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御伽話の魔法使い  作者: 薄霞
三章
48/82

1 あやしい関係!?


 収穫祭の終了で喧騒は過ぎ去り、学園は落ち着きを取り戻していた。

 友人との交流や将来のための勉強、クラブ活動に励む日々。清く正しい青春。

 手紙の魔術士に警戒しつつ、そんな平和な日常を享受していたリンクスだったのだが――


「な、なんじゃこりゃ〜!!」


「こらっ! 淑女にあるまじき言葉遣い!」


「いやいや姫様っ! いつものやりとりも大切だけど、今は絶対言葉遣いより記事の方が重要だよ!」


 リンクスは、シンシアに渡された校内新聞をテーブルに叩きつける。

 ――現在、一週間ぶりにシンシアの部屋に招集されたリンクスは、目の前に座る姫君から渡された校内新聞の記事を読んで絶叫していた。

 月に一度、新聞クラブから発行される校内新聞には、様々な学園内スキャンダルが掲載され、婚約やお付き合いなどの話題から、教師や来訪者の特集と様々なことを取り扱う。

 その為今月は、ヴィオレット達のことが掲載されるだろう、と思っていたシンシアにとって青天の霹靂だった。

 まさか、リンクスの記事が紙面の大部分を飾っているなんて……。


 ――今話題のスカウト生が、収穫祭で三人の貴族男性と急接近中!? 流行小説のヒロイン実写版となれるのか!?――


 そう、リンクスのスキャンダル記事が掲載されていたのだ。


「はぁあああぁぁ? なんで私が三人と深い仲になってるわけ? なによりヒロインはやめて〜! こんなヒロインは嫌だ〜〜!」


 ――自分のことながらやめた方がいいと思う、本気で。


「そんなの私が聞きたいわよ……もぉ〜! 知らないところでフラグを立てないでちょうだい!」

「立ててないよ! ……ていうかさ、シメオンとスピサくんはまだいいけど、ロギアくんはダメでしょ。ペトラちゃんがいるんだから」


 喧嘩を売っているとしか思えない。リンクスは自分のことにはさして感情を見せなかったが、ペトラの名前を出してからは不快そうに眉を顰めた。


「ええ、本当に。ペトラさんが子爵家だからって甘く見過ぎよ……所詮は学園内でしか見れないものとは言え、失礼すぎるわ! 彼らの間に亀裂が入ったらどうしてくれるのよ〜!」


 新聞では、リンクスの収穫祭での行動が特集されていた。


 ――ロギアに葡萄酒を貰ったこと。

 ――シメオンと二人で食事をしたこと。

 ――スピサと二人で出店を巡っていたこと。


 簡潔に言えばそれだけだ。ただ、タイミングや身分が問題だった。

 シンシアが言うには、収穫祭で葡萄酒を男が女に用意するというのは言葉通りの意味以外に別の意味を持つ行為に相当する。要するに、親しい仲の者だけがする行為であったというわけだ。

 だがロギアに関しては、リンクスが葡萄酒を買えそうになく困っていたところ親切でおまけの一本を与えただけ。そこに色っぽいことは微塵も存在しない。

 そして、それはシメオンもだ。記事をよく読むと、店に二人で入るところだけを都合よく見られ、その後葡萄酒の瓶を持って学園に帰るところをまたしても都合よく切り抜かれたようである。

 男女関係が一回も噂されたことがない王族の、最初の相手になってしまったのだ。

 最後、スピサに関しては葡萄酒は関わっていないようだが、出店を男女二人で回っているのは純粋にデートと勘違いされても致し方ないのかもしれない。

 あの時、生徒は周りに居なかった気がするのだが、何処から漏れたのだろうか……?

 

 収穫祭は<愛のアプロディテ>の影響もあり、恋人や夫婦の日という印象も強い。

 だが、実際にリンクスがしていたのは、自分の恋人作りでも意味深な関係作りでもなく、他人の恋路のお手伝いだ。なんなら過去の未解決事件を解決をしていたと言ってもいい。

 シンシアは、笑顔のまま怒るという器用な真似をしてリンクスに問いかける。


「弁解を聞いてあげるわ」


 ニコォォとした笑顔に圧を感じる。


「ひどいよ姫様〜無実だよぉ〜……えっと、ロギアくんに関しては葡萄酒を譲ってくれただけなんだ。彼は婚約者と飲む用の酒を買いに店に来てたんだよ。混んでて店に入りたくなかった私にたまたま遭遇しておまけをくれたってかんじ、です」


「でしょうね。彼の人は不誠実なことはしなさそうですもの……次、シメオン」

「はい……シメオンに関してはミルト先輩への取次みたいな感じでね? 店の中では、休憩時間のミルト先輩と三人でいた時間の方が長いよ。葡萄酒は私が飲みたくなって自分で買ったし」


「ふーん……流石にシメオンも、自分が買って渡すのは悪いと思ったのね。はい、次!」

「なんか浮気調査みたい……あっごめん、はい、言います! スピサくんには図書館でお世話になったから〜お礼に串焼きを一本ご馳走様する、ってことになったんだ。確かにあの日は二人で屋台巡りしたけど何もなかったよ」


 リンクスの弁解を聞いて、シンシアは小さく唸り声を上げながら納得した。シンシアだって一応問い詰めたが、リンクスが油を売るようなことをしてたとは思っていない。

 だが、世間は彼女の言葉に納得しないだろう。


「大体収穫祭なんてほとんど楽しんでないよ〜屋台回ったのと、最後に姫様とホウキ二人乗りしてブイブイ言わせたぐらいなのに〜〜」


 収穫祭っぽいことなど、屋台で空腹を満たしたことと拾った箒を乗り回してリア充撲滅軍団を倒しただけである。

 ……二点目を数に含むのはあやしいところだが。


「はぁ……」


 不満そうなため息をこぼしているシンシアに、リンクスは頬を膨らませて非難する。


「そもそも、姫様が一緒に行動できなかったから彼らと二人きりになって特集されちゃったんだよ〜! しょうがないことだけどさっ」

「それは分かってる。私が不満に思っているのは新聞クラブのことよ……このクラブ、巷ではスキャンダルクラブとかゴシップクラブ、なんて言われるくらい人に悪い意味で口を突っ込むのよね。出来事を誇張して書くし」

「最悪だね。まぁ、記者とかって割と嫌われてるよね〜」


 他人事のように言っているリンクスだが、過去に部下に関する悪質な記事を無断で書かれて新聞社に報復したことがあり、その件以降記者を毛嫌いしている。

 王からは、八法士になった時の約束があったことで処罰はされなかったものの、やり過ぎだとは言われた。

 だが、そのくらいの注意で

 シンシアが記者を邪魔に思うならば、あのときのように裏で()()()()()()と思い、リンクスは尋ねる。


「姫様は記者は嫌い? 潰したほうがいい?」

「別に潰さなくていいわ……それにゴシップ系って一部から人気なのよね。刺激が欲しいのか、もしくは人の不幸は蜜の味と思っているのか……私は嫌いだけど」

「分かった〜変な人もいるもんだね」


 シンシアの何気ない回答で、新聞クラブのメンバーは地獄のような恐怖体験を実行されずに済んだようだ。

 だが、リンクス側から何かしらされなくても他の側からされることはあるだろう。幸運を祈る。


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