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御伽話の魔法使い  作者: 薄霞
三章
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18 終業パーティー


 早いことで、とうとう終業日となった。つつがなく終わった式の後は待ちに待ったパーティーの時間だ。

 女性陣は身だしなみの準備に余念がない。シンシアも侍女の手によって、いつもより優美に着飾っている。

 お気に入りの青色のドレスは、首からデコルテまでを繊細なレース飾りが覆い、フリル多めの袖と長手袋により露出の少ない大人っぽい仕上がりだ。

 髪に花を編むのが最近の流行りなため、シンシアの髪にも小花が飾られている。


「う……パーティー前の震え癖は簡単には治らないわね。この前の宣誓を思い出してシンシア。あの時のように振る舞いなさい」


 自身を鼓舞しながら寮のロビーへ向かう。今日はリンクス達と待ち合わせをしているためだ。

 友人と連れ立って会場に入るなど、王宮では一生味わえないイベントだろう。

 ワクワクしながら赴くと目的の人物はすぐ見つけ出せた。


「お待たせしたわね」

「全然待ってないよ。ちなみにエレナちゃんは首飾りを忘れたことに気づいて取りに戻ってま〜す。多分すぐ来るはず」


 薄紫色の可憐なドレスを見に纏うリンクスが、ロビーのソファでくつろいでいた。

 花の刺繍があるドレスな為か、しつこくないよう花は耳元に一輪刺すのみ。腰にある大きめのリボンは少女の心をくすぐるようだ。

 黙っていれば可憐な乙女と言わざるを得ない。

 リンクスは遠巻きに見られているのも何のそので、平然とシンシアに話しかけてくる。


「やっぱ姫様には青と白が似合うね。特にこの鮮やかな青は姫様の色って感じがするもん。髪に花編んでるのも良いね」

「……ありがとう、リンさんも似合ってるわ」


 リンクスはこういう時、なんの衒いもなく褒め言葉を言ってのける。美辞麗句ではないと分かるからこそ照れてしまう。


「おっお待たせしました!」


 エレナが慌てながらやってきた。桃色がメインだが、幼すぎない絶妙なバランスのドレスだ。胸元には瑞々しい苺のような赤色の宝石が輝く。


「それが置いてきちゃった思い出の首飾り? 宝石に魔術刻印が刻まれてる珍しいタイプだね。贈ったやつはセンスあるね〜デザインやサイズ感がエレナちゃんにピッタリだ」

「えへへ、ありがとうリンちゃん」

「……貴女って、そういうところあるわよね」


 シンシアはジトっとした目を向ける。


「そういうとこって?」

「……いえ、別に。さぁ会場に向かいましょう」


 時間には余裕があるが、会場までそこそこ歩かねばならない。三人並んで、他愛のない話に花を咲かせる。

 こうした日常を過ごせることが、シンシアにはたまらなく嬉しかった。




 会場に着いてしばらくはクラスの生徒達で集まっていたが、次第にバラバラになっていった。親族の元へ顔を出したり、クラブの関係者の元へ挨拶に行ったりだ。

 ちなみにリンクスは「そろそろ腹ごしらえ〜」と言って姿を消した。

 シンシアも兄や学園長と合流し、歓談する。兄のことは嫌っているわけではないが、二人だけでは到底弾むような会話にならなかっただろう。クロエがいることに感謝だ。


「シンシア、魔術対抗戦での発言はお前の意思か?」

「……え?」

「お前が本心からやりたいと思ったことに否定する気はない。……が、巻き込まれ、言わされたのなら別だ」


 兄はシンシアが事態の解決の為にしたくもないことを成そうとしてるのか……そもそも脅されての発言か、と聞きたいらしい。

 主体性のあまりない妹が大舞台であのような宣言をすれば、心配するのも無理はないかもしれない。


「お兄様、此度のことは全て、私自身が判断し決めたことです。一言も相談せずこのようなことを決め、ご心配をおかけしてしまい申し訳ありません」

「謝ることはない。好きにせよ」

「ふふふっ、大丈夫危ないことにはならないわ。だってあの子がついているものね」


 クロエが二杯目のワインに口付けながら得意げに話す。その口ぶりから、リンクスが信頼されていることが分かる。

 

「……叔母上、彼女は一体何者ですか。ロティオンに聞いても知らぬ存ぜぬです。いくら第四が構成員すら秘匿されている部隊としても、叔母上がスカウトしてきたと言うのなら少しは情報を開示すべきでは?」

