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御伽話の魔法使い  作者: 薄霞
三章
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幕間 魔道具の申請


 秋も終わりを迎え冬の寒さが到来し始めている今日この頃。

 学園では魔石や魔道具を用いて室内温度を一定に保ち、快適な空間を築いていた。

 そんな学園のとある空き教室にて、椅子を円状に並べ向かい合う若者達が居た。


「やっぱ広範囲の攻撃魔道具でしょ! ババーンと一発派手なのはどう?」

「それ、誰がどうやって使うんだよ。試合会場によっては、下手したら仲間にも被害が出るかもしれないぞ」

「わたくしは伝達機能のある魔道具が良いと思うわ。チーム戦は連携が大事なのでしょ?」

「う〜ん決まらないね〜」


 リンクス達は現在、魔術対抗戦で貸し出し申請をする魔道具について話していた。あちこちから様々な意見が出るが、なかなかこれといった案が出ない。

 登録出来る魔道具の枠は、多いようで少ない。クラスの人数を考えればほとんどの者が扱えないのだから、慎重になるのも頷ける。

 決まらない会議に飽きて来たリンクスは、横に居たシンシアに意見を求めた。


「姫様はなにか意見ある? もしくは使ってみたい魔道具とか」

「えっ……?」


 まさか自分に振られるとは思っていなかった質問に、シンシアはたじろいだ。

 リンクスは、シンシアが魔術に関する会議になってから口数が減ったことに気づいた為、話を振っただけだった。

 ――だからまさか、シンシアの意見が光明になるとは想像もしていなかった。


「……そ、それなら転移の魔道具はどうかしら。転移魔術を使うよりも危なくないし」

「…………良いかも! その案採用!!」


 リンクスは立ち上がって、背後にあった黒板へと向かった。


「僕も良いとは思うけれど……申請が通るかは少し難しいかもしれないね」

「え〜ダメ?」


 リンクスは黒板へ書き込むその手を止めてエアを見あげる。


「転移の魔道具は魔道具の中でも特に価値が高い。魔術大国アルカディアだからこそ店に置かれるレベルに収まっているだけで、我が国では転移魔道具が販売しているところなんて見たことがない」


 やはり育った国の違いは大きい。アルカディアの中に居ただけでは、この転移魔道具の価値を知らなかっただろう。


(魔道具もそうだけど、ネオが近くに居たら感覚狂うよね)


 自国民の多くが「知らなかった……」と、初耳の情報に驚いていた。


「うちの国もないね」

「普通無いよな」


 うんうんと激しく同意している留学生組に、嫌な予感がしたリンクスは尋ねた。


「もしかして……そもそも貸し出し候補にない?」

「えぇ無いようですわ」


 ヘレネからリンクスへと、貸し出し可能魔道具一覧表が手渡された。

 リンクスは指でなぞりながら表の文字を追っていく。やはり、望んでいた魔道具は載っていないようだった。


「ここにない魔道具が使いたい場合、申請書類を書いて自分で調達しなければならない」

「学園長とか持ってないかな?」

「確かに学園長なら私物で持っていそうだけれど、立場上どこかのクラスに肩入れは出来ないわ」

「あれ? 私物自体は良いの?」

「可能ですわ。それに少数ではあるけれど、自作の魔道具を使う者もいらっしゃると耳にしたわ」


 リンクスの問いかけに答えた女子生徒の言葉で、ピーンと閃いた。そのまま窓へと駆けていく。


「ちょっと寮に行ってくる〜!」

「あっこらリンさん! 窓から出るのはダメって――」


 シンシアの説教が背後で聞こえた気がしたが、風を切る音による幻聴ということにする。

 寮まで一直線に向かい、ある物を手に取るとすぐさま蜻蛉返りした。


「お待たせ〜」

「もうっリンさん! ……これは?」

「転移魔道具。あと一回くらい使えるはずだよ」

「「はあぁぁぁぁ??」」


 驚愕の声が教室中に響き渡った。


「なんでそんな魔道具持ってるの? どこで拾ってきたの??」

「リンさんダメよ! 誰から強奪してきたの!?」


 散々な言い草が飛び交う。リンクスは飼い犬を叱るような言い方の同級生数人に弁明する。


「ちょ〜っと待って決めつけるの早いよ! 昔、隊長が第六の調査に協力したことがあったの。これはその時に、第四全体への報酬とは別に第六の人がくれたおまけだよ。正当な譲歩だよ失礼なっ」

「魔道具がおまけにつくほどのお仕事……?」

「本当に面倒な仕事だったな〜最後はほとんどが帳簿と睨めっこだもん。貴族のお家に訪問するたびにびくびく震えた大人が出迎えてきて、こっちの機嫌を取ろうとするし」

「……もしかして、<毒蛇>様の件から始まったアレのことではなくて!?」

「あっそうそう。よく知ってるね」


 女子生徒が驚愕に満ちた声を出す。

 <毒蛇>とは、リンクスの部下である女性の異名だ。

 彼女は魔石の取れる鉱山がある領地の裕福な伯爵家の跡取り娘で、順風満帆とも言える人生を送っていたはずだったのが……一瞬にして罪人の娘という立場になったのだ。

 ――結果として、家は没落した。

 父親は投獄され、家財も何もかも失い、行く宛のなくなった彼女を拾ったのがリンクスであった。

 だからこそ、当時のことはよく覚えている。一連の事件で世間を騒がせた認識は、流石のリンクスにもあった。ここまで驚くほどか、とは思うが。


「知ってるも何もっ……前国王陛下最後の『血の粛清』とまで言われた、王国中の貴族を震え上がらせるきっかけとなった当事者ですもの。忘れることなんて出来ませんっ」

「ただの税金収入調査に大袈裟だな〜件の伯爵は陛下に無断で魔石を他国に売ったうえに、金をちょろまかしたからちょっと血が出ただけ。やましいところがなければ平気でしょ〜」


 その伯爵を重傷にまで追い込んだ張本人が、何食わぬ顔でのほほんと言ってのけた。


「魔法師団だけでなく八法士まで動員し貴族を領地に閉じ込め、罪が見つかったら強制連行。反抗したら、魔術士最大の屈辱である魔封じの枷を付けられる恐怖」

「確かに王国法を大きく逸脱した行為をしていたのは伯爵のみだったが、多数の当主が大なり小なり咎めを受けて代替わりも多かったんだよ……あの時期、父が忙しさと色々な心労で倒れそうになってた」

「うちも両親揃って大忙しで、領地内がどこか殺伐としてたな」

「我が家はこの件をきっかけに自領内での取引調査をしたら、従姉妹の家が一部をちょろまかしていたのが発覚して一族会議に」


 止まらないあんな話やこんな話の数々。

 五年近くは前の話だがみんなよく覚えているものだ。リンクスは感心しつつも、過去の苦労話にズレてきた会議の話を元に戻す。


「はいはい止まって〜今は魔道具のことについて話そうね〜」

「はっ、そうだったわ。リンさん、貴女はその件の報酬であった魔道具を学園に持って来てたのね……それ、本当に使って良いの?」

「うん、いいよ」


 リンクスは基本的に魔道具を使わない。だから手放しても惜しくはない。

 適当に荷物に入れておいただけで、使うことになるとは思ってもいなかった。

 なにより、洗濯魔道具以外はほとんど使っていないリンクスには無用の産物だ。道具だって使われる方が嬉しいだろう。

 リンクスはそんな思いから、対抗戦で使用することに抵抗はなかった。


「じゃあこれを申請に出すってことで」


 そうして申請枠の一つが埋まったのだった。

 

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