救出
魔女はM14を構えると、気合の声をあげて斬りかかってくる傭兵たちに向かって連射を放った。至近距離で7.62㎜弾の一撃を防ぐことのできる鎧はマジックアイテムをのぞいて存在しない。胸や腹に銃弾を受けた傭兵が、弾の運動エネルギーをそのままうけて吹っ飛ぶ。それらを見て、傭兵たちは声にならない悲鳴をあげる。
それでもM14の弾雨を抜けた傭兵が魔女に斬りかかる。魔女はそれをスウェイでかわすと、傭兵の肩をつかみ、M14の銃口を腹に突き付けて発砲した。魔女は瀕死の傭兵をそのままつかんだまま、傭兵の群れへと突っ込む。むちゃくちゃに振り下ろされる剣撃を盾にした男の身体で受けて人の壁を抜けると、振り返りざまにM14を撃ち込んだ。
わずかな時間で、傭兵の半分が床に転がっていた。残りの男たちは魔女の戦いぶりと気迫に圧され、武器を構えたままじりじりと後退した。
「これで終わりか?」
魔女は返り血を拭うとM14を背に回し、.45を抜いた。
「ボルト!」
「へいっ!」
「あとは任せた」
「了解!」
魔女の後ろまで到達したボルトがM4を構えて援護の位置につく。魔女は廊下の奥を目指して歩を進めた。そこに恐怖を振り払って斬りかかってくる傭兵を、ボルトの射撃が吹き飛ばす。
「さぁ、ここからは俺が相手だ」
廊下の奥に消えた魔女の背を確認して、ボルトは傭兵たちに向かってショットガンを撃ち放った。
王子は部屋のドアが破壊されつつあるのを黙って見ていた。襲撃者たちは剣や斧をドアにぶつけ、鍵周りを壊している。あとわずかだった。
鍵が壊れる音が響き、ドアが開く。剣を手にした傭兵たちが部屋に雪崩れ込んできた。王子はふっと息を吐くと、剣を握る手の力を少し抜いた。余分な力が入っていると、剣の軌跡が滑らかにならない。
「あんたに恨みは無いが、死んでもらおう」
ここまで定番なセリフを聞くとは思わず、王子は思わず頬を緩めた。
「何笑ってやがる!」
傭兵の一人が斬りかかる。それに王子の剣が応える。振り下ろされる剣を受け止め、くるりと回すと、傭兵の手から剣が弾き飛ばされる。何が起こったのかわからず、剣が抜けた両手を見た男の胸に王子の剣が突き刺さる。
「まずは一人」
王子は剣を引き抜き、振るって血を飛ばす。胸を突かれた男が膝をつき、倒れる。
「次は誰だ?」
王子の剣技の鋭さに圧された傭兵が、一斉に斬りかかろうと半円を描くように広がる。王子は背を伸ばし、切っ先を床に向けてゆるりと立った。その姿に傭兵たちは隙をつけずにじりじりとしている。
その王子の姿を見ていたレンチは、窓から入ろうとするが窓枠に手が届かなかった。少し考えたあと、銃を背に回し、ハンドアックスを窓枠に打ち込むと、渾身の力を込めて自分の身体を引き上げた。窓枠をつかむと石壁のわずかなでっぱりに足をかけ、部屋の中へと転がり込んだ。
その音にわずかに気を取られた王子が顔を動かす。その瞬間を狙った傭兵の一撃を、王子は咄嗟に上げた剣で払いのける。そして、そのままの勢いを乗せた剣の一撃で、男の腿を断ち斬る。
「くそっ、俺の脚がっ!」
片足を失った傭兵が転がる。その首に王子は剣を振り下ろした。
「殿下! 加勢いたします!」
レンチが王子の左横に駆け寄る。
「君は?」
「魔女の手先の一人です」
「間に合ったようだな」
王子は剣を油断なく構え、レンチも銃を肩づけして襲撃者たちに向かい合う。
「さぁ来い、猿野郎ども! 人間一度は死ぬもんだ!」
レンチは叫ぶと引き金を引いた。連続した銃声が轟き、左弧にいた傭兵たちが倒れる。
「お見事」
王子はレンチに声をかける。状況が状況だけあって余裕のないレンチは、王子に背を向けたまま、左手を上げて応える。
「では、悪人退治と行こうか」
レンチの緊張を知ってか知らずか、すっと王子は歩を進めた。
魔女は廊下を進んでいた。廊下の奥には王子がいる部屋がある。
「な、なんだ! てめ……」
