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御伽話の魔法使い  作者: 薄霞
一章
14/82

10 そして、幕開け(お姫様抱っこで)

 

 ――ついに、対抗戦当日。

 季節は秋となり始め、木々も色を変え始めている。

 風は冷たく感じるが雲一つない晴天の下。リンクスとシンシアは、共に会場の地に立ち最後の打ち合わせをしていた。

 まだ開始していないので、生徒達はスタート地点近くにバラバラに集まっている状態だ。

 リンクス達の様子を離れたところからチラチラと見る生徒はいるが、話しかける勇気はないらしい。

 服装は指定が無かったので、皆思い思いの服装だ。リンクスとシンシアは運動着を着用している。


「昨日までの内容はしっかり入っているわね?」

「うん、だいじょ〜ぶ」


 リンクス達は作戦通り、日中は関わらず夜にシンシアの部屋に集まり対抗戦の打ち合わせを行った。だが、対抗戦は毎年仕様が微妙に違うらしく、序盤の立ち回りぐらいしか作戦通りとはいかないかもしれない。

 今日の対抗戦は成績に入るわけではなく、親交を深めることや入学時の実力を計る事を目的に開催される。

 そんなわけで気楽かと思われる今回の対抗戦は、森の中に隠された宝を見つけるだけというシンプルなルールなのだが……宝は相手チームから奪うことも許されているので、戦闘になる可能性もあった。

 魔術による攻撃は全て結界に吸収されて直接的なダメージが入らないとはいえ、わざわざ当たりたいとは誰も思わないだろう。

 また、戦闘でペアの片方が脱落した場合、結界の作用が働き共に退場させられるので助け合って生還しなくてはならない。意外にもシビアなところがあるのだ。

 この対抗戦が、穏便な宝探しになるかはその年によって変わるらしい。血気盛んな年もあるようだ。

 そして、何故か毎年変わらない要素が一つある。それは、宝の一つが森の中央にある小さな塔のどこかに隠されているということ。

 リンクスとシンシアは、まずこの塔の宝を目指すことにした。


「まずあの魔術を使ってから塔を目指して進むけど、道中で宝を発見した場合はそっちも回収。その後は戦闘をできるだけ避けて必要に応じて倒す!」

「ええ、大丈夫そうね。貴女の方が負担が多くてごめんなさい」

「いーよいーよ、対抗戦の情報集めてくれたのは姫様じゃん? お膳立てしてもらってるようなもんだよ。もう勝ちは見えたね」


 迷いのない目でシンシアを見つめるリンクスに、シンシアは笑みをこぼす。

 実際にリンクスは助かっていた。基本的にリンクスの周りは学園を卒業してからそこそこ経ってる者が多く、情報が少し古いので幾つか変わってる所もあったからだ。

 例えば、飛行魔術は割と直線移動なら習得している生徒は多いらしく、高く飛ばずに高度な飛行技術を見せなければ大丈夫そうだ。

 そして防衛魔術の単位がなくても対抗戦中は使用可能らしい。そういう魔術は他にもあるそうで、確認は大事だとシンシアが教えてくれたのだ。


「それに第四部隊としては、同じ年頃の子達に簡単に負けるわけには行かないからね!」

「えっ! 貴女やっぱり第四だったの!?」

「ん? 言ってなかった?」

「察してはいたけど聞いてません! 未成年の師団員の情報は、たとえ王女であっても探れないもの」


 少しだけ怒ったように頬を膨らませたシンシアだが、全然怖くないので微笑ましいだけだ。


「あの<華燭>から名前を取ったんじゃないかって思ってたけど、まさか本当に……因みに色々ある噂って本当なの?」


リンクスが首を傾げると、シンシアは内緒話をするように声量を下げ話す。


「他の魔術師団の隊員を半殺しにしたとか、お兄様に喧嘩を売ったやら魔獣を笑いながら葬るとかっ」

「う〜ん……少〜し間違ってるけど大体合ってる、かも?」


 誰だ魔獣を笑いながら葬る、とか言ったやつ。

 リンクスは情報の出所が知りたくなった。一つ訂正しておきたいところがあるので。


(殺すこと自体を笑ってるわけじゃなくて、魔術による戦闘行為が楽しくて、だから少し違うんだけどな)


 言い訳が出来ず曖昧に答えると、シンシアは次々に尋ねてきた。


「じゃあ第四の副隊長と怪しい関係という噂や三幹部方が他の隊からの勧誘を蹴り続けて今の地位に居続けているのは? あっ、性別は? 若いということしか公表されてないのよね!」

