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1・2 簡単過ぎだろ

 玉座の間を出たエルネストと俺は宰相によって別室に連行された。そこには初代国王とその仲間が書いたという文書が山と用意されていた。

 内容ごとにまとめられているというそれらを手に取り、思わず、

「ゲッ」と声が漏れ出る。

「どうした」と俺の手元をのぞいたエルネストはピシリと固まった。


 もっと早くに気づくべきだった。

 初代国王の時代ははるかな昔。だから使われているのは古語だ。教養として習っているから読めないことはないが、スラスラというほどじゃない。しかもエルネストは古語が大の苦手だったはず。


「まさか読めないか」と宰相が訊く。

「いえ、大丈夫です」

「そうか。一刻も早く、聖なる力を使いこなせるようになってくれ。持ち出しは厳禁だが、書き写すのは構わない」


 それから幾つかの説明をして宰相は去り、部屋にはエルネストと俺の二人きりになった。

 並んで椅子に座る。目の前の机には文書の山。


「……あり得ない。面倒くさい。やりたくない」

 俺がそう愚痴るとエルネストが怒気を滲ませた顔を向けてきた。

「陛下や民を守る任務だぞ! 名誉なことじゃないか!」

「そりゃお前はそうだろうよ、騎士だもんな。だが俺はただの神官だぞ。魔物と戦え? バカ言うな。俺の仕事は神を讃えることだ」

「嘘をつけ。『結婚が禁じられているから、女の子と遊んでも責任をとらなくていい』って言って神官になったくせに。外道。歩く煩悩。喋る猥褻物」

「否定はしないがな」軽蔑の眼差しの幼馴染の足を蹴り飛ばす。「仕事は真面目にこなしている。知っているだろうが」


 ラクに生きるためにはクビになってはいけない。素行のアレコレだって、神官としては一目置かれているから目こぼしされているのだ。


「神より女のほうが好きなくせに」

「当然だろ」

「何でお前みたいな下衆が選ばれたんだ」

「顔って言っていたじゃないか」


 エルネストは不満げに口を引き結んだ。

 こいつも結構なイケメンだ。黒髪黒瞳で精悍な身体に凛々しい顔つき。女性人気は王宮騎士団随一だ。だが残念なことに堅物と性癖をこじらせすぎて、二十五歳にして女性と交際したことがない。異性に興味が無いわけではないようだから、ただのむっつり童貞野郎なのだ。


「……俺は実力と言ってほしかった」

「お前だって不満はあるじゃないか」

「顔なんて騎士には何の役にも立たん」


 そんなことはないが、面倒なので黙っておく。


「お前が騎士として優れているのは周知の事実だろ」

 実際こいつは五つある隊のうちひとつの隊長を任されている。

「だから頑張れ。俺は後方支援に回るからな」

「は? ふざけるな」

「お前は騎士だろ」

「俺は騎士だ。だが」ヤツの顔がまたまた不満げになる。「昔はお前のほうが強かったじゃないか」

「子供のころの話だ」


 エルネストも俺も子爵家の次男。年は俺がふたつ下だが、親同士が仲が良いうえに屋敷が隣り合っていたから、勉学も剣術も一緒に学ばされていた。


 ヤツの言うとおり、確かに俺のほうが剣術が上手かった時期はある。ただそれは、俺がなんでも要領よくこなせるタイプだからだ。一方で真面目なエルネストは何事も考え過ぎて、時間がかかるタイプだった。だが一度花開いた才能は止まるところを知らず、あっという間に俺を抜き去る。


「だとしてもジスランが上手かったのは事実だろうが。真剣に取り組んでいれば俺と同等の腕前だったはずだ」

「やめてくれ。なにが悲しくて汗水垂らして男臭くならなきゃいけないんだ」

 エルネストがため息をつく。

「もったいない」

「それはお前の価値観だ。俺には神官が天職なんだ」

「股間のモノを切り落としてから言え」

「どれだけのご婦人が泣くか分かっているか?」

「知るか」


 鼻を鳴らした堅物は積み上がる文書のひとつを手に取り見る。しかめっ面。

「読めるか?」

 古語が苦手だった幼馴染に訊いてやる。

「……多分。だが聖なる力を行使するための呪文を正しく読めるかは分からん」

「右に同じ」


 俺も手近なものを取り読む。ちょうど『軽い攻撃(風)』というものがあった。

「なになに。掌を対象に向けて……」

 短い呪文を唱える。その瞬間体内に何かが巡り、窓ガラスが派手な音を立てて割れた。俺の掌がたまたまそちらを向いていたのだった――。


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