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第07話 変化

〝魔工房〟はニアスの家と隣接している。

 魔力炉や魔計図など重要な物は、本来の家主が持ち去ったのか賊が盗んだのか、見当たらなかったらしい。


 それでも最低限の設備は無傷で残っていたので、ニアスは有効活用していた。

 誰の教えもなく魔具を作れるというのは驚きだが、やはり所詮は独学、私から見ればガラクタも同然だった。


「魔具の製作はここに来てから……?」

「あぁ、道具と製法のメモ書きはあったからな」

「……魔力を使った実験や調合は危険も伴うわ。見よう見まねは関心しないわね」

「ノゲシにも言われたさ。だが、なんとかなっている、今のところは」


 魔力学の教師が聞いたら卒倒しそうね。この分じゃ、貴方のような半端者が引き起こす魔力事故についても、ろくに知らないでしょう。無知は罪ね。


 ニアスが作っているのは、魔力に反応して光り輝くアクセサリー。大別すればぎりぎり魔具と言えなくもない代物。集めた魔石を溶かして固め、彫刻する。魔石の量的に作れるのは ペンダント、指輪、耳飾りくらいか。


魔石は空気中に存在する魔力のカスにも反応して淡い光を放つので、庶民には人気があるようだ。製法はともかくニアスは手先が器用なので、一見すると見栄えがいい。なので村に来る行商や街に売りに行けば、そこそこの金額になるという。


作業を見て思ったのは、ニアスには魔具師としての才がそれなりにありそうだということ。筋は悪くない。造形のセンスもあるし、僅かだが魔力を視認できるという点を見ても、伸びしろはまだまだありそうだ。


 だが、やはり無駄も多い。効率化できる余地も目に付くし、足りない理論を強引に経験で補おうとしている。きちんとした師がいれば、と私から見ても勿体ない才能の腐らせ方だ。それにやはり、魔力事故に対する認識の甘さが怖い。


「…………」


 ニアスは魔石を精錬鍋に入れ、高熱を持って精錬している。


「……そこ、」

「……? どうした?」

「そこで魔力を注ぎなさい」


 逡巡の末、私は動いた。


「魔力を、注ぐ? なぜだ?」

「魔石は結晶化した魔力。溶かし、均一化して混ぜれば、完全に融合するわ。同じ質の魔力になるの」

「あぁ、工房に残されていた資料にもそう書いてあった」


 ……なにやってるんだろ、私。


「均一化した魔力に別の魔力を注げば、ひとつの魔力の中に不純物が混じることになるの。精度を高める必要がある戦闘用の魔具なんかには御法度だけど、貴方が作っているのはアクセサリーでしょう?」

「そう、だが」

「輝き方がね、変わるのよ」

「輝きが、変化……」


 ニアスも理解したようだ。


「それは……興味深いが……俺には魔力を操ることはできないぞ?」


 そんなことはわかっている。ニアスは魔法の才こそあるが、魔法使いとして大成する見込みはお世辞にもない。それこそ、せいぜい魔具師が限界程度の才能だ。

それでも、まったく皆無の人間が大半なので恵まれてはいるが。


「貴方が取ってきた石ころは、なにでできてるの?」

「……そうか……魔力の結晶……」


 ニアスは燃え盛る炎に炙られる精錬鍋に、新しい魔石をいくつか放り込んだ。


「完全に溶けきってしまうと意味がないわよ」

「わかった」


 ニアスの動きは的確だ、やはり筋は良い。


「…………」


 ……別に、気まぐれみたいなものだ。

 事故でも起こして家が焼ければ、住む場所がなくなる。それは御免だ。だから、それだけ、それだけよ。


「……魔石は通常、青い輝きを放つの」

「あぁ、見つけた魔石も全て青色だ」


 ニアスは既に精錬鍋を火から外していた。後は溶けて液状化した魔力を冷やして再度結晶化すれば、新たな魔石が完成だ。


「……〝スソキルナの花〟、知っているでしょ?」

「白い花か? 森を抜けた先によく咲いている」

「あれには微量だけど魔力が含まれているわ」

「本当か? なら……」


 上手く調合すれば別の色味を出せる。ニアスも理解できたようね。

 ……スソキルナの花には別の用途もあるけど……そっちを知る必要はない。


「……黄鉄虫はこの辺りにはいる?」

「……この辺りはいな……いや、森の奥で何度か見た覚えがあるな。それがどうし――そうか、あの黄色い虫も、か」

「黄鉄虫は女王がいなくなると、散り散りになって去って行くわ。だから採るなら雄、間違えないことね」


 ……ニアスの懐が潤えば、私の得にもなる。この最低な生活を向上させるためには、必要なことだ。だから、これはあくまで私のためであって、決してニアスのことを思ってではない。


「優秀だな、君は」

「別に……」


 私が優秀なのは、私が一番よくわかっている。言われるまでもない。


「……私が覚えている範囲のことでも、貴方にとっては有益な情報になりそうね」

「そのようだ。だから、よかったら教えて欲しい、これからも」


 そこまでする義理はない。さっきのでもう十分でしょう。


「えぇ、わかったわ」


 ……え?


「それに貴方は、魔力に関しても根本的な知識が足りなすぎる。最低限のことは覚えてもらうわよ」


 なに言ってるの、私……。


「ふふ、ありがたい」

「笑い事じゃないわ。家が吹き飛んでもいいの?」

「……それは困る、大変に」


 ……そう、家がなくなったら困るから、知恵を貸すだけ。

それに、これでニアスを懐柔しやすくなった。

予定通りよ、全部、全部……。


「ありがとう、スイ」


 ……だから、そんな微笑みを向けないで。

 貴方のためじゃない、全部、私のためなんだから。




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