魔女に気づいた襲撃者が振り返るが、魔女の姿を見て驚くと同時に、その顔に銃弾が撃ち込まれた。倒れる男を踏み越え、魔女が進む。
「ちょいと邪魔するよ」
部屋に入りこめず、廊下に溜まっていた襲撃者の間に戦慄が走る。魔女が来た。傭兵たちは進むに進めず、退くに退けない状態に陥った。
.45の銃声が続けざまに響き、次々と男たちは倒れる。魔女は弾倉を交換する時に立ち止まるだけだった。
聞きなれた.45の音を聞き、レンチはほっと息を吐く。
「もう大丈夫です。殿下」
「魔女殿か。では、部屋の中をきれいにしておこう」
王子は音もなく歩を進めると、廊下の銃声に気を取られていた傭兵を切り伏せた。レンチは王子の左側面を守るように前進し、切り伏せられた男にとどめの一撃を加える。王子の剣は、肉食動物のように無駄が無い動きで、傭兵たちに襲い掛かった。あまりの優美さにレンチは見とれてしまっていた。
最後の傭兵が倒れる。廊下の銃声も聞こえなくなった。
「──どうやら、ケガしなかったようだね」
ドア前の死体をまたいで魔女が部屋に入ってくる。レンチは銃口を下げ、王子の背中を護るように位置を変える。
「お初にお目にかかります、殿下。北の森の魔女──今は、そう名乗らせていただきます」
「これは魔女殿。加勢を感謝する」
魔女は一礼すると、ドアの方を向いた。
「それでは殿下。玄関からお出になりましょうか」
「そうだな」
レンチは窓から出れば良いのに、と思ったが、王子と魔女の力を示すことがここでは必要なのだと悟った。
王子が先頭に立ち、魔女とレンチが続く。廊下には十数人の襲撃者たちの死体が転がっている。王子はそれらを、無いものとして歩いていく。
「こっちは始末し終わりましたよ」
左翼棟に向かう広間にボルトが待っていた。広間にも十数体の死体が転がっている。
「後詰も殺ったようです。もう敵はいないでしょう」
「ご苦労」
王子に声をかけられ、ボルトは姿勢を正し一礼した。
「こいつがボルト。わたしの無くてはならない右手です」
「あの公爵の息女を助けた英傑か」
王子の顔がぱあっと笑顔に変わる。ボルトは何がどうしたのかわからなかった。
「話は聞いているよ、ボルト君。たった一人で賊をすべて倒したそうだね? やはり、それを使ってかな?」
「は、はぁ……」
ボルトはちらりと魔女の方を見た。魔女は笑いをかみ殺しながら、うなずいている。
「はい。この銃を使いました。我らにとって、銃は我が腕であり、自分を守り、友を守り、仇なす者を撃滅するものであります」
ボルトは芝居がかった声で言いながら、銃をくるりと体の周りを回す一連の執銃動作を披露した。
「見事な手さばきだ。今度、ゆっくり話を聞かせてもらいたいものだ」
「光栄であります」
ボルトは照れくさそうに敬礼すると、王子の前に前衛として歩き始めた。
皆避難してしまったのか、人ひとりいない館の中を歩き、大玄関から外に出る。前庭には中の様子や、壁に突っ込んで停まっている巨大な馬車無し車をうかがっている召使らが集まっていた。そこに王子が現れると、ざわつきが収まり、召使たちが姿勢を正して礼をとる。
「これは、殿下。ご無事で」
召使たちの間から子爵がやってくる。子爵は王子の前にひざまずくと、何度も頭を下げた。
「私は無事だ。安心しろ」
王子は子爵の肩に手をおいた。子爵の肩がびくっと動く。王子は子爵の耳元に顔を近づけると、小声で言った。
「──他の者に伝えろ。何が起こっているかはわかっている、と」
子爵は地面に額をこすりつけんばかりに平伏する。王子は何事もなかったかのように立ち上がると、魔女に声をかけた。
「さて、これからいかようにするべきかな?」
「おそらく敵は王都に兵を向けるでしょう。ここは時間勝負になるかと」
「そうだな。では、魔女の御力を見せてもらおう」
王子はシードラゴンを見上げ、装甲板を叩いた。
「私を助けよ」
「承知しました」
魔女は小さく頭を下げ、ボルトとレンチにシードラゴンに乗り込むように告げた。




