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御伽話の魔法使い  作者: 薄霞
一章
21/82

幕間3 音楽の時間!

次から二章開始です。


 この学園の授業は魔術に関するものが多い。

 そう、多いだけで魔術に全く関係ない授業も当然ある。その一つがこの音楽の授業だ。

 音楽の授業は声楽と楽器のどちらかを最初に選択し、一年を通して行う。最初の三ヶ月はさらに男女別で行われるので、人数が少なくなる関係上二クラス合同だ。

 ちなみにリンクスは楽器を選んでみた。理由はシンシアが楽器を選択したからだが、だからといって絡みに行くわけではない。

 あくまでも大人しく平民を演じ、手紙の魔術士の不意を突くのが自分の役目だからだ。

 それにシンシアは計画の表舞台には出たがらない。自身が出しゃばれば、本心がどうあれ対象者達は従ってしまうことが目に見えてるからだ。

 だからこそ表に出る人材としてリンクスが選ばれたのだ。その為魔術対抗戦後も、二人は表向きは程よい距離感を保っていた。


(まぁ、読書感想会は定期的にやっているけど)


 リンクスとしては、同じ教室内に居るけど親しくはしないという絶妙な距離感を作れたことは完璧だと自負している。

 昨日の報告日記にはその事をバッチリ記入したし、ロティオンにも自画自賛するほど浮かれていた。

 ――そして、浮いていた。

 そう、今は音楽の時間。楽器を選んだ生徒達で第一音楽室に集まり、担当楽器について話し合っていた。

 この中でリンクスだけが、完全な初心者だったのだ。楽器を選んだ者達は皆何かしら既に習得済みだった。

 国でも有名だという楽団から派遣された講師が自己紹介の中で弾ける楽器は? などと質問し始めた時から嫌な予感はしていたのだ。

 リンクスが「楽器を弾いたことはありません」と言った瞬間の、周りから珍獣を見るような視線の数々……。

 どうやら、貴族なら何かしら音楽に触れるのが普通らしい。

 せめて自分以外にも平民の生徒が居たら良かったが、エレナは声楽を選び、他の平民生徒は楽器経験者でどうしようもなかった。


「………………まあ、そういう子もいるわよね」


 講師もまさか、楽器を持ったこともないレベルの初心者が来るとは思わなかったのだろう。沈黙が長かったし、目が泳いでいる。

 リンクスも後悔しているので、お互いに苦い顔を突き合わせている現状だ。

 だが、講師が苦い顔をしている理由は当然である。この授業では、芸術祭の日に発表が行われるからだ。

 春の芸術祭とは、秋の収穫祭に並ぶ催事であり、音楽がメインで魔術は一切使わずに行うことが最大の違いだ。

 全学年の前で発表になる見せ場で失敗は出来ない。初心者を嫌がるのは当然だろう。

 早速いくつかの楽器を触らされ、吹いたり叩いたりしてみるがしっくりこない。

 一人で楽器保管室で燻るリンクスに、隣から楽器の音色が聞こえてくる。今隣では現在の実力を測るため一人ずつ演奏しているのだ。

 中々に寂しい。

 そんなリンクスに声を掛ける人物がいた。


「……あ、あの、メルクーリさんっ」

「ん? 先週の可愛い子だ。どうしたの?」


 初っ端の台詞が軟派な男のようだったが、しょうがない。彼女については名前もなんとなく覚えていたが、間違えていたら失礼なので言えなかったのだ。

 その可愛い子――ペトラ・エラフィは、リンクスの発言に顔を赤くし吃る。驚いたのか耳がピィンと立っている。


「ペトラ・エラフィです……よ、良かったら楽器探し、お手伝いしましょうか?」

「えっ! 良いの? すごい助かるよ〜もう何がなんだか分からなくてさ〜」


 リンクスは嘆きを訴えながら、ペトラの手を握る。

 どうやら心優しき少女が、ずぶの素人に助言をしに来てくれたらしい。

 大精霊はリンクスを見捨てなかった!


「あのね、持ち方も音の出し方も楽器の名前も、な〜んにも分からないの!」

「……えっと、では楽器ごとに定員がある関係上人気のある楽器は取り合いになりますからそこは避けて……とりあえず一通り演奏してみるので、気に入った物を教えて下さい」

「ありがとう〜!」


 握ったままだった手を漸く離し感謝を伝えるリンクスに、ペトラは照れ臭そうに微笑む。

 一つ一つの楽器を奏でる時間は少なかったが、彼女が様々な楽器に精通しているのは実感出来た。ペトラの奏でる音色は優しく心地良い。

 希望者の少なそうな楽器を中心に、部屋にある楽器を奏でたペトラにリンクスは力強い拍手を送る。


「楽器いっぱい弾けるんだね〜凄い!」

「あ、ありがとうございますっ……これは、わたしの唯一の特技なので」

「ペトラちゃんは、なんでこんなにも幅広く演奏技術を身に付けようと思ったの? 多分楽器も魔術と一緒で、絞った方が上達も早いよね?」


 少しの間を空けて、ペトラはポツポツと話し出した。


「――わたし、魔法遺伝型の先祖帰りなんです」


 人とは精霊が創り出した生命体とされ、古代の人間は現代よりも魔法に精通し、精霊に近い存在だったとされている。だが時が経つにつれ血は薄まり、今では人間と分類される人種が人口の多くを占めていた。

