《おまけ》SS『お預けジスラン』
本編直後のお話です。
以前、活動報告に載せたものです。
僧坊のひとつしかない椅子にすわったカロンが、真っ赤になっている。手にしているのは俺が書いた彼女に捧げる詩。赤裸々に思いを綴ってある。絶対に誰にも見せないと考えていたが、カロンと思いが通じ合ったなら別だ。
むしろ俺の本気度合いを知ってほしい。
「これ」とカロンが傍らに立つ俺を見上げる。
「読み上げるか?」
「いや! 大丈夫です! 読むだけで十分です!」
羞恥の表情のカロン。めちゃくちゃに好みだ。
「ほかの詩と違いすぎませんか……?」
「儀礼と本心の差だな」
そう答えると、カロンはますます赤くなった。
「先輩、こんなことを考えていたのですか?」
「そう」
にっこりと笑う。自愛に満ちた神官用の笑みじゃない。
カロンは目を泳がせて、詩が書かれている紙をたたみ始めた。
「気に入らなかったか?」
「まさか! すごく嬉しいです! もらってもいいですか?」
「もちろん」
「ありがとうございます!」
詩を胸に当て、立ち上がるカロン。
彼女を引き寄せようと手を伸ばしたら、飛び退られた。
「カロン?」
「ただ、その、ちょっと、今日は先輩が過剰というか。キャパオーバーというか」
真っ赤な顔をしたカロンはじりじりと後退して扉に近づく。
「これ以上先輩を摂取したら心臓が持たないというか」
「私はカロンが足りないが?」
「む、む、む、む、ムリですっ、ごめんなさいっ」
いやいやいや、俺もムリ。
「先輩すごすぎて、ついていけないんですっ」
まさか、引かれたのか!?
「……手加減する」
と言っても、まったく自信はない。一年もこじらせていたからな。でも努力はする。
だがカロンは首を横に振った。
「先輩とのことは、ちゃんと全部覚えていたいんです。だから先輩に慣れるまで、少しずつってことで!」
「いや、待て」
素早く部屋を出ようとしたカロンの腕を取る。
「嫌わないでくださいね」
背伸びをしたカロンが俺の口元にキスをした。
「大好きです、先輩」
真っ赤な顔で恥ずかしそうにそう言って、カロンは僧坊を出て行った。
――なんだあれ。
可愛すぎるんだが!
キスが口元って。真面目だから、唇にする勇気がでなかったのか?
あまりの愛らしさに呆然として、引き止めそびれてしまったじゃないか。
深く息を吐いて、よろよろと寝台に倒れ込んだ。
『少しずつ』なんて絶対にムリだ。今すぐカロンを連れ戻したい。
だけど懸命に俺に慣れようとするカロンはきっと可愛い。それも見たい。
どうすりゃいいんだ。
エルネストのアホに女神攻略法を伝授している場合じゃないぞ。こっちの道もだいぶ険しい。
ああ、くそ。
やる気満々だったのに。
お預けをくらった状態で、どうやって夜を過ごせというんだ。
そうだ、始末書。
仕方ないからあれでも書くか?
どれほどカロンが可愛いかなら、二十枚くらいあっという間に書けるだろう。
ああ、でも。
実物に触れたい……。
《おしまい》




