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北の森の魔女  作者: 鉄猫


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43/54

王都をめざせ

「これはどういう原理で動いているのかね?」

 シードラゴンに乗った王子は魔女に聞いた。

「かみ砕いて言うのは失礼と思いますので……内燃機関による動力を変速機に伝達し、無限軌道を動かして、それで走行しています」

「内燃機関……ふむ」

「ストーブなどの外燃機関とは違い、機械の内部に気密性の高い領域を作って、そこで燃料を燃焼させ、動力へ変換します」

「我々の概念を飛び越してはいるが……だが、それは魔法ではなく」

「そうです。人が作り出した技術です」

 魔女の言葉に王子は不敵な笑みを浮かべた。

「いつかは我々も手にすることができるやもしれん、という事か」

「そうです」

「それは良い事だ」

 王子はあえて魔女に「その方法」を聞かなかった。それを聞くことは、自分たちの未来に期待を持たないことだと思ったからだった。

「メム、前方から騎兵が来ます」

「それは私の迎えだ」

「ボルト、停止して出迎えな」

 シードラゴンが停止する。騎兵も止まり、怪しげな眼でこちらを見ている。

「では、殿下。こちらへ」

 後部ドアを開け、魔女と王子が降りる。その姿に騎兵は驚きの顔をする。

「殿下っ!」

「この者たちは私の味方だ。気にするな」

「それならいいのですが……」

 馬から降りた騎兵は怪訝な顔で魔女を見る。魔女は肩をすくめ、王子の方を見る。

「私が気にするなと言ったんだ。気にするな」

「わかりました」

「さて、魔女殿。ここから先はどうすべきかな」

 魔女は騎兵の方を見た。この伝令から離れた所に数十騎の騎士と、200程度の歩兵、荷駄の馬車隊の姿が見える。魔女はそれらを値踏みし、王子に言った。

「150名ばかり選抜してください。それらを港に集合させ、わたしが王都まで運びます。残りは、あなたが居るように偽装して、王都に向かわせてくだされば」

「よし。わかった」

 王子は伝令にその旨を告げると、騎兵は本隊へと帰って行った。魔女と王子は再びシードラゴンに乗り込み、先に町にある港へと向かった。

 港にはエアクッション艇が泊まっていた。町の人々が、それを遠巻きに野次馬をしている。エアクッション艇の舳先にはM4を抱えたナットが立ち、不穏な気配がないかを警戒していた。

 そこにシードラゴンが到着した。魔女はシードラゴンの移乗をボルトに任せ、王子とともに港に立った。人々は王子があの馬車無し車から出てきたことを驚き、さらに魔女とともに立っていることに驚いた。

「あれで王都まで行くのか」

「半日もあれば到着します」

「そんなに速いのか。それも、内燃機関のおかげか?」

 魔女はうなずき、王子は興奮が隠せないといった表情をした。

 そこに選抜された150名の騎士と兵士が到着した。

「殿下。壮士150名を連れてまいりました」

 年かさの騎士が馬から降りながら大音声で言う。歴戦の戦士である彼は、魔女に声だけでも打ち勝たねばと思っていた。

「──では、全員下馬し、あれに乗ってくれ」

 騎士たちがざわめく。

「殿下っ! 騎士に馬から降りろとおっしゃるので?」

「そうだ。戦の方法は時により変わる。我らはあの船にのり、王都へと戻る。敵対者が兵を動かす前にだ。納得せぬなら、私一人で行く」

「わ、わかりました、殿下。全員下馬!」

 騎士たちが馬から降り、整列する。騎士とその従者で100名、歩兵が50名といった編成である。

「では、参ろう。全員乗船!」

 王子の命令で兵士たちはエアクッション艇に乗り込む。初めて見るマリンコ(海兵隊)の船に、騎士や兵士たちはおっかなびっくりである。中には艇体叩いて、鉄であることに驚く者や、二人のケイナイン(狗頭人)を見て、怪訝な顔をする者もいた。

「船酔いにさせちまおうぜ」

「やめときな。使い物にならなくなったら事だ」

 シードラゴンと兵士を載せたエアクッション艇は、桟橋を離れた。しばらくゆっくりと舳先を回していたが、進路が定まると艇の後方にある推進ペラを回して、増速した。

 艇内では戦準備が行われていた。騎士や歩兵は武器をあらため、それぞれの組を決めていく。

「君らは大丈夫かね? 邸内でだいぶ消耗したようだが」

「それは心配に及びません」

 魔女は腰に下げているフィールドバッグに手をつっこみ、予備の弾倉をいくつも取り出して見せた。

「……まさか、その中に"ホールディングバッグ(底なし袋)"が?」

「さすがです。わたしらも、いざとなればずる(チート)をします」

 ボルトやレンチも同じようにバッグから予備弾倉や消耗した装備を取り出し、装着していく。

 外洋に出たエアクッション艇はさらに増速し、一路王都に向けて海面を飛ぶように奔った。あっという間にすぎていく風景を兵士たちはあっけに取られて見ている。ボルトとナットはその光景を運転席で見て、互いに笑いあった。

