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御伽話の魔法使い  作者: 薄霞
一章
18/82

14 結果発表


「わ〜〜い! 一位だっ、優勝だぁ!」

「こらっ! 人前でその様にはしゃがない! それが許されるのは五歳までよっ」


 手を挙げて飛び跳ねながら喜ぶリンクスに言葉では嗜めつつも、シンシアも喜びを隠しきれていない。その証拠に、先程から口角が上がりっぱなしだ。

 現在上位のペアが集められ、正式な順位の発表と景品の授与が行われている。

 期待の景品はというと、食堂スペシャルメニューが食べられる券であった。

 シンシアとリンクスのところへ、イアトが誇らしげに話しかけてくる。


「よくやったお前達。これで今日は他の先生からの奢りで良い酒が飲める。ところでメルクーリ、最後は何の魔術を使ったんだ」


 生徒で酒を賭けるなと言いたくなった二人だったが、言っても辞めないだろうと思い諦めた。


「あれは失せ物探しの魔術ですよ、レーテーの魔術書にあるやつ。姫様の体力とか考えて早期決着すべきだと判断したので、戦わずしてコイン全部取っちゃお〜って」


 最後にウインクを決めて説明を終えたリンクスに周囲が驚く。まさか決着をつけたのがそのような魔術だとは思いもしなかったのだろう。


「ふっ、あの場面でおっちょこちょいのレーテーの魔術を使ったのか。オリジナルも加えたな、あそこまでの大魔術ではなかっただろう」


 レーテーの魔術書には戦闘系の魔術は一切載っておらず、可愛らしい魔術しかない。魔術は人々を笑顔にする為に、という信条を持っていた魔術士だったからだ。

 その為、道楽で読むか子供の頃に読むかしないと手を出さないタイプの魔術ばかり載ってる。


「確かに範囲とか設定を色々広げたけど、恋人との思い出の品を見つけ出す偉大な魔術ですよ。元から!」


 リンクスはイアトにいたずらっ子のような笑顔で答えると、イアトも愉しそうに反応を返す。


「ああ、そうだな。お前らも分かっただろう、魔術は使いようだと。強い魔術だけが正義で絶対ではない」


 声を掛けられた周りの生徒数名が顔を逸らしたり、申し訳なさそうな顔をする。


「そういえば先生、対抗戦中に起きた爆発は何でしたの? とても驚きましたわ」


 他の組の反応を見て、シンシアは自分の担任を問いただす。

 繕わずありのまま教えなさい、という言外の圧を感じたリンクスも、茶化さずにイアトの言葉を待った。


「ヘルクレス、アプスーとキーオン、それからエラフィとモノケロスの衝突が原因で起きた。こいつらは生き残ったが十組以上は巻き込まれて脱落してたな」


 名前を呼ばれた獣人の少女が、とても申し訳なさそうに謝った。

 何度も頭を下げるせいでふわふわの柔らかそうな髪が乱れている。


「すみませんっ本当に申し訳ありません! わ、わたしが慌ててしまって過剰火力で魔術を発動してしまったんです!」


「いえ、ボクが悪いんです! 近くで戦闘してたボクがヘルクレス様の魔術を反射の結界使ってエラフィ嬢にぶつけてしまって! すみませんでした!」


 少女の言葉に男子生徒が庇うように謝り、二人の謝罪合戦が始まってしまった。

 どうやら気弱そうな女子生徒――ペトラ・エラフィに不意打ちで魔術が飛んできたことが爆発のきっかけだったらしい。