 だが時々とても低い確率ではあるが、(いにしえ)の性質を強く宿して誕生する時があるのだ。

 その為、より精霊に近い姿をした獣人種等の特性を持って生まれた者が、先祖帰りと呼ばれる。

 その中でも、見た目だけでなく先祖の魔法まで備わって生まれてきた人が居た。それこそが、魔法遺伝型と呼ばれるさらに特殊な先祖返りだ。


「魔法遺伝型の先祖返りは貴重ですから……縁談の申し込みが可能になると沢山のお話が来たそうです。わたしの魔法だけを目的に……」


 残念ながらよくある話でもある。それだけ魔法遺伝型の先祖帰りは貴重だからだ。

 この国では王族や公爵家に嫁げるのは伯爵家以上の者でなくてはならないが、魔法持ちの先祖帰りなら話は別だ。

 全ての魔術士が魔法を習得できるとは限らない。どれだけ身を焦がしても魔法士と成れなかった者も大勢いる。

 それを最初から持っているという貴重な人材だ。

 恐らく上から下まで色んな所からお見合いの話が来たことだろう。想像に難くない。


「婚約者が選定されていく中、わたしはだんだんと不安になりました。上手くお話することも出来ませんし、地味だし、良いところなんて魔法を持っていることしかなくて……婚約者の方にも呆れられてしまうかも、と思って何かを習得しようと頑張ったんです」

「それで音楽を?」

「はい、普通の人なら一つの楽器を極めるのでしょうが……そのときの私は、普通じゃない自分は普通ではないことをすべきだという思考に囚われていて……調達出来た楽器は、全て覚えました」

「すっご〜」


 リンクスが心底感心したような声を漏らす。


「ありがとうございますっ……でも、婚約者になったロギア様は優しかったので、わたしの心配は取り越し苦労でした。でも、あの日々も無駄ではなかったと思ってます」

「うん、頑張ったことに無駄なことなんてないよ……あれ? 婚約者ってもしかしてこの間の?」

「あ、はい。魔術対抗戦のときの……」


 少し気まずげにペトラは肯定した。

 リンクスは全く気にしていないしむしろ好ましいぐらいだが、側から見ると初対面で宣戦布告する男だ。気にしているのかもしれない。


「私は気にしてないよ? 罵ってきたわけでもなく、ただの宣言だし。正々堂々として清々しい奴じゃん」

「す、すみません……あのときは彼もすごく驚いていたと言いますかっ。やはりタッグ戦なので強い者同士で組んだペアに注目がいってて、あっ……今のはき、聞かなかったことに!」


 要するに、リンクスかシンシアは弱いと思われていたのだろう。


(十中八九、姫様の方だな)


 自身が弱いと思われていた可能性を微塵も思っていないが、リンクスも外見だけならば充分ひ弱そうな見た目をしている。

 言動や態度からは想像もつかないが、今話しているペトラよりもリンクスのほうが身長が低いのだ。そのせいか、少なくとも警戒されるような風格は備わっていない。

 相手の魔力を観察することに長けていれば、話は変わるだろうが……。


「つまり、意外なところから優勝を掻っ攫われて内心めっちゃ動揺してたわけか〜すごい堂々としてたけどね?」

「はい。あの後、挨拶もせずにあのような発言をしたことには後悔してましたけど撤回はしないと思うので、次に対抗戦で当たったときは真剣に相手をしてあげて下さい。お願いします。彼は手を抜かれるのを嫌がりますから……」


 想像以上に面白い男の予感がする。

 そして、真剣なその眼差しを向けるペトラに、リンクスはうっとりとしているような浮かれた返事をした。


「ふふっ、こんな魔力が好ましい可愛い子に言われちゃったら断れないね! まぁ、最初から手を抜くつもりはなかったから安心してっ」

「……ありがとうございます」

「それをお願いする為にわざわざ私に話しかけてくれるなんて……ペトラちゃんに愛されてて羨ましいな〜」

「あ、あっ、愛っ!?」


 わざとらしい態度で話すリンクスに対し、顔を真っ赤にして吃るペトラ。

 その後も終始、ペトラはリンクスのペースに乱されていたのだった……。


恋愛小説を読む様になったのでこういう揶揄い方を覚えてしまったリンクス……

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