「ごめんなさいね。第一王子であろうとそれは無理。第四には八法士リンクス・アーストロの息がかかってる。かの魔術士は仲間想いだけど仲間の範囲が狭いの。あなたが認められた暁には、教えられるだろうけど」


 ……あっ、お兄様の最大の地雷を踏んだわ。

 恐ろしくて兄の顔を見れない。シンシアはこの後の気まず過ぎる時間から逃げることを決めた。


「お兄様、叔母さま、わたくし少しお花を摘みに行ってまいりますっ」





「ふぅ……危なかったわ」


 どうにか逃げ切ったシンシアは、窓際に置かれた小休止用のソファに腰を下ろす。

 ぼんやりと会場を見回していると、背後から声がかかった。


「姫様休憩中? それともめんどい予感から逃げてきた系?」

「リンさん……えぇ、どっちもかしら」

「ん〜ならここで食べよっかな。防波堤になってあげるよ」


 リンクスは手に持っていた皿をテーブルに乗せ、向かいのソファに座る。

 テーブルに広がるのは、蜂蜜いっぱいのパンケーキ、ジャムやチョコの掛かったワッフルにプリンのパフェと見てるだけで胸焼けするラインナップだ。


「貴女、夕食をデザートの類で済ませる気?」

「メインはとっくに食べてるよ。美味しかったな〜ランボ先輩が狩ってきたトドウシのステーキ」

「狩ってきたってどういうこと……? それにトド? ウシ? どっち……?」


 そのまま雑談をしつつ、シンシアはまたチラリと色とりどりで華やかな会場に視線をやる。


(あちらの男性は隣の女性に気があるようね……こちらの女性はさっきからリンさんを妙に意識してる。恐らくリンさんへ良い感情を持ってなかった人ね)


 対面で話すことを得意としないシンシアは、一歩離れた所で視線、表情、動作から思考や人間関係を把握する癖が身についてしまっていた。

 そんなシンシアに向けて突飛な提案が繰り出された。


「よし、姫様踊ろ」

「えぇっ? 貴女さっき軽食を食べて……ってもう無い」

「うん、もう食べ終わった。踊る準備は万端」

「パーティで早食いなんてしないのっ。あぁもうっ、ベリーソースが口元に付いてるわ」


 そう言ってリンクスの口元をハンカチで拭いた。この国の王女に世話を焼かれる存在なんて、彼女の弟妹とリンクスぐらいだろう。


「んむ……ありがとう、姫様」

「どういたしまして。それで? なんでいきなり踊ろうなんて言い出したの?」

「思い出に一曲ぐらい踊ろうかなって思っただけだよ。みんな踊るみたいだし」


 周囲を見渡せば、踊りやすい曲に変わったせいか確かにホールの真ん中で踊る男女が増えていた。記念として同姓同士で踊ろうとする組もいる。

 シンシアは納得してリンクスへ手を差し出した。


「では、お相手してあげても良くってよ」

「ありがたき幸せ〜」


 二人は茶番劇にくすりと笑い合って手を取り合う。

 息ピッタリにワルツを踊りながら、リンクスはシンシアに問いかけた。


「姫様、出会った頃よりもいい顔をしてるよね」

「貴女と出会ったおかげよ。それに今回は貴女のサポートが出来て、ちゃんと相棒になれたもの。でも結局、無難な言葉しか口に出せなかった気がするわ……それだけが少し心残り」


 リンクスがシンシアのことを気づいてくれているように、シンシアも気づいていた。日に日に変化し悪化していく醜聞が彼女を煩わせていたと。

 噂が噂を呼び、魔術対抗戦の場で痛めつけようなんて話が交わされていたことも知っている。密かに呼び出されていたのも知っている。

 リンクスはシンシアに隠すよう立ち回っていたようだが、流石に王家の影の口は封じれない。

 生徒の愚かさに嘆くも見放すことはできなかった。

 だからシンシアは前へと進みだし、リンクスの横で堂々と宣言したのだ。台詞はどうにも頼りなかった気もするが。


「なーに言ってんの。むしろ姫様には余計な言葉なんて要らないし似合わない。今までで一番王族らしく、勇ましく、かっこよかったよ」

「――貴女にそう言ってもらえると、誇らしく感じるわね」

「でしょ〜」


 くすくすと笑い合う二人は、シャンデリアの灯りを受けずともこのホールのどのペアよりも輝いていた。


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