「近くで戦闘していた我々がそれぞれ違う大規模な魔術を行使しており、さらなる爆発を誘発してしまった。……王女殿下のお心を乱してしまい、申し訳ありません」


 ペトラのペアである白金の髪を緩く結んだ男がシンシアに頭を下げる。その男の姿にペトラは翡翠色の瞳をさらに潤ませていた。


「頭を上げて、モノケロス様。故意で爆発させたのではなく事故だったのでしょう? 皆さんに怪我が無くて良かったわ」


 シンシアの言葉で場は収まり落ち着きを取り戻したが、リンクスが余計な一言を言う。


「楽しそうなことしてたんだね〜私も混ぜて欲しかったな〜〜」

「こらっ、不謹慎!」


 短時間で二回も「こらっ」と言われたリンクスだが、微塵もめげた様子がない。


「別に普通でしょ〜あの位の爆発なんて」

「それは、第四は魔術の爆発をよく起こしているという意味かな?」


 爆発実行犯達の中で喋ってなかった二人のうち、男子生徒のペアであったエア・アプスーがリンクスに話しかけてくる。


「あれ? 私自分が第四所属って言ったっけ?」

「はは、君が言わなくても学園長が言っていたよ。期待の若手だってね」


(ちょっとクロエちゃん!?)


 またしても同僚がやらかしていた。しょうがないので正直に師団の様子を語る。


「爆発起こしてるのは第七とか第八の研究室の方が多いよ〜次に多いのは……まあ、第四だけど」

「どうせ、お前らのところは遊びで爆発させてるんだろう」

「先生なんで知ってんの!? もしかして一回施設壊したやつ広まってます!?」

「いや、初めて聞いた。俺でもそこまでのことを遊びではしないぞ……そんなことをしそうなのはラディ・アグロー辺りだろう」


 すごい。主犯まで当ててきた。リンクスも大分やらかしているのだが、この際部下になすりつけてしまおう。

 あの事件は、討伐任務が早く終わって暇してたときに、ラディに誘われてリンクス達が乗ってしまったのが原因だ。

 施設を壊したこと自体は事故なので引いたような目で見るのはやめてほしい。


「ちなみに<華燭>はその時何をしていたんだい?」


(うっ、そっちには触れないでよ〜)


 リンクスの嫌な方向へ話を持っていかれてしまった。


「隊長はまあ一緒に遊んでしまうタイプなので……」

「へぇ、先の戦争を勝利へ導いた天才魔法士は、案外親しみやすい人柄なのかな?」

「まぁその、部下には優しいお方です」

 

 先生や他の生徒も、<華燭>が気になるのか傾聴姿勢だ。

 もう私の話から離れてくれと心から願っていると、思ってもいない所から助け舟が出た。


「……先生、俺達はいつまでここに居なくてはいけないんだ?」


 今まで一言も言葉を発さなかったスピサ・ヘルクレスが、イアトに話しかける。

 対抗戦終了後もずっと拘束されていた。そろそろお腹が減る時間だ。

 何故自分達は今も拘束されているのだろうかとリンクスは不思議に思った。


「ああ、すまない。最後に収穫祭の役はどっちにしたいか教えてくれ。これは上位五組への商品だ。二、三年はもう収穫祭に向けて生徒会主導で動いてるんだ」


 収穫祭の役という言葉に、リンクスは警備業務しか思い当たらなかったのでシンシアに尋ねる。


「姫様〜収穫祭の役ってなに?」

「学園では、収穫祭最終日の夜は初代八法士の伝説に因んだ魔獣退治の劇を行うの。その中で、本当に魔術戦をやるタイミングがあってね。もちろん本物の魔獣は使わず、生徒達が魔術士役と魔獣役に別れるの」

