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第03話 義足

 昼食は……えっと、なんだっけこいつらの名前……そうだ、ニアスとアメイだ。

 昼食はそのふたりが私の寝台まで運んだ。家の様子も確認したかったが、片足では歩けないのだからどうにもならない。

 

 芋のスープ、パン、それとサマアの果実。

 目の前に置かれた食事……食事でいいのか、これは。

 とにかく〝それら〟を見て、溜め息が出そうになった。

 スープを一口飲んで、


「…………」


 思わず吐き出しそうになった。

 不味い。不味いわ。なんて不味いの。

 こんなものをアリアーテ王国、第一王女に食べさせるの?


 旨みもコクもないスープ、ぱさぱさのパン、野山から取ってきた物をそのまま並べた果実。今すぐ盆をぶちまけてやりたい気分だが、耐えなければ……。こんなものでも、胃に入れれば栄養にはなる。今はとにかく弱った身体を回復させないと。


「…………」


 だから食べる。

 吐き気を我慢しながら、噛み、飲み込む。それを繰り返す。

 城であたり前のように食べていた……そうだ、あれが〝食事〟だ。


 でも、もう……あの生活は戻らない。

 なら私は、もう二度と、〝普通の食事〟ができない……?

 悟ると同時に、頬を熱いものが流れ落ちた。


「……不安か?」


 なにを勘違いしたのか、ニアスが言った。アメイも心配そうに私を見ている。


「…………」


 驚くほどに馬鹿だな、こいつら。


「……これから私、どうなるのかしら。記憶も、立ち上がる足も……ないのに」

「衣食住の保証はする。もっとも、大した物は出せないが」


 それはよくわかったわ。


「足は……食事が終わったら、その時に」

「……?」


 含みがある言い方だ。

 その後、なんとか私は出された物を全て胃に入れた。


「……おいしかった?」


 アメイが尋ねてきた。


「スープね、私が作ったの。おいしい?」


 おいしいわけないだろ。


「……えぇ、元気が戻ったわ」


 そう答えるしかない。


「えへへ、よかった! じゃ、片付けるね!」


 笑顔を咲かせ、食器を運ぶアメイ。子供はいいわね。毎日が楽しそうで。


「…………」


 思わず舌打ちしてしまった。

 いけない、変な癖になってる? 

 これは直さないとダメね。誰かに聞かれると面倒だわ。

 

 前の私ならこんなことはなかった。仮面は完璧に貼り付けていた。

 だからこそ、城の者も、民も、全てを騙せていたのだ。

 

 環境と状況のせい……でも、やけになってはダメ。どんな時も冷静に。自分を見失って自暴自棄になるなんて、愚の骨頂だ。


 まだ私は死んでいない。生きている。

 なら、巻き返せるはず。

 なんとか……なんとか、〝あの女〟さえ殺せれば……。


「……一歩、一歩、ね」


 あの暮らしが取り戻せるよう、願うばかりだ。

 もっとも、今の私ではその〝一歩〟すら進むことはできないが。


「……ふっ」


 自虐に笑うと、


「……少しは、落ち着いたようだな」


 ニアスがやって来た。手には……工具箱(?)を持っている。


「……この部屋の修理かしら?」

「確かにボロだが、雨漏りはしないはずだ。今のところはな」

「では、なんのために……?」


 するとニアスは寝台の前に屈み、


「足を、いいか?」

「足? どちらの?」

「右足だ」


 わけがわからなかったが、今はこの男には逆らえない。屈辱的だが、生殺与奪を握られているには違いないからだ。

 私はシーツをめくり、身体の向きを変えて寝台から両足を下ろした。


 ニアスは工具箱から布に包まれた物を取り出し、広げる。……靴? それも片方だけ。いや、よく見ると普通の靴ではない。靴自体は大したことない下民の靴だが、なにかが入っている。筒状の物体が、履き口から伸びていた。それもただの筒ではなく、バネ状になっている物だ。


「……義足?」

「あぁ」

「……貴方が作ったの?」

「あぁ」


 手先は器用なのか。


「寸法だけは測らせてもらったが、細かい調整はこれからだ」


 そう言って、ニアスは私の右足に触れ、まるで靴を履かせるように義足を装着した。かと思えば脱がせ、調整し、また履かせる。そんなことを数回して、


「立てるか?」


 促した。


「…………」


 なくなった右足には、自分の物ではない、足が付いている。正直、少し怖かったが、意を決して立ち上がった。


「――ッ」


 しかし、寝台から腰を浮かせた直後、バランスを崩してしまった。さらにあろうことか、前のめりに倒れてしまう。


「大丈夫か?」


 ニアスが私を受け止め、ゆっくりと寝台へ座らせた。……汗臭い。


「……勝手がだいぶ違うのね、自分の足と」

「慣れれば、いくらかマシになる、はずだ」


 ニアスが手を差し伸べてくる。逡巡の末、その手を取って再び立ち上がった。


「重心は左足へ」

「えぇ、わかっているわ」


 なるべく左足に重心を寄せ、ニアスに握られた右手の支えもあって、なんとか立つことができた。


「どうだ?」

「なにより身体が硬いわ」

「一週間ほど寝たきりだったからな」


 立ち上がることはできた。だが、これだけでは意味がない。重要なのは歩行だ。


「…………」


 義足となった右足を一歩、踏み出した。まだ痛みはない。問題はこの次だ。

 右足を前に出せば、必然、次は左足を踏み出すことになる。そしてこの時に、軸足となっている方に、体重がのし掛かる。義足の右足にだ。


「…………」


 私はニアスに手を引かれたまま、一歩、また一歩、足を動かした。


「……痛むか?」

「……大丈夫、そうね」


 義足の性能がいいのか、右足に体重を乗せても痛むことはない。イメージとしては踵で歩く感じ。なんとか歩行はできそうだが、おそらく走るのは無理だ。それでも、寝台で寝たきりという最悪も想定していただけに、これは大きい。


「ひとりでも、歩けそう」


 だからさっさとこの手を離せ、と続けたかったが、口には出さないでおいた。


「……杖は欲しいかもしれないわね」

「あぁ、用意してある」


 ニアスはそう言って、寝台の脇に立て掛けてあった杖を取った。なんだ、あったのか。みすぼらしい杖だから、完全に壁と同化していたわ。


「……少し、家の中を歩いていい?」

「あぁ」


 私はなんの装飾もない、ただ丈夫なだけの杖をつきながら、寝室を出た。その先は大きめの部屋になっていて、奥には調理台やかまどが見える。別室へ続く扉もいくつかあり、思っていた以上にこの家は大きそうだ。


「…………」


 石造りで、天井も高い。劣化や汚れこそ目立つが、造り自体はしっかりしている。

 なのでひとつの疑問が湧いた。


「貴方たち兄妹だけ? この家に住んでいるのは?」

「不釣り合いか?」

「いえ、そういうわけでは」


 まぁ、そういうわけなんだが。


「その話をするには、この村について、説明する必要がある」


 訳ありか? 単純に気になる。


「だから歩けそうなら外に――」


 そうニアスが言いかけた時、


「あーーーー! お姉ちゃんが立ってるーーーー!」


 聞き覚えのある声がかき消した。奥の扉からアメイが瞳を輝かせ、走ってくる。


「足、くっ付けたんだね! お姉ちゃん歩けたんだね! やったね、お兄ちゃん!」

「そうだな」


 駆け寄るアメイの頭をごしごしと撫でるニアス。女の頭をそう雑に撫でるなよ。


「やったね! お姉ちゃん!」


 笑顔を振りまくアメイ。屈託のない表情だ。


「えぇ、ほっとしているわ」


 それには違いない。本気で安堵していた。


「……それで、外に出るのかしら?」


 中断された会話を再開する。たぶんニアスの言いたかったことはそれだろう。


「いけるか?」

「えぇ」


 ということで、私たちは家の外に出た。

 なにもそこに城下町のような活気のある光景が広がっているとは思っていなかったが、現実は予想の遥か斜め下をいった。


 そこは、森の中だった。




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