《おまけ》カットしたエピローグとSS
《エピローグ》の2と3の間に入れるつもりだったもののカットしたお話と、それに続くタラマンカ伯爵令嬢のSSです
大広間を出ると、どっと女性たちが押し寄せて来た。控えの間に入る前もすごかったのだがそのときは、謁見を控えていたから侍従たちがバリケードを作ってくれた。今それはない。
「ジスラン様、無事でよかったわ」
女性たちの中心でシヴォリ侯爵夫人が微笑んだ。
「ご心配をおかけしました。すべて神のご加護です」
みなが好きな自愛に満ちた笑みを浮かべる。
「ぜひうちにいらっしゃってくださいな。ささやかですがお祝いをいたしましょう」
「ダメです」
小さい声でカロンが反対した。
「あら、巫女見習いのお嬢さん。あなたもぜひ一緒にいらっしゃいな」
カロンが珍しく俺の袖を掴む。
「夫人にはお世話になってます。けど、先輩はずっと神官をお休みしていたから、今日は神殿に帰らないとなんです」
女性たちから文句の声が上がる。
少しぐらいは、ジスラン様だって私たちに癒やされたいはずというのだ。
「先輩、帰りますよね?」カロンが不安そうに俺を見上げる。
距離が近い。昨日のキスを思い出す。
「もちろん」
今はカロンのそばにいたい。彼女はちゃんと生きていると、確認していたいんだ。
シヴォリ侯爵夫人を見る。
「お伺いしたい気持ちでいっぱいですが、魔の者との戦いで私の身は穢れております。本日は神殿で禊をしなければなりません」
「……それならば仕方ありませんわね。では日を改めましょう」
「ありがとうございます」
微笑むとシヴォリ夫人は一歩下がり、道を開けてくれた。
「みなさん、ジスラン様を通して差し上げて」
夫人に礼を言って女性たちの間を通り抜ける。袖を掴んでいたカロンの手は離され、ただそれだけのことに落胆している自分に驚いた。
◇続きのSS◇
(タラマンカ伯爵令嬢のお話)
「では代わりに明日、ジスラン様の慰労会をしましょう」
シヴォリ侯爵夫人に言うと彼女は、
「そうね」
と微笑み、それから私の手を掴んだ。
「夫人?」
にこりと笑みを浮かべただけでなにも言わず、夫人は私を連れて人混みから抜け出した。
「会の準備はしましょう」
「『は』?」
「ジスラン様は来ないかもしれませんわ」
「なぜですか」
「お気づきにならない? 私たちの手に口づけをしなかったわ」
「そうだわ!」
いつだってジスラン様はそうしてくれる。
「ひとりをお決めになったのかも」
「まさか、あのジスラン様が?」
「ええ」
「誰かしら」
「目の前にいたでしょう?」
夫人が微笑む。
振り返り、目に入る女性の名前を上げていく。でも夫人は笑顔で顔を横に振るばかり。
「向ける目が全然違いましたのよ」
「そんな方がいましたか?」
思い返してもまったくわからない。
「巫女見習いのお嬢さん」
「え、まさか。だってあんな地味で真面目そうな……」
思わずふたりが進んだ廊下の先を見る。
見習いはジスラン様の好みじゃない。基本的に彼は来るもの拒まずだけど、華やかで積極的な女性が好きなのだ。
だけど夫人は確信しているみたい。
「そんな。完全にノーマークでしたわ」
「残念だけれど、他の夫人や令嬢よりはよかったと思わない?」
「……確かにそうかも」
「ジスラン様には十分楽しませてもらったわ。感謝して次を探すことにします。あなたもそうなさい」夫人が微笑む。「間違っても刃傷沙汰に及んだりしてはダメよ。異性なんていくらでも代えがきくのですからね」
「……まだその域には到達できなさそうですわ」
「では今日は私と遊びましょうか。素敵な殿方はほかにもいるのよ」
夫人が私と腕を組む。
「どのような男性がいいかしら? 趣向を変えて逞しい騎士にする? 芸術家? 一見真面目な官吏?」
「夫人には敵いませんわね」
「去るものは追わない主義なの」
夫人がにっこり笑ったから、私も微笑み返す。
「でも。最後にたくさん寄進をしてあげましょうか」
その声は少しだけ淋しそうに聞こえた。