「へ〜、楽しそう」


 どうやら来月の頭に行われる収穫祭は大掛かりらしい。

 アルカディア王国では、<豊穣>の大精霊デメテルの恩恵が強いのでこのような豊穣に関わる祭りに力を入れるのだ。

 例年ならリンクスは寮暮らしの仲間と野菜味のお菓子をいっぱい作って食べたり、巡回帰りの部下に買ってきてもらった葡萄酒を飲んで過ごす。

 リンクス達第四部隊の得意とする戦闘の機会が無いお祭りなので、職務としては比較的暇な時期だ。

 リンクスはシンシアの耳へと顔を近づけて、役について尋ねる。


「私達一緒にした方がいいかな?」

「そうしましょう。貴女はどちらがやりたいとかあるかしら? 今回は私に合わせてもらったんだもの、次は私が貴女に合わせるわ」

「じゃあ、魔術士で!」


 全員が教師に希望を伝え解散となったタイミングで、先程の青年――ロギア・モノケロスがリンクスに向かって来た。

 その背後を少女が慌てて追いかけてくる。


「リン・メルクーリ、次は負けんぞ。その座に座っていられるのも今のうちだけだ」


 睨みつけるようにそれだけ言うと颯爽と立ち去っていく。


「ありゃ〜? 敵認定されたかな?」

「あ、あの! すみませんっ、敵認定じゃなくてライバルみたいな感じですっ。言い方は、ちょっと偉そうだけど……で、では失礼します!」


 後から到着した彼女が、必死に弁明して去っていく。リンクスが何も言い返せぬまま二人して去って行ってしまった。


「……ふふ、あははっ」


 残されたリンクスは、思わぬ言葉に声を上げて笑った。シンシアが不思議そうにリンクスを見る。


(私にそんなこと正面切って言ってきた奴、久しぶりだなぁ〜)






 一位の座を奪い取る宣言をされた後、リンクスとシンシアは寮までの道のりをゆっくりと歩いていた。

 影が長く伸びていて、否応なく時間の経過を知らせてくる。


「なんだかんだ楽しかったな〜」


 数時間に及ぶ魔術戦が終わったが、疲れなど一切感じさせない声音でリンクスが感想を述べている。

 リンクスには今回の対抗戦はお遊びでしかなかったが、長時間に及ぶ魔術戦の経験などないシンシアはとてつもなく疲弊しているだろう。

 さりげなく歩幅をシンシアに合わせて歩く。


「ねぇねぇ姫様〜」

「なにかしら? メルクーリさん」


「メルクーリさんじゃなくてもっと気軽に呼んでいいよ。一緒に魔術対抗戦した仲じゃん?」


「ふっ、どんな仲よ…………じゃあ……リン、さん」


 シンシアはこのようなやり取りに馴れないのか、恥ずかしがっているのが顔に出ている。

 教室や食堂で貴族令嬢達と談笑している時とは大違いだ。


(共犯者になってからの姫様、雰囲気変わったなぁ……今の方が断然良い)


 リンクスは何故か無性にくすぐったくなった。


「別に呼び捨てでいいのに〜」


「わたっ、わたくしはこういうの慣れてないの! こ、こんな親しげに話しかけてくる子は、周りに弟妹くらいしか居なかったし……」


 なかなか可哀想なことを聞いてしまった。これ以上この話を広げるのは良くない。


「よっし、姫様。これからの為の験担ぎをやろう! はい、手を出して」

「え? えっ?」


 動揺するシンシアの手を自身の手の甲に重ねる。そして、掛け声と共に空へと豪快に手を振り上げた。


「よ〜し、当て馬役頑張るぞ〜! えいえいお〜!」


「あ、当て馬!? 貴女そういう解釈だったの!?」


 シンシアが驚きながら「違うわよっ!」と元気にツッコミを入れてきたことに、リンクスは心底楽しげに笑った。



 * * *



 シンシアに話しかける者たちは、第一王女を踏み台にして王に取り入りたいだけだ。選んだ理由もシンシアが一番利用しやすそうというだけ。

 普通でしかないシンシアは、王女としての期待を向ける顔が無才を知ってガッカリと言いたげな顔になるのを沢山見てきた。

 だから、優しい顔をして擦り寄ってきた者の多くが、シンシア自身を望んでくれているわけではないと知っている。

 そんな環境では自分自身の価値を見出せなかった。他のきょうだいに比べてどうだ。


 ――自分には王の娘であるという価値しかない。


 だが、リンクスの表情には媚びを感じない。

 協力を持ちかけた時も、気が乗らなければ断る様子が感じられた。シンシアに対する個人的な興味も感じられない。

 それなのに、リンクスはシンシアに協力し、シンシア自身を見てくれる。

 シンシアの言葉でリンクスを動かすことが出来たことが、どれだけ嬉しかったか。


(私の価値を貴女が肯定してくれたようだった……それがとても嬉しいの。だから、私は貴女の期待に答えるわ)


この後は幕間が数話入ってから二章になります。

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