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北の森の魔女  作者: 鉄猫


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簒奪者たち

「なに、一人殺せば、二人殺すのも同じです」

 一同の驚く顔を理解できないかのように、パタースンは笑ってみせた。

「王殺しは大罪ですが、その罪を裁く王を消してしまえばいいのです」

「──確かに。今までは次王の世でどうするかを考えていたが、自らが王になってしまえば……」

 エメン侯がつぶやくように言う。

「そうです。王位を簒奪する! あなた方の今の地位を守るにはそれしかありません」

「では、どうすれば……」

「話によれば、王は立てるほどにまで回復したと」

「そのとおりだが……」

「それでは、王と王子を引き離し、その後、両者を殺します」

 パタースンはハハッと笑った。

こちら(同盟)の準備は終わっています。あとは、あなた方が行動を起こせるかどうかです。できますか?」

 陰謀者たちは互いの顔をちらりと見た。

「裏切りなどを心配する時期は終わりましたよ。私と会った時点で、縛り首は確定ですから」

「……よし。やろう」

 義手をテーブルの上にのせ、エメン候が力強く言った。

「同盟が動くのは確実なのだろうな?」

「はい。私が責任を持って行います。ご安心ください」

 パタースンは悪魔に魂を売った面々を見ながら、笑みを浮かべた。



 寒い時期が過ぎ去ったからなのか、王の病状は劇的に回復した。それまでうわ言を語るしかなかった王は、杖を突きながらではあるが、立てるまでに回復した。その眼には、若かった頃を思わせるほどの猛々しい力が見え、側近たちも迂闊に近づくのを避けるほどであった。

 王はそれまで政治を担っていた王子を労うこともなく玉座につき、自らを永い間寝台にくくりつけたすべてのものへの復讐を考えていた。まずは、己の健在を示すため、領地を回ることを側近たちに告げたが、側近たちは王の健康を考え、今周期の巡察は王子に任せるべきだと進言した。王は渋ったが、自分が玉座から離れることを恐れることに思い至り、側近たちの言を受け入れることにした。もちろん、この進言は陰謀者による計画の一つであった。これにより、王子は農作物の作付が始まる、花の時期に領地を巡る旅に出ることになった。

 そんな王子の下に、密偵からの知らせが届いた。王子は父王の万が一に備えて、自ら情報を集めることにしていた。密偵を国内や緩衝地帯の各地に放ち、王の下にあげられる様々な事についての裏取りを行っていたのである。

「北の森の魔女から?」

 密偵は一つの包みを王子に手渡した。王子は包みを解き、中に入っていた手紙と、見たことも無い、片手に収まる大きさの機械を手に取った。手紙には、何か問題が発生したら、その機械を使うように。という旨が書かれていた。この機械が何を起こすのかは書かれていない。

「他に何かは言っていなかったか?」

 密偵は首を振った。

「では、魔女殿に伝えてくれ。その時が来たら、ぜひ力を借りたいと」

 密偵は承知したという返事をして、部屋から音もなく消えた。

 王子は何かの陰謀が王国内で進められている気配を感じていた。同盟の動きからして、大規模な戦争が起こる可能性もあった。今の王国の屋台骨は揺れている。病から脱したばかりの父王。死んだ兄と、それを支えていた諸侯の動き。何も起きないと考える方がおかしいという状況であった。

 明日に出発する王子は、その機械を肌身離さぬようにするため、愛用のベルトに取り付けた。


 しばらくして、王子の一行は王都を出発した。まずは南の領地を回ることになる。そちらへの道を選んだのは、その方面に兄派の諸侯が多くいたからである。何かが起きるとすればそちらからだろうと王子は思った。自らがそこに赴いて姿を見せることにより、叛乱やそれに準ずる陰謀へのけん制を行うことを考えたのである。王子は騎士団の一部を率い、500の兵とともに歩み出した。

 王子の一行が南へと向かい、いくつかの諸侯の領地を巡っているという報を聞いた陰謀者たちは動きだした。王都に最も近い領地を持つ公爵へ、緩衝地帯への出兵を命じたのだ。もちろん戦争ではなく、緩衝地帯にある小国へのプレッシャーをかけるためであった。公爵は王命とならばと、配下の兵と騎士団の騎士の一部を連れて、西に旅立って行った。陰謀者はさらに王城より兵を減らすため、王の魔女に対する考えに乗じて、騎士団を北壁へと動かした。これにより、王都は軍事的な力を一時的に失うこととなった。

 王はその日も執務を行っていた。げっそりと痩せた顔に、眼だけがらんらんと光っている。様々な書面に目を通し、側近たちを怒鳴りつけ、魔女を倒せるほどの傭兵(冒険者)を探すように命じていた。

 王はもはや復讐の鬼となっていた。我が子や有力な諸侯を殺された恨みで王は生きていると言ってもよかった。病いのために身体の力を奪われながらも、精神力だけを燃やして動いているようであった。

 執務が終わると、王は寝室に戻り、火が消えたかのように深い眠りについた。眠りから覚めると、昼夜を問わず、側近たちを呼びつけ、執務を再開するのだった。

 その晩。王の寝室を訪れる者があった。右腕の義手を動かし、見張りたちに金の入った袋を手渡す。これで見張りたちは何も見ていない、聞いていないと言うだろう。

 エメン候は王の寝室に入った。王の侍従が何人かいたが、それも密議があると下がらせた。

 王は何か悪夢を見ているかのように眉間にしわをよせ、何かをぶつぶつとつぶやいている。

「我が王よ」

 エメンは王の耳元でささやいた。王は眼を開き、エメンの方を向く。

「……何用で参った?」

「王に、その肩を荷を下ろしていただきたい。と」

 王は眼を見開いた。枯れ木のような体になってはいるが、眼力だけは強かった。

「魔女の事も、王国のことも、もう我らにお任せください」

 エメンの言葉に、王は何かを感じ、枕元にある短剣へと手を伸ばした。しかし、それはエメン候に先に押さえられる。

「おやおや、その身体でこれを振れますか? こんな危ないものは必要ありませんので、こちらに置いておきましょう」

 短