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御伽話の魔法使い  作者: 薄霞
一章
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4 友との会話から発覚した過去のやらかし

 

 エレナと解散し自分の部屋に入ったリンクスは、荷解きをし始めた。とはいえ、あまり荷物も多くない為そこまで時間はかからない。

 夕食の時間を確認するとまだ大分余裕があると気づき、防音の魔術を使うとすぐさまロティオンに連絡をとる。

 そして、ロティオンが応答してすぐに今朝の弁明を必死にし始めた。


「ロティ〜おひさ! 始業式のことなんだけどね! 私は万が一の可能性を考えて施設を見回りしてたんだよ? この私がっ朝から真面目に働いたんだよ? その結果入学式ギリギリ入場になってしまったかもし『うるさい、分かってる』……あ、そう?」


 次から次へと言葉を紡ぎハイテンションで言い訳を重ねるが、途中で遮られた。


『どうせお前のことだ……王女は当日来るらしいし自分も当日に行けばいいや、とでも思っていたんだろう。その上俺には何の連絡も入れず、昨日は宴会でもしてたんだろ?』

「う、……はいそうです」

『そもそも魔力感知なら俺の方が上なんだ。警備も厳重でわざわざリンクスが巡回する必要はない。引き際を見誤って遠くまで行ったら集合のアナウンスが聞こえて、慌てて飛行魔術を使い近くまで来た後に、全力疾走でもしたんじゃないか?』

(うぅ〜、全部当たってる……)


 淡々とした喋り方で言い当てるロティオンの責め方はリンクスに効く。まるで見てきたかのように事実を当てられ、萎びた花のようになっていくリンクスには反論が出来なかった。


「……おっしゃる通り、です」


 その後ロティオンからの小言タイムを終えたリンクスは、現在の学園の勢力図や怒らせてはいけない生徒達の話をロティオンにせがんだ。


『二年ならやはり、我が国の第一王子のアレクシオス殿下、それから帝国からの留学生と極東からの留学生には近づくな。勘付かれる可能性がある。ついでに、こいつらの追っかけ連中が派閥争いしていて醜いから二年には極力関わるなよ。それと……』


 ロティオンの話から二年で起きてるいざこざについては大凡把握出来たリンクスは、それはそれは楽しそうに尋ねる。


「ね〜ねぇ〜ロティ〜〜? イイ男の嫁の座を巡って派閥争いが〜なんて言ってるけど、自分のファンはいないの? 男性では最年少八法士で侯爵家の後継なんて、絶好の結婚相手だよね〜」

『………………』

「おやおや、だんまり? も・し・か・し・て! 図星ってやつぅ〜!?」


 あまりにも鼻につく煽りに、ロティオンも反撃に出ようとする。


『……調子に乗るなよ、団長に報告されたくないならな』

「別に〜今回に関しては私悪くないよね! 同僚が仕事の為に情報を貰おうとしたのに隠す方が悪いよ〜だっ」

『……くっ』

「ま、どうせロティにも同様に争奪戦が女子達で起きて、我慢できなくなったロティが怒って事実上解散したけど水面下ではまだ居るってところかな?」

『よくわかったな』


 ロティオンが感心したように呟いた。


「ふふん! 長年の交流のおかげかな!」


 本当に長い付き合いだ。十年も友達でいるなんて、あの頃は想像もしなかった。

 リンクスに友情を教えてくれたのは、間違いなくロティオンだろうと彼女は思っている。

 まだまだ未熟で魔力を上手く扱えず、独りぼっちで寂しがりな可愛いロティを思い出し、リンクスはニマニマとでも擬音がつくような顔になる。

 それを察知したのかロティオンは話題を強引に変える。


『ところでリンクス。王女と接触したな』

「うん、した。でもあっちから話しかけてきたんだよ?」

『俺だってお前が態々話しかけたとは思っていない。だが、専属の護衛がいるんだから普段は接触を控えろよ。お前が怪しまれたら意味がない。そして王女だけでなく王子にも絶対に正体がバレないようにしろ』

「何で王子にも? 勿論正体を知らない方が良いから隠すけどさ」


 この国の第一王子であっても、今回の任務は知らされていない。

 そして、リンクスは王子にそもそも興味がなく会ったことすらないはずなので、顔すら知らなかった。


『端的に言えば、お前は王子に目をつけられている』


「………えぇぇっっ!! 話したこともないんだけど!? 私王子に何かしたっ?」


『……昔、珍しくリンクス達が逃げそびれた式典後のパーティーで、貴族たちに王弟派か王子派か聞かれた記憶はないか?』


 そう言われたリンクスは、過去の記憶を懸命に記憶の底から引っ張り出そうとする。


「あっ、あったわ。おじさん共に囲まれて最悪だったな」

『あの日は陛下も煩わされていた王弟派と王子派が、最大の衝突を始めてしまった挙句、頭に血が登ったのか不干渉の八法士達にまでどちら側か聞いてくる始末、あと一歩間違えれば大惨事だったんだ。ここまではいいか?』

「うん」


 リンクスはロティオンに説明されながら、大分その時の記憶を思い出してきていた。

 最初の絶対参加の式典が終わったタイミングで友達と抜け出すのが恒例となっていたのだが、その日は失敗してしまい適当にデザートを食べてやり過ごしていたのだ。


『団長やラーヴァさん達は明確な返答を避けていたし、俺は陛下の護衛としてすぐ側にいたので被害はなかった。だが、いつもはとっくに居なくなっているはずの<華燭>と<転変>がまだ会場内に残っているのを見つけると、ターゲットはそちらに変更された。貴族達に囲まれて機嫌の悪くなった<華燭>は、殺気混じりでつまらなそうにこう言った……』


 朗読するように丁寧に語りかけるロティオンの声が恨めしい。リンクスは当時を完全に思い出した。


『どっちでもいい……まあでも、個人的には強くてたくましい方が良いかな。じゃあ王弟派ってことで』


 そして、リンクスはロティオンの言葉を引き継ぐようにかつての自分の発言をなぞり――


「……まあどっちでも良いんじゃない? どっちが王になったとしても心配しなくていいよ――愚かな王になったその時は、全部壊してあげるから」


 リンクスは知らなかったのだ。貴族達には次の王太子を巡り対立が起きているということを。

 リンクスには分からなかったのだ。貴族達の思惑が……!!


「馬鹿じゃん私〜〜! 違うんだよ〜私てっきりせっかち貴族達はもう次の王様について不安に思ってるのかと思ってさ、どっちでも大丈夫だよって教えてあげようと思ったの! 私も早く解放されるし一石二鳥じゃんって!!」

『暫くお前の物騒な話は流れていなかったからな……貴族達はお前にまともな意見を求めるてはいけない、って知らない者も多かった。自分達の派閥に八法士を引き込もうとした両派閥とも顔面蒼白になって、会場も一気に静かになったな』

「気まぐれな優しさが仇になってるっ」


 流石のリンクスも頭を抱えた。今となっては色々とダメだと分かる。だが同時に、何故叱られることも罪に問われることもなかったのだろうか、とリンクスは不思議に思う。

 そして、王子に目をつけられている理由も分かった。


「こんなこと言ってくるやつ、嫌いになるよね、普通。殺されかかっても文句言えないんだけど……まあ返り討ちにして楽しむけど」

「楽しむな馬鹿……だが、その日以降両派閥が静かになったんだ。あの年一番深刻だった問題を一言で鎮めてしまったことで一切不問。良かったな」

「そういえば次の日あたりにゼノンにぃがなんかめちゃくちゃ褒めてきたのはこのことか」


 リンクスは特に何もしてないのに、満面の笑みでおやつに新鮮な果物と甘い果実のシロップをかけた氷菓子をご馳走してもらったり、ゼノンの屋敷で柔らかくて美味しいお肉のディナーだったのはそういうことかと、リンクスは二年近く経ってご馳走の意図を理解した。


「殿下に関しても悪いことばかりではない。お前の発言を受けて、嗜み程度でそこまで熱心でなかった剣術や魔術を鍛えるようになった。少し負けず嫌いなところがあるんだよ、殿下は……」

「私に勝とうって? それこそ無理だよ。立派な王になる方が簡単」


 胸を張って答えるリンクスに、ロティオンは真実を教える。


「いや……あの方は自分が軟弱な男として見られるのが嫌いなんだ。線が細いことを気にしているから」


「え、そっち?」


「殿下の最大の地雷だ。そして、少しは筋肉はついたが依然として線が細い王子のままなのでリンクスには会おうとしない……目標はもっと男らしくなり、<華燭>に膝をついてもらうことだそうだ。良かったな、次代に殿下が着いたら重用してもらえるぞ」


 この国では八法士が膝をつくのは主のみという法律がある。膝をつくのは臣下の作法であり忠誠の証になるのだ。 

 これを向ける先である主とは、勿論国王陛下のことであり、それ以外の人間には従う必要はない。

 それがたとえ、他の王族であったとしても。

 同時に、国王以外に八法士へ命令出来るものもいない。

 つまり第一王子が王位についた場合、リンクスは真っ先に忠誠を誓わされ存分にこき使われるのだろう。

 そんな未来は嫌だ。


「本当に王弟派になろうかな……それか代替わりした瞬間逃げる」


 遠い目をし始めたリンクスはこれ以上喋る気力を無くしてしまったので、ロティオンとの通信を切ってベッドに突っ伏すことにした。

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