「なんでそんな興味津々? 副隊長の話は違う――っあ! 集合だって!」


 丁度良く集合のアナウンスがかかりシンシアに移動を促す。シンシアは疑問の答えが満足に得られず残念がっているが、素早く切り替えて集合場所に向かう。


(私の噂いっぱい流れてるんだけど〜怖っ)


 それにリンクスは、自分のところの幹部達が引き抜きにあってた件を全く知らなかったので、次の師団長会議でこの件を議題に出して確認すると決めた。


 学園所有の森は、程よく手入れをされているのかリンクスの想像よりも歩きやすく感じる。

 対抗戦の結界が張ってあるので木々には傷はつかないだろうが、気分的にこういった場所で火の魔術は使いたくないものだ。

 スタート地点である森の東には脱落者のための休憩テントが設置されている。観戦席は設けられておらず、スタート地点には新入生と先生方しかいない。

 だが、学園長が魔術で対抗戦の様子を観戦してるらしく、気負わないようにとお達しが出た。


「皆揃っているな――それでは、今年の新入生オリエンテーション・魔術対抗戦の開催をここに宣言する! ……仰々しく言ったが半分は遊びだ。今からルール説明をするぞ」


 救護テントの横に設置された木製の台に乗り、担任のイアトが怠そうに説明を始める。


「え〜この森の中にあらゆる方法で財宝が隠されているから、自分の力を発揮しペアと共に持ち帰れ。時間制限は宝が全部見つかるまでだ。ゲームだと思ってペアと親交を深めながら仲良く攻略しろよ。他のペアと遭遇して宝を巡る争いが起きた場合は、魔術で決着を付けろ。一応魔術対抗戦だからな」


 近くにいた防衛魔術の先生が付け加えるように話す。


「今回の対抗戦の結界は、中級魔術三回分は確実に耐える仕様になっているから、それ以上攻撃をもらった場合ここに自動的に戻ります。そうしたら結界の中に戻らず私の元に来てくださいね?」


 万が一でも怪我をしてないか確認しないとなので、と穏やかに話す防衛魔術の先生の笑顔に副音声があるのなら「報告しに来なかったらどうなるか分かってんだろうな、あぁん?」だろうなとリンクスは思った。

 今のところクセの強い教師ばかりで、ここの学園長をやってるクロエに対し、リンクスは自分の部隊を棚に上げて同情した。


「去年とは違う罠を張ってある楽しみにしとけ。終わりの合図を鳴らしたら早めに撤収しろよ。何か質問がある奴いるか?」


 前方にいた生徒が挙手しイアトに尋ねる。


「もし宝が全部見つからなかった場合は?」

「陽が落ちる前に強制終了だ。あと何か質問ある奴は?」

「はい!」


元気そうな童顔の少年が、ピシッと手を挙げたのでサーペンス先生も無視せず質問を問う。


「財宝ってどんな見た目なんですか!」

「あぁ、このコインだ」


 そう言うとサーペンス先生は、上着のポケットから少し大きめのコインを取り出すと生徒達に見えるように掲げる。


「見ての通り普通のコインより大きくて雑に作られている。分かったか?」

「はーい」


 雑とか言わないで欲しい。やる気を無くすから……。


「あぁ、そうだ。集めたコインの多かった上位十組は名前が張り出されて、景品が出る。……他に質問も無さそうだから早速始めるぞ、位置につけ」


いきなり始めようとするので、生徒達は慌ててスタートライン際に立つ。リンクスはその場から動かずシンシアに手を伸ばした。


「姫様。腕を首に、口と目を閉じて」


 リンクスの指示にシンシアは従順に従う。

 慣れを感じる程のスムーズさで、リンクスはシンシアの膝裏に片手を回し抱き上げた。

いきなりシンシアを横抱きにしたことに気付いた周りの生徒が、目を丸くして声にならない様子で驚いている。はたまた声に出てしまい咄嗟に口を手で押さえた人もいる。

 その様子が離れたところにいる生徒にも伝播し、視線が続々と集まっているのを感じる。


(でも、こっちを見るのはやめたほうがいいと思うよ)


「それではこれより、新入生オリエンテーション・魔術対抗戦を開幕するっ――初め!」


 合図の後、すぐさま魔術の詠唱をして発動させる。ごく簡単な、初級の光魔術を。


「――閃光」


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