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2・2 億劫で仕方ない

 王宮の北の森。それほど広くない。二時間もあれば通り抜けられる。俺は入ったことはなかったが、王宮騎士団の団員であるエルネストは定期的に巡回をしているという。昨日の話に出た碑も知っているとのことで、訓練のついでに案内をしてもらうことにした。


 木漏れ日の差す穏やかな道をエルネストと並んで歩く。後ろにはバルトロ。鳥のさえずりや、ちょろりと姿を見せる小動物があまりに穏やかすぎて、目的を忘れそうになるほどだ。こんなに素晴らしい密会……んんん、散歩スポットを破壊するのは忍びない。


「これだ」とエルネスト。

 言われなくても分かる。開けた場所の真ん中に高い柱が屹立している。確か双五角錐柱そうごかくすいちゅうという形のはすだ。周りをぐるりと回る。五面全てに古語らしきものが彫ってある。だが風雨で削られほとんど判別できない。


「騎士団では戦勝記念碑と伝わっている」

「ある意味、正しいですね」とバルトロ。「人間が魔王に勝った証ですから」


 そうなのだろう。だが昨日からずっと引っかかっていることがある。

 女神はどうして俺やエルネストの前に直接現れなかったんだ?

 さすがの俺も女神をこの目で見れば、使命感が湧いたかもしれない。俺たちは戦う当事者なのに、全てを伝聞でしか知らない。

 そこに意味はあるのかないのか。俺が考え過ぎなのか。


 読めなくとも文字を追う。と、腰の高さに多きなヒビが入っているのを見つけた。


「ヒビだ。エルネスト。これは前からあるのか?」

「知らん。近くで見るのは初めてだ」

「使えないヤツ」

「そんなに碑が気になるか?」

「むしろなんでエルネストは気にならないんだ? 古語だからか?」

「ほぼ消えているだろ。読めやしない」

「文書に碑文について書かれているかも」とバルトロ。


 今日、本部に古語の専門家三人が来て、古文書解読係が発足した。彼らに文書の現代語訳と、重要事項のピックアップを任せている。それであいた時間を俺たちは呪文の暗記や訓練に使える。

 本音を言えば、全て自分で読みたい。だがエルネストには無駄な時間だ。


「ヒビは私のほうで確認します」とバルトロ。

「頼みます。――碑の確認はできたから訓練を始めるか。エルネスト、少し戻ろう」

 もし碑を壊したら困る。

「いや」と否定するエルネスト。「この先に池がある。木も少ない。お前、本当は嫌だろう?」

 幼馴染を見る。脳筋堅物騎士でも二十年も付き合っていれば、口に出さない好悪を理解しているらしい。侮れないヤツだ。


 並んで歩き出すと慌ててついて来たバルトロが、

「訓練の場所を変えてもらいます」

 と言う。

「いや、構いません。他に適した場所があるとも思えないですからね」


 騎士団の鍛練場を借り続けるのは、あちらに不満が溜まるだろう。いくつもある庭園は開けた空間ではあるが、ギャラリーが集まる。苦戦しているエルネストの姿を晒すのは、双方にとって良くない。

 他は町の広場くらいしかないが、ここも不可。


 せっかく見つけたデートスポットを荒らすのはイヤだが。

 でもそのデート自体、いつになったらできるんだか。


 ……あの侍女たちを帰りに誘うか。訓練をみっちりした後の俺に体力が残っていればだが。



 ◇◇



 訓練は実に順調だ。俺は。昨日よりコントロール力がついている。池の上空だけを使って術の練習ができている。攻撃の軌跡が出るから力が発動しているのは確かだ。ただし威力は分からないし、小手先だけ器用になる気がする。

 まあ大技はエルネストに任せればいい。


 あいつはまだ、才能を開花させていないが。


 剣を振りながら古語の呪文も唱えるというのが、今まで身につけてきた動きと異なるからかもしれない。

 エルネストの顔には焦りが見える。

 バルトロは王宮に戻ったのでいない。


「腹が減った」

 朝イチに侍女たちからもらった菓子を持って来ている。草むらに置いたカゴを取り、中から適当なものを手にする。

「エルネスト」

 こちらを向いた堅物に菓子を放る。さすがはエリート騎士、利き手ではない左手で、やすやすと受けとる。


「ジスランがもらったものだろう。俺が食べたら悪い」

「アホか。俺たち全員への差し入れだ」

「お前しか見ていなかった」

「俺のウリは博愛精神だぞ。他のヤツの手にも渡ると分かっているはずだ」

「博愛精神? 節操なしの間違いだろ。うさんくさい笑みばかり振り撒いて。だが、腹は減った。いただくか」


 堅物は菓子を不味そうにもそもそと食べ、水筒で喉を潤した。と思うと、すぐに訓練を再開しようとする。

「なあ、エルネスト」

「なんだ」

「お前、本当に気になる相手すらいないのか?」

「いない」

 断言かよ!

「ま、お前の好みは戦える強い女だもんな。そうそういないか」

 ややシュンとする堅物。なんでそんな性癖になったのか。語るには長い理由がある。


「そう言えば決めていなかったが、組織である以上、責任者は必要だ。エルネスト、お前が仮の隊長な」

「どうしてだ」

「騎士団でも隊長だろ。兼務しろ。平和な俺には戦闘集団のリーダーなんて、向いていない」

「……まあ、いい。引き受ける」

「頼んだ」

 それからも少しの間雑談をして、根を詰めすぎている阿呆の気を紛らわす。


 そろそろ訓練に戻ろうかというとき、近づいてくる足音が耳に入った。数人はいる。待つことなく、すぐに一行が現れた。

 第一王子ディディエ殿下と宰相の息子マルセル、それと警護の騎士と侍従たちだった。


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