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御伽話の魔法使い  作者: 薄霞
二章
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幕間 因縁作りすぎ問題


「――先日は本当にありがとう。全て、貴女のおかげよ」

「もう〜先輩ったら感謝はそれくらいにして! 美味しいものをタダで食べさせてもらってるし、無問題だよっ」


 以前ミルトと出会った店で、リンクスは夕食をご馳走になっていた。残念ながら、シンシアは色々と都合が付かず今日は欠席だ。


「美味しい食べ物で解決できるような件じゃなかったけどね……協力していただいた八法士様達にもお礼をしたいけど、気軽に会えるような人達ではないし。せめて君には精一杯お礼をさせて」


 リンクスが格式張った店が苦手だと分かっていて、この店にしてくれたのだろう。

 メニューに関しても、テーブルマナーに気を付けないといけないような料理というよりも家庭料理に近い。

 季節はだんだんと冬に近づいていくこの頃、あったかいオーブン料理は身に染みる。野菜の配置を工夫しているのか、具が花のようになっており見た目も可愛いらしくて良い。


「実は、私ね。少しでも精霊に詳しくなる為に、長期休みは実家に戻って研究することにしたの……ついでに両親とも歩み寄るつもり。いつまでも拗ねた子供のままじゃいられないし、婚約のことも話すつもりよ」

「おぉ〜! 困ったらいつでも言ってね、ヴィオレット先輩! 今回ほどの協力は出来なくても、出来る範囲で手助けしますから!」


 どうやらヴィオレットの両親は過去のことで負い目があり、それで唯一の跡取りである彼女に婚約者をつけていなかったらしい。

 なので、ヴィオレット本人が連れてきた婿なら賛同するだろう。シンシアの計画は安泰である。

 ヴィオレットは改まってリンクスに感謝を述べた。


「私は結局、もう一度弟に会いたいというのが一番の願いだったのだと思う。言いたいことも言えて、記憶もスッキリして、今とても清々しいの……だから本当にありがとう」


 リンクスにスッキリとした顔を向けた。その表情や態度からは出会った頃の厭世的な雰囲気は感じられない。


(ヴィオレット先輩、今は自然に笑ってる)


 ヴィオレットが嬉しいと、リンクスもつられて嬉しくなってしまう。

 その後も、和やかな食事会は続いていく……はずだった。


「そういえば、メルクーリちゃんって俺の兄貴のことは知ってる?」

「うん? お兄さん?」

「そう、俺の兄でストルギー家の長男。今は第二部隊にいる去年魔術師団に入った新人隊員なんだけど……知らない?」

「あ、いや知ってるよっそれがどうしたの?」

「俺達今は割と仲が改善してて、手紙のやり取りとかもしてるんだけどさ。この間の手紙に、アーストロ隊長のこと書いてたから気になって」


 つまりはリンクスのことだ。

 嫌な予感がする――王子の件の再来かもしれない。


「ちなみになんて? 悪口?」

「いやいやっとんでもない! むしろ逆だよ!」

「え……?」

「褒めちぎってた。あそこまで他人を称賛する兄は初めてだよ! ……あっ、褒めるって言い方は英雄様に良くないな……尊敬してた、だ」


 リンクスは食事の手を止めて、ミルトを呆然と見る。魔術師団の他部隊には、大抵怖がられるか恨まれるかの二択なのだが、尊敬されるとは思ってもいなかった。


「……ほんとう? 復讐してやるっ、とか言ってなかった?」

「いや、苛烈なまでの強さだとか部下にも慕われているとか、自分も第四に入りたかったとか休日は何をしているのだろう……あとは姿をお見かけできないのが残念、仕事が忙しそうで心配だ、とかも言ってた。便箋何枚にも渡って」


 想像よりもなにか別の圧を感じる。冬季休暇でも遭遇は避けようと心に決めた。


「意外ね。生徒会長はあまり情熱的なタイプには見えなかったけど」

「せ、生徒会長?」

「前生徒会長よ。おまけに昨年の個人対抗戦の優勝者……言ってしまえば、昨年度の最強」


 おまけに皆に慕われるモテモテの生徒会長だったらしい。そんな人物が何故、リンクスに興味を持ってるんだ。

 ――自慢じゃないが、非公式で行われている付き合いたい隊長ランキングの中でも低いんだぞ。

 リンクスは不名誉なランキングの存在を思い出し、理不尽さに唸りたくなる。外国ではモテるのに、何故か自国だとモテないのだ。

 モテたいという話ではなく……その差の理由が思いつかなくて、リンクスはずっと頭を悩ませている。

 ――だが、話は単純だった。人前に出る時のリンクスは、幻視の魔術で火の玉頭になっているからだ。日頃の過激発言も良くない。

 リンクスだけが、それに気づいていないだけである。灯台下暗しに近い。


「でも、そんな人がなんで……」

「あ〜なんか模擬戦やったのがきっかけらしいね。そこでアーストロ様にお手合わせする機会を頂いて、完膚なきまでの敗北だったみたいだ」

「初めての圧倒的な敗北を前にして挫折ではなく、興奮を覚えたということ?」


 ヴィオレットの言葉にミルトがギョッと目を見開く。


「性癖が開花した、みたいな言い方はよしてくれ! 兄貴のそんなこと聞きたくないし、別に普通に慕ってるだけだから! そのはずだから!」

「そう? では懸想する乙女?」


 ミルトはヴィオレットの発言に頭を抱えだす。本当に身内のそういう話は聞きたくないらしい。

 哀れんだリンクスは、ミルトの精神面の為にも訂正する。


「いや、でも恋をするような場面ないよ。模擬戦以来喋ったことない……はずだし」

「そうなの?」

「うん。隊長は忙しくて、他の隊の新人に構ってる時間なんてないから」


 リンクスはその時期、ラーヴァに隊長室でほぼ軟禁レベルで扱かれていた。外での魔獣退治の仕事以外では出掛けていないので、物理的に無理だ。


「では、本当に敗北を知ったことで新しい扉を開いたということね。誰に告白されても頷かなかったのも納得だわ……そんな性癖を隠し持っていたなんて」


「や、やめてくれーー!!」


 ヴィオレットの言葉を遮り、ミルトが悲痛な叫びをあげた。

 こうして、お礼の食事会は平和に終わったのだった。


冗談も言えるようになったし明るくなったヴィオレットさんとそれに振り回されるミルトの回

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