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御伽話の魔法使い  作者: 薄霞
二章
46/82

幕間 解除コードは


 呼び声の方へ顔を向けると、登り道の方から生徒の集団が此方へ向かって来ていた。(くだん)の先輩達だ。

 三年が三人、二年が三人の計六人全員が揃っている。

 やっと帰ることが出来るのだ。


「先輩達〜〜! もう遅いよ〜何処に居たの!? 全然見つけられなかったんだよっ」

「すまんすまん、割と上の方がスタート地点でな。それに魔道具の影響が解けるまで下に行けなくて八方塞がりだったのだ! お手柄だったぞ、リン!」


 集団の先頭に居た三年のクラブ長であるランボが、駆けてきたリンクスの頭を笑いながら撫でてくる。

 そんなランボにリンクスが不思議そうにすると、隣に来た凛々しい女性が代わりに答えた。


「リンさん『お腹が空いた』と叫んだでしょ? それが魔道具の解除コードだったんだ。魔道具による幻惑の結界の範囲外から指定された単語を言う必要があってね」

「魔道具を見つけるところまでは、サクサク進んだんだけどねーそこから先は範囲外の一年に託されてたから、魔道具を発見した時は絶望したね」


 集団の後ろに居た者達も合流し自分達の状況を説明し始める。

 三年のチームはやはり大分上からスタートしたらしい。

 だが、このクラブに在籍し三年も経っているのだ。このぐらいの試練は序の口だった。

 問題は二年生組の飛ばされたエリアにあった。

 薄く霧がかかるエリアに飛ばされた二年組は、スタート地点から歩いて割とすぐのところで魔道具を発見した。解析してみると、複雑なロックが掛かった幻惑系統の魔道具だと判明。

 魔道具の効果は絶大で、大声で呼びかけてみても他の組からの返事はなく声すら遮断されているようだった。もちろん幻惑を抜け出すことも叶わず、抜けようとすればスタート地点に戻される。

 探せる範囲内にこれ以外の魔道具は見当たらず紅葉を楽しむしかなかったところ、パスワードになっていた言葉を叫ぶリンクスの声が突然聞こえ魔道具の効果が解除された、という流れだった。


「おまけに他の魔道具の効果も打ち消されているから、もう魔術を使っても問題ないということだろう」

「今日の私、大活躍だったんじゃん! ふっふっふ〜シエラ先輩もランボ先輩みたいに、頭撫でてくれたっていいんだよ?」


 クラブ長達が後から駆けつけてきたペトラ達への説明の為離れた後、リンクスは得意げに隣にいる三年生――シエラ・アンディーノに向かって上目遣いでおねだりする。

 この上目遣いはリンクスが狙ってやったわけではなく、高身長の部類に入るシエラ相手だと身長差で自然となってしまうのだ。

 その甘えたな仕草が、家が男所帯で可愛い妹が欲しかったシエラには効果抜群だった。

 いつもの凛とした顔を綻ばせリンクスを撫で始める始末である。

 撫でられてご満悦なリンクスに、高貴なオーラが隠せていない美形の青年が笑う。目を細めてとても愉快げだ。


「ここで我らではなくシエラ殿を選ぶのがリンらしいな」

「だって女の人に撫で撫でされる方が嬉しいもん! 男の人は撫でるのが雑な人か下手くそな人ばっかで嫌〜あっでもランボ先輩は雑な感じあるけど上手いよ。何回かお願いしたら最近は先輩の方からやってくれるようになった」

「雑と下手は違うのか?」

「全然違うよウンラン先輩。雑な人はこっちの髪型を気にせずボサボサにしてくる人で、下手な人は力加減が間違ってる人! 強くても弱くてもダメっ」

「なんでリンちゃんは、そこまで撫で撫でには一過言あります、みたいな感じなの?」


 もう一人、リンクスの側に留まっていた青年――リノン・アルヒミアが可笑しそうに尋ねる。


「昔、撫で撫でにハマってたときに魔獣討伐する度、誰かしらに強請ってしてもらったんだ〜高確率で男の方が下手だったし、優しい撫で撫でが出来るのは圧倒的に女の人だったのですっ」

 

