないといいね」

「うん、そうだね……絡まれるのは懲り懲り!」


 明るく気丈に振る舞うエレナの表情が、一瞬悲しげに揺れていた気がしたリンクスは、話題を悲しい話から楽しい話に変えようとする。


「エレナちゃんは明日から見学いく? それとも明後日?」


 ラーヴァの話では入学式の翌日は、一年は休みで放課後にクラブ活動が見学可能になるだけと言っていた。今週に限り、全てのクラブが毎日開催されるらしい。

 慎重に選びたい人は早速明日から見学するのだろう。

 選択したクラブは平日の五日間ではなく、土の日に行われる授業扱いとなり翌日の太陽の日は完全に休息日になる。

 七日で一週間なので、実質的に休みの日は一週間に一日のみだ。これらは古代王朝時代の占星術によって決められたらしいが、現在でも使われている。


「明日から! 魔術以外にもいっぱいクラブあるから色々なところを見て回るつもりだよ!」

「気合い入ってるね〜私はなんか楽なやつにしようかな〜」


 部下達にも聞いてみればよかったと今更悔いているリンクスに、エレナは不思議そうに話しかける。


「リンちゃんは、魔術関係のクラブじゃなくていいの?」

「え? どうして?」

「大抵のスカウト組は魔術の腕を見込まれて入学してるから魔術系を選択してると思うよ」


 確かに普通の入学であれば魔術と関係のないものも自由に選べるだろうが、リンクスの立場なら魔術系のクラブを選択するというのが適切だ。


「それに、リンちゃんはもう隊員なんでしょ? 多分魔術系クラブから、わんさかお誘いが来ると思う!」


 隊員どころか隊長だ、と思わず言いかけたリンクスは誤魔化すためにエレナの発言に笑い返そうとした。だが、無理して笑おうとしたせいで口元がヒクヒクしている。


(やっぱり私この任務向いてな〜い)


 リンクスは、人に対して良くも悪くも正直に生きてきた。

 身分も種族も関係なく等しく素直な言葉で、接してきた生き方を今更変えることなどできない。

 

「まあでも、来週一番大事なのは新入生オリエンテーションだよね」


「オリ? ……って何やるの?」


「そんなの魔術対抗戦に決まってるよ! この学園は魔術対抗戦の多さも売りなんだからっ」


 ――魔術対抗戦とは、特殊な魔術結界に覆われた空間内で魔術を用いて行われる対決のこと。

 三年に一度行われる『決闘』や魔術師団の訓練においてよく使用されるが、設置が大変難しく基本的には数人の魔術士が数日かけて場所を整える。結界の構築には繊細な魔力操作が必要だからだ。

 結界内に入ると魔術士には特殊な魔術が付与され、この魔術は結界内での損傷を全て自分の魔力の減少へと変化させることができる。

 そして、自分の魔力があらかじめ規定された量よりも落ちたら即時に結果の外に転移する仕組みだ。

 この死人の出ない戦争は、国を跨いで大陸の主要となった。物理的な攻撃が無効になるのは双方とも得だからだ。

 今では小さな小競り合いすらも、この結界を用いての魔術勝負で解決するほどである。


「ちなみに来週行われるのは、タッグ戦だよ!」


 魔力の規定値や入れる人数、種目などルールを柔軟に変えられるので、この学園では様々な種類の対抗戦が行われているらしい。

 リンクスも師団でよく行っていたので慣れていたが、普通の学生がどれほどの力を持っているのか想像もつかず、違う意味で不安がある。


「タッグか〜……っあ! もしかしてさっき言ってた男の子と出るの〜?」

「なっ! な、なんでわかったの!?」

「ふふ、女の勘ってやつよ」


 茶化そうと思ったら事実を当ててしまったらしい。


(この台詞クロエちゃんが言っててカッコよかったから一度使ってみたかったんだよね!)

「びっくりしたぁ……実はね、お互い魔術面の相性もいいしタッグ戦は組もうって前から約束してたの」

「二人組の対抗戦は相性と連携が物を言うから、気心知れた人と組むのはお嬢様達だって文句言えないし良いと思うよ。私はどうしようかな〜」

「あ、もしペアが決まらなかった場合は先生が相性を考えて決めてくれるよ!」

「それならいいや。クラブに関しても急ぐことはなさそうだし休みを満喫しよ〜」


 その後もなごやかに楽しく食事をし、二人は親交を深めていった。


 一日目から王女に話しかけられるハプニングはあれど、中々に充実した一日を過ごせたのではないかとリンクスは自負している。なにせ友達が出来たので。

 定期的に出すように言われた報告書に、まるで日記を書くように今日の事を記した。

 ラーヴァに変に取り繕わず正直に書いてあるところは好ましい、と褒められた報告書の出来はその頃と変わらない完成度だ。

 明日は昼間のうちに、エレナと寮の外にある施設街に遊びに行くことになったので、リンクスは早めに布団に潜り込んだ。

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