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御伽話の魔法使い  作者: 薄霞
一章
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6 王女からのお誘い

やっとあらすじ部分まで来ました。

 充実した休日も終わり、今日からとうとう本格的な学園生活が始まった。新たな生活に浮かれた者が多いのか、学園はとても賑わっている。

 初回の授業は自己紹介的な時間が多かったのでまだ分からないが、一応リンクスのレベルでもついていけそうだ。認めたくはないがラーヴァのスパルタ教育が役に立っている。

 魔術学園とあるように、やはり授業の多くは魔術に関することだ。

 たとえば、魔術史では魔術の誕生からこれまでの魔術士達の歴史について、基礎魔術学では術式の構成など魔術の基本的な仕組みから学ぶ予定らしい。

 リンクスにとっては座学ばかりで物足りないが、実際に魔獣を倒しにいくなどの実践的な授業は防衛魔術の単位を取得後に履修可能だ。一年は大人しく座学のみ。

 そんな残念なところもあるが、魔法薬学や古代呪文語などリンクスがあまり知らない分野の授業もあり想定よりも楽しめそうだった。


(魔術系以外も豊富そうだし大変だな〜)


 本日最後の授業である占星術の授業を行った天文台付きの別館を出たリンクスは、一人本校舎に向かって歩いていく。

 よく行動を共にするエレナはそのまま天文学クラブを見学するそうなので、初めての単独行動だ。


(この後どうしよう。他の人たちみたいにクラブ見学をしないとダメかな〜)


 だがこのように、リンクスは既に部屋に帰りたくなっていた。ぽかぽかしたお昼寝日和の天気にリンクスはだんだん眠くなって来ていたからだ。

 なにせ学園は平和そのもの。気も緩むというものだ。

 思わず近くに設置されているベンチに少々だらしなく背中をくっつけてしまう。

 そのままの状態でぼんやりと見学するかを考えていたが、硬いベンチを寝床にするより寮に帰ってふかふかベッドを寝床にする方がいいと結論を出す。

 やはり帰ろう。そう結論づけたリンクスは寮に向けて歩き出そうとして――


「メルクーリさん、ちょっといいかしら?」


 既視感を感じる。つい先日も、同じことがあった気が……気がするどころではなかった。

 全く同じ状況だ、とリンクスは愕然とする。

 ぎこちない動作で振り返ると、やはりそこには想像通りの人が君臨していた。


「な、なんでしょうか? 王女殿下……」

「今はお互い一人の学生同士、必要以上に遜る必要はないわ」


 いくら考えてもこの場を切り抜ける方法が思いつかない。

 しかも、タイミングの悪いことにリンクス達の周りに人が増えて来た。チラチラとこちらを伺う視線を感じる。


「活動見学までにあまり時間がないから、単刀直入に言わせてもらうわね。――メルクーリさん、私と一緒に対抗戦に出て下さらない?」


「………………わ、私と!?」


「ええ、貴女と出たいの」


 驚きのあまり声も出ないリンクスの様子に、シンシアは簡潔に答え去っていった。


「詳しい話はまた後で、……良い返事を期待しているわ」

 

 周り生徒達の悲鳴があちこちから聞こえる。

 悲鳴が聞こえていないかのように颯爽と歩いていくその後ろ姿に声をかけることもできないまま、シンシアの姿が見えなくなるまで途方に暮れていたリンクスであった。


 その後リンクスはやっとの思いで寮に帰ると、寮監から手紙が渡された。差出人はどうやら王女らしい。

 恐らく、先程のことが広まってしまえば他の人間はリンクスを誘えない。誰も王女の不興を買いたくないだろう。

 だから、あそこで分かりやすく広まるように周りを牽制したのだ。


(王族に喧嘩売るようなことできないもんね〜……はぁ、捕まる前に逃げてればよかった)


 手紙の内容は部屋へのご招待だった。わざわざ部屋に招くなんて本気だとしか思えず、リンクスはため息を漏らす。

 明日の夜は王女との対面になってしまったリンクスは、今後のことを考えて肩を落として項垂れた。



 * * *



 リンクスは現在、寮の最上階にある部屋の前に立っていた。手はドアをノックする形のままに、目を閉じて様々な決意を固めているようだ。

 ペアの件についてリンクスは、断れそうなら断りたいと思っている。

 現状美しいだけの人という印象のシンシアと、愛想笑いと上辺だけの貴族令嬢特有の会話を続ける自信がないこと。

 そして、リンクスはあまり守りながら戦うのは得意ではないので、対抗戦中ずっと一緒に行動し続けるのは面倒なことが理由だ。

 対抗戦中は学園長が護る手筈になっているので、リンクスにはペアを組む理由がないというのもある。


(このままだと不審者だ……よし、入ろう)