 リンクスはそのままどさくさ紛れにシエラに抱きついて、鎖骨辺りに頬擦りをしている。

 魔獣退治のワードに心配していた彼らは、リンクスの通常運転ぶりを見て、呆れたような微笑ましいような複雑な顔だ。それを完全スルーしてリンクスはシエラに甘える。

 ……されている方のシエラはというと、リンクスの行動に悶絶していたのだった。




 * * *




 合流した魔術戦クラブ一行は、山を降り森を越えゴール地点である第三宿舎前に向かって歩いていた。

 この宿舎は、校舎や寮からは少し離れたところに位置している。主な使用用途は、クラブ合宿や交流試合等で来た他校の生徒へ向けた宿泊施設だ。

 何故この場所がイアトとの集合場所になっているのか、誰も分からなかった。


「お昼の時間は過ぎたし、早く解散になって欲しいな〜こんなことならパンケーキ三皿食べればよかったよ」

「リンちゃんはいつも朝はパンケーキセットだね……飽きないの?」

「朝はパンケーキ一択。焼き方とか味とか工夫すれば飽きないですもんっ」


 リノンの質問に、リンクスのパンケーキ談義が始まった。甘いチョコとクリームを大量にかけたパンケーキやカリカリのベーコンやチーズを挟んで食べた話を披露し始める。

 何故かパンケーキの話で盛り上がりつつ宿舎へ到着すると、丁度宿舎の玄関からイアトが出てきたところだった。


「魔道具の起動テストご苦労さん、昼食は俺の奢りだ」

「そういうことか。道理で変なゲームだと……先生、生徒でテストしないでください」


 奢りでご飯が食べれることに喜ぼうとするリンクスより早く、先輩方が「うわぁやっぱり」と呟く。

 代表してシエラが呆れた声で抗議したが、声音には恐らくやめないのだろうという諦めが伺える。


「安全面は保証されている。それに、実際に生徒に使うものを生徒で実験してなにが悪い」

「うっわ」

「イアトせんせ〜それネタバレって言うんですよ? 言っていいんですか〜対策考えちゃいますよ?」

「面白い、受けてたとう……対策出来るものならしてみろ!」

「簡単に挑発に乗るなぁこの教師は」


 リンクスが軽く挑発したらすぐに乗ってきた。逆に楽しそうに受けてたとうとしているイアトに、ウンランも呆れた声を出す。

 場の空気を変える為か、ランボが声を張り気を引いた。


「先生っっ! 昼食をご用意して下さったとのことですが、どのようなものを?」

「割と豪華な世界各国の料理達だ。ビッフェスタイルだから自由に食べてよろしい」

「わ〜い、やった〜! 先生、お肉はある?」

「あるぞ」


 ご機嫌に中へ入っていくリンクスに一同が続いていく。


「……パンテオン皇国、スカンジナビア王国、リィンメン皇国、それにヤマト国の料理まであるな」

「おぉ! 壮観だな!」


 シラミネとランボが感嘆の声を出し、それぞれ皿を手に料理の周りを徘徊する。食いしん坊な二人は特に嬉しそうだ。

 男性陣が前菜をサクッと乗せ早々にメイン料理へと向かう中、前菜であるタコとブロッコリーのバジルソース合えを前にリンクスとペトラが話し合っていた。


「私の故郷では、あまり見ないものばかりですね。た、食べたことがないものも多いです」

「ペトラちゃん家の領地は王都に近いんだよね? じゃあタコとかイカとかを食べることってあんまりない感じ? 海産物大丈夫?」

「こっこれが、タコなんですか? …………だ、大丈夫だと思いますっ多分……」


 あまりタコ料理に縁がないペトラは、タコを見て怯えている。デカ目の蛸足は、初見だと少し厳しいところがあるかもしれない。


「ダメそうだったら私が食べたげるから、安心して一口挑戦してみなよ〜」

「はっはい! ありがとう、ございます!」

(今、タコの魔獣の話をするのはやめておこう……)


 愉快なことになりそうではあるが、さすがにやめておこう。リンクスにもそのくらいの慈悲の心はあるのだ。




 ――料理を前にはしゃぐ生徒達を横目に、不穏な会話をする者がいた。


「何に使う為の調整だったのですか。今回の魔道具、次の対抗戦ではおそらく使えないと思いますが……」

「あぁ、次に行われるのはクラスごとのトーナメント戦だ。使える魔道具も決まっている……だが、対抗戦だけに私の魔道具は使われるわけではない」

「つまり他の行事に使う、と……調整がまだ間に合ってないことを考えると……」


 シエラは顎に手を当てて考える素振りを見せる。数秒の後、答えを見出した。


「――っ! あの行事で使うんですか? 下手したら遭難者を出しますよ?」

「今回みたいな魔術無効化のルールは使わないさ。ふむ……多分な」

「はぁ……一年生には、あまり酷なものを与えないでいただきたい。従兄弟殿」


明日の更新は登場人物紹介になります。

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