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1・2 傍から見ると

 廊下を並んで進みながらバルトロが、昨夜俺が気絶してからのことを説明してくれた。


 ディディエが疲労困憊ながらも回復術をかけたが俺はまったく反応がなく、このまま死ぬんじゃないかというほどの状態で、遺体を運ぶための荷馬車に丁重に(本当か?)寝かされて城に運ばれた。で、負傷した王子よりも先に医師の診察を受け、たぶん意識を失っているだけとの頼りない診断をされたらしい。


 俺が死んだら結界を張れる者も、王子が瀕死になったときに助けられる者もいなくなる。だから可能な限り、しっかり休ませるようにとの王命がくだったそうだ。


 ディディエとマルセルも城に戻り就寝。今朝早くに起きて訓練を開始したところ結界術が成功したので、俺が起きるまでのつなぎで術を展開することになったという。


 エルネストはそのまま現場で穴の見張りを兼ねて負傷者の撤収を助け、新しい監視体制を構築。ディディエたちが来たのと入れ代わりで、森に張った天幕で仮眠に入ったという。


「あいつ、あの場所から動かないつもりですか?」

 うなずくバルトロ。

「『どのみちあと一日だから』と言っています」

 女神が予告したのは明日だ。とはいえ、すべてが一日で方がつくとも決まっていない。


「大技ひとつしかできないくせに。仲間を失って辛いんだろうが、冷静になれっての」

 思わずぼやくとバルトロが

「それもあるでしょうが、ジスランの負担を減らしたいとの考えでもあるようですよ。今朝彼と話しましたけど、自分が結界も治癒もできないことを引け目に感じているようでした」


 そういえばよく覚えていないが昨夜、『すまん』とかなんとか言っていたような。


 それからバルトロは、やはり結界は予兆なく突然消えたこと、原因はわからないこと、碑は吹き飛んで修復不可能なほどにバラバラになってしまったことを説明した。


「すでに、新しい碑の製造が決定しています。ただあれだけ長い石がすぐに入手できないようで」

「確かに、ああいうのは見かけませんね」


 話しながら廊下の角を曲がる。と、その先に毎日差し入れをくれるふたりの侍女とジョルジェットがいた。

 侍女たちが、

「ジスラン様」と笑顔になる。だがだいぶ疲れている顔だ。

「わたしたち、暇が出されましたの」と侍女のひとり。「未婚女性は避難するようにとの王妃様のお計らいで」

「ジスラン様にお会いできなくなってしまうのが淋しいですわ」ともうひとり。

「私の心を潤すおふたりがいなくなってしまったら、なにを楽しみに勇者をがんばればよいのかわかりません」ふたりの手を取り順にゆっくりと口づけする。「すべてが終わったら私に会いに神殿に来てくださいね」

「もちろんですわ!」

「そのお言葉を支えにしましょう」


 笑顔で手を振り去っていく侍女たち。


「……すごいわ」とジョルジェット。「あなたにお会いするまではふたりとも、魔物が恐ろしと怯えていましたのよ」

「モテるのにはそれなりに理由があるんですよ」となぜかバルトロが答える。この数日間で散々見てきたからだな。


「あなたはオーバン邸に帰らないのですか?」と尋ねる。

「文書をすべて読み解くまでは」と微笑むジョルジェット。


 強い令嬢だ。

 ふと思い出して、


「ところでお話はいつでも伺いますが、昨晩のようなことはもうなさらないでくださいね」と笑顔で伝える。「私は当て馬にされるのは好きではありません」

 ジョルジェットは瞬きをした。

「当て馬とはなんでしょう?」


 おいおい。ご令嬢は自覚なしにやっていたのかよ。

 バルトロと目が合う。


「マルセル様の前でジスランを褒めてはならない、ということですよ」と彼が言う。「嫉妬から部隊内で軋轢が生じたら大変です」

「嫉妬? マルセルが? 軋轢は困りますわね。でも」とジョルジェットが眉をひそめる。「嫉妬をするくらいなら振る舞いを改めればいいのだわ。仮にも宰相を目指す紳士の言動ではありませんもの」


 バルトロとふたたび顔を見合わせる。その目が『嫉妬の意味をわかっていませんね』と言っているようだったので、うなずき返した。



 ◇◇



「ジョルジェット様もマルセル様も極度の鈍感なんでしょうかねえ」

 ジョルジェットと別かれると、バルトロがやれやれとため息をついた。

「幼なじみだからこその甘えや見栄があるように見受けられますね」と答える。

「そうですね」とうなずいたバルトロが俺に顔を向ける。「ジスランはお何歳いくつですか」

「私ですか」なんでだ?「二十三ですが」


 バルトロがふむと言って、顎に拳を当てる。


「職歴は無しでも習得済みで、腕前の評判はあり。まだいけるのか」

「なんの話ですか」

「小耳に挟んだことと、言動から見て」とバルトロがまた俺を見る。「多分ですが、エルネストはあなたに騎士団に入ってもらいたいと考えていますよ」

「はっ!?」


 んなバカな!


「勇者部隊の隊長を任せたがっているのも、きっとそれ目当てです。適任と本気で考えているのと同時に、実績づくりを狙っているのでしょう。あなたが神官であることに忸怩たる思いがあるようです」

「いや、まさか」


 確かに職業を決める前、あいつは俺も騎士団に入ると疑いなく考えていた。神官見習いになったことを事後報告したらひどく怒って罵ってきたし、辞めて騎士団に入れと説得もしてきた。

 だがもう五年も昔の話だ。


「幼なじみと一緒に働きたいのでしょうね」とバルトロ。

「そんなヤツではありませんよ」


 エルネストと俺は腐れ縁で、小っ恥ずかしいが親友といえる間柄だ。だがあいつも俺も、仲良しこよしをしたいタイプじゃない。騎士団に入団しなかったことにヤツが怒ったのも、俺がそれなりの技術を持っているのに貢献しないのはおかしいという考えからだった。

 ――確か。

 昔すぎて、はっきりとは覚えていないが。怒っているエルネストが面倒で避けていたしな。




 だが。マルセルとジョルジェットのように、エルネストと俺も自分では気づいていないことがあるのか?

 まさか。


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