 ドアをノックして名乗ると、すぐシンシアの侍女が現れた。

 実はこの学園では、侍女等の同伴を容認している。学園に入るときに入念な検査や取り調べ行われるが、従者専用の建物に部屋がしっかり用意されてるようで一度手続きを済ませれば不便はないらしい。

 恐らく護衛も兼ねてるだろう侍女に案内され、リンクスの部屋より二倍くらい広く豪華な部屋の奥に向かう。そこには一人掛けのソファに座るシンシアが居た。


「待っていたわ、メルクーリさん。さぁ座って」

「……お招きいただきまして、ありがとうございます?」


 リンクスの疑問形の世辞に、シンシアはクスッと小さく微笑むと侍女に紅茶の用意を頼む。

 女性は王女の侍女として選ばれただけあり、手際良く準備をしていく。白いカップに注がれた紅茶はとても鮮やかで味も見事なものだった。


「お、美味しい……」

「お口にあったようで良かったわ」


 早速骨抜きにされている。


「――さて、緊張も解れたようだし早速本題に入るわね。貴女に協力して欲しいことがあるの」

「協力って対抗戦のことですよね? 私が師団の一員だから、対抗戦の相方にと……?」

「師団の人間だから期待してペアにという思いもあるけれど、対抗戦は本命ではないの。私の目的を叶える為の協力者になってくださらないかしら」

「……目的…………?」

 

 犯罪の片棒でも担がされるのだろうか……と馬鹿な事を考え始めてしまうリンクスに、シンシアは話を続ける。


「貴女は貴重な存在よ。平民でありながら希少な光属性を持ち、王国魔術師団一番の武闘派集団に在籍……まるで物語のヒロインのようだわ」


 完全に設定の素性を調べられている。リンの設定である天涯孤独の孤児だという事を誰にも未だ話していないにも関わらず、シンシアは既に特定していたのだ。

 いつから目をつけられていたのか分からないが恐ろしい。


(多分情報筋は王家の関係者とかだから、私の正体までは分からないはず)


 今のリンクスは正体バレに敏感になっている。

 リンクスは、王子の話を聞いてからシンシアにも知らぬ所で顰蹙を買っていないか心配なのだ。

 そして、余計なことまで喋りそうで近くに居たくないからシンシアを避けたい。


「ここ数年このような物語が流行っているのを知っていて? 不遇な扱いを受けていたヒロインが、才能を引き立てられ貴族のいる学園に入学するの。そこで、王子様や高位貴族の子息と恋に落ち、結ばれる。お話によって細かいところは違うのだけど、概ねの流れはこのようなものね……ねぇメルクーリさん、貴女に似ていると思わない?」


 なにが、と聞かなくても分かる。


(ヒロインと私の過去がって事だよね? でも、なんでこの話を私に?)


 疑問ばかりで頭が破裂しそうになっている。王女をじっと観察しても真っ直ぐな瞳に大真面目な顔で話しているだけだ。   

 これで揶揄っているだけなら、リンクスはしばらく女性不信になる自信がある。


「このような物語が、何故流行ったのか。それはひとえに政略結婚への不満からだと私は考えているの……貴族は階級が高ければ高いほど結婚に自由がない。だから自由な恋愛に憧れを抱いたの」


 それは一理あるかも知れない。

 身近な人間に、とてつもなく自由に執着してる人がいるから分かる気がする。と、リンクスはそんなことを考えながら話の続きを促した。


「でも、いつからか小説の流行は現実に強い影響を及ぼし始めたの。『身分差がある恋愛』への憧憬が、『婚約破棄をして幸せになる』という願望に変わってしまった」


 シンシアはどこか苦しげにも聞こえる声音で語る。


「憧れを抱いただけなら、誰も動かなかったわ……貴族の中には恋愛は愛人とする、なんて考えの人もいる。一夫一妻のこの国では浮気は良くない事だけど、双方に理解があれば他家には気づかれないようにお互い愛人を持つ人もいると噂で聞いた事があるし……」

「もしかして、誰か本当に動いちゃったんですか?」

「とあるお家の子息がね、『自分は愛する人と結婚する!』と言い出し、そこから数件続いて……。そして残念なことに、この流れを後押ししたのは王家、国のせいでもあるのよ」

「なんで王家が?」


 リンクスが身を乗り出して尋ねた。


「先王のことよ……愛する人と結ばれずに国の為、別の人と結婚して悲惨な目にあったことぐらいは、師団の貴女なら知っているんじゃない? そしてこの事実は貴族の中にも知れ渡っている。騒動を起こした子息は、事情聴取の際言っていたわ……『このまま結婚すれば自分も先王陛下のようになってしまう』って」


 シンシアは、それまでリンクスにしっかりと合わせていた視線を少し下げた。

 彼女はリンクスのことを情報に疎いと見て簡潔に先王のことを述べたが、そのことに関しては彼女はよく知っている。

 そもそも、<華燭>の八法士就任は前国王陛下の代からだ。


 ――リンクスの最初の王は彼の人だった。


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