 陽が西へと傾いていく。到着は夜になる。魔女はちょうどよいと思った。艇や兵の姿を闇が隠す。民も家に入っていれば、戦闘の巻き添えにする可能性も少なくなる。

「王都が見えるぞ!」

 兵の誰がか叫んだ。兵士たちは一斉にそちらを見る。闇に沈みながらも、所々に灯りがともされた街の姿が見える。

「いいか! 我々が赴くところは、我々が知っている王都ではない。陰謀者によって奪われた街だ! 街に着いたとしても油断するな! 決められたとおりに動け!」

 王子が兵士たちに告げる。兵士たちは高まる興奮を見せぬように、小さく息をしている。

 王都の港へエアクッション艇が滑り込む。造船所の傾斜路に乗り上げ、そのまま地上へと艇は進んだ。すぐさま舳先の傾斜路が下ろされ、兵士たちが下船していく。

「さて、わたしらも行こうかね」

 魔女と王子たちはシードラゴンに乗り込む。排気管から煙を吐き出し、シードラゴンはゆっくりと走行する。脇を固める50ほどの兵士たちに歩調を合わせるためだ。目的地は王城である。残りの兵は、それぞれの街の門を確保するために動くことになっていた。

「どれだけ味方を集められるか」

 王子は不安げに言った。すでに王都に敵兵が入っている可能性がある。王都の最大の防衛隊である公爵の軍がいない。さらに親衛隊ともいえる騎士団も不在である。これで勝てるのか、と王子は疑念を抱いた。それを見透かしたように、魔女がニヤリと笑った。手にしたM14を誇らしげに見せ、腰の.45を叩いて見せる。

「敵は王城にいるわずかな数です、殿下。それらを排除すれば、事は済みます」

「そうだな」

 シードラゴンは通りを進む。護衛の兵士たちは隊列を組み、それに従って走る。

「やっぱり居やがったかっ!」

 ボルトは城門の前にいる数十人の人影を確認した。石畳を履帯で踏みしめるシードラゴンの音に気づき、それらの人影は松明をかざす。そして、武器を構える者の姿もあった。

「メム、敵兵です」

「ぶっ飛ばしてやりな!」

「了解!」

 ボルトはキューポラを回し、装備されている.50とオートグレネーダーの照準を城門に合わせて、引き金を引いた。重機関銃の野太い発射音とグレネードを連続発射する野獣の唸り声のような音が重なる。曳光弾の光が闇を切り裂き、城門が爆発炎に包まれる。

「すごい……」

 その光景を上部ハッチから見ていた王子がつぶやく。

「これが、マリンコ(悪魔)の力……進んだ技術なのか」

 王子は拳を握るとふふっと笑った。

 城門の敵兵を一掃したシードラゴンは城門の前に停まった。兵員輸送を専門とするシードラゴンでは、さすがに分厚い城門を打ち破ることはできない。

「では、先に行きます」

 装備を装着したボルトが後部ハッチから駆け出し、そのまま空中へと駆け上がっていく。それにレンチが続く。

「"ウィングブーツ(空飛ぶ靴)"!」

「さすがに王城を攻める作戦ですので、少々反則技を使わせていただきます」

 高い城壁を飛び越えながら、ボルトは城門の上にいる兵士を銃撃した。空中で反転し、さらに城門の内部にいる兵に対して、レンチともに空中から攻撃する。すべての敵兵を撃ち倒した二人は着地する。

「この機械だな」

「動かし方はわかる?」

「まかせとけ」

 二人は、少々苦戦しながらも城門を開けた。

「では、前進!」

 魔女はナットにシードラゴンの前進を命じた。シードラゴンは兵士たちとともに城門をくぐり、中庭へと歩を進めた。

「何してるの?」

「ブーツを履き替えてるんだ。馴染みの靴じゃないと気分が悪い」

 ボルトはウィングブーツを脱ぐと、バッグから取り出した愛用のブーツに履き替えた。その様子をレンチが呆れた顔で見ている。

「遅れるよ」

「……よしっ、行くか!」

 ボルトは立ち上がり、M4を手にして城へと進む。背後でシードラゴンに残ったナットが、城のあちこちにある見張り台に向かって重機関銃で射撃を行っている。

「では、参りましょう。殿下」

 魔女と王子が地に降りる。兵士たちがそこに集まり、隊列を組む。

「自分の城を攻めるというのも、何か良い気分だな」

「ここは堂々と、正面から」

「そうだな」

 城の正面入り口には、敵兵が逆茂木や馬防杭などで陣地を作っていた。そこに向かって王子は進む。敵兵が矢を射かけてくる。すぐさま騎士たちが頭上に盾をかざし、矢を防ぐ。

「ナット!」

 シードラゴンが前進し、オートグレネーダーを敵兵に向ける。咆哮が響き、陣地が爆炎に包まれる。グレネードの爆発に敵兵は吹き飛ばされ、全身に破片を受けて倒れる。

「では、殿下。前へ」

 王子は城内に足を踏み入れた。この瞬間、王子は自分が歴史の一部になるのを感じた。思わず魔女の方に顔を向けると、魔女は何もかも知ってるかのような顔をして、王子に前に進むようにうながした。


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