表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
御伽話の魔法使い  作者: 薄霞
四章
83/83

15 第四部隊の力



「北班。前方距離三百に、水棲の魔獣がいるみたい。湖からの奇襲に気をつけて」

『了解』

「南班。南西距離二百あたり、地中に潜ってるやつがいるよ。多分土竜。ネストルとは相性良くないから森の方には行かせないように」

『かしこまりました』


 耳にかけた小型通信魔道具越しのやり取りに、一切の無駄はない。

 あちこちで火柱や暴風が巻き起こり、各方面に配置した第四の隊員達は、順調に魔獣の数を減らしている。

 王都上空にいるリンクスは、その様子を杖に腰掛けながら見下ろしていた。


「そこまで強い魔獣はいないみたい。治癒魔術を使う必要もなさそう」


 リンクスの担当は全体の指揮、偵察、補助……そして首謀者の捜索だ。

 誘拐犯の言葉、きな臭いルシゴロドの状況、怪しげな魔道具から導き出された犯人――魔獣を操っているだろう男の顔を、魔力を、リンクスは知っている。


「あいつはどこに……」


 戦場を見渡してもそれらしい者はいない。

 リンクスは己の記憶を掘り返した。


 男の名は――ブネ。人形工房の生き残りにして、世界大戦におけるルシゴロド最後の兵。

 一騎当千の強者であり、世界中を苦しめたブネの魔法は「魔獣を使役する」というもの。

 魔獣の中でも最上位種の竜などは操れないようだったが、中級以下の魔物の軍団を配下にし、ほぼ一人で街を落とし続けたのだ。

 彼も被害者ではあったが、その危険性から魔法を封印され、生涯幽閉が決まっていたはず。


「うん。大丈夫、ちゃんと憶えてる。これはあの男の魔法だ」

 

 間違えるわけがない。リンクスの部隊がブネと衝突し勝利したことで大戦は終わったのだ。

 操られた魔獣の獰猛な様子、そして仄かに香るあの男の魔力……全て記憶と相違ない。


「……あっそういうことか! なんであの時、すぐ気付けなかったんだろ。あの魔道具は、魔法を遠隔でも発動させる為の補助具の役割だったんだ…………あれ? なんか魔獣、増えてない?」


 最初のリンクスの攻撃で半分ほど減らしたと思われた魔獣の数が、何故か元通りになっている。最初に観測した数と変わらないのだ。


「どっから湧いたか謎だけど、あの男を無力化しちゃえば魔獣達は止まる……でも肝心の本人が見つからな〜い!」

『隊長! なんか魔獣増えてる気がするんすけど、気のせいっすかね!?』


 隊服のポケットに入れた端末から、地上で戦っているアディの声が聞こえる。

 通信機の音声拡張モードで話しているのか、爆発音と魔獣の断末魔も聞こえてきた。


「気のせいじゃないよ!」

『やっぱり! 気のせいがよかったっす! てかどゆこと!?』

「ごめん私にも分かんない! 見た感じ魔獣の側からさらに魔獣が生えてきてるっぽいんだけど……ほんと訳わかんな〜い!」


 泣き言を言いたくなる気持ちになるのはしょうがないだろう。謎すぎる状況だ。


『そんな意味わかんねぇ生え方する魔法ハーブみたいなことあります!? 魔獣って卵生じゃね!?』

「いや、胎生の魔獣もいるよ。自然発生系もね」

『隊長! 今重要なのはそこではありません!』


 セルジオからツッコミが入る。魔獣を切り捨てながら器用なことだ。

 有効な策など思いつかぬまま悪戯に時は過ぎてゆき、王都周辺はあちこちに魔獣の亡骸が落ちていて、なかなかに酷い光景となっている。


「もしかして、相手のストックを削り切るか、なんらかの対策をしないと無限湧き……ってこと?」


 どんなに相手が弱くとも、このままではジリ貧というもの。余裕のあるうちに策を練らなければ。


「…………いや、別に私が考えなくても良くない? 頭脳班の手が空くまで戦って待とう」


 襲撃が永遠であったとしても、パレードが終わるまで持ち堪えるなど容易いこと。

 第四部隊はアルカディア王国最強の魔法部隊なのだから。


「みんな〜なんか魔獣が際限なく増えてるんだけど、解決策とか分かんないし、とりまパレード終わるまでこのまま戦って〜。やってるうちに生えてこなくなるかもだし!」

『隊長雑っ脳筋!』

『えっ。パレード終わるまでって、具体的にいつまでですか!?』

「分かんない!」

「「隊長〜〜っ!!!」」


 地上から非難の大合唱が聞こえた。

 実は直近のリハーサルに参加しないと、第一と第三以外はパレードの所要時間すら分からないのだ。

 第四部隊は今年、休暇の者を除き全員王宮の警備か王都周辺の見回りに配属された為、リハーサルに誰も出ておらず所要時間を知る者はいなかった。


『そもそも上演時間は固定だと思っていました。毎年変わってたんですね』

『第二のリハなんて見に行くわけないよな。就業時間外に嫌いなやつらに会いたくねぇもん』

『おれも分かんないや……すみません引きこもりで』


 ネストルもリハにわざわざ顔を出す人物ではない。重要でない会議ならよくすっぽかしているネストルが、任意参加のリハーサルを見に行くわけがないのだ。


「流石は社交性の無さランキングツートップの部隊だね!」

『なにそれ不名誉過ぎん!? ランキング製作者誰! 絶許!』


 ネストルが杖を無意味に振り回し憤慨している。だが、不名誉もなにも事実なのだから受け入れるべきだ。


『くっ……第二との不仲がここに影響してくるとは……』


 ビオンが悔しげに喉を鳴らすが、リンクスはそれを呑気に笑い飛ばした。


「大丈夫だよ。もし長期戦になっても、かかる時間も難易度も、北方のスタンピードの時よりマシ」


 自然の脅威と戦いながら魔獣と戦うのは骨が折れる。アルカディアの北方は、ランタン型の暖を取る魔道具で済ませられる王都の冬とは違うのだ。


「おそらく近くにブネはいない。魔道具を介して遠くから魔法を使ってるんだと思う。厄介この上ない状況だね。でも……」


 リンクスは語りながら槍を召喚していた。見た目の美しさとは裏腹に、魔力を煮詰めたような禍々しい迫力のある二又の槍だ。

 リンクスが真の得物を手にした――これこそが、リンクスが本当の戦闘モードに切り替えた合図。

 戦場に立つ全員に、高らかに告げる。


「私たち、修羅場なんていくつも潜ってきたでしょ? さぁ! 今こそ第四部隊の力を見せる時だよ!」

『はいっっ!!!』


 自分達の長の本気を感じ取った隊員達は、小気味よい返事で戦場を掛けていった。

 





リハーサルを師団の別部隊に公開してるのは、主に当日パレードを楽しむことができない隊員のためですが、毎年第四部隊と第七部隊は参加率が低いです。

第一から第三は当日護衛や通行整備諸々仕事がありますので、情報共有も兼ねてリハーサルは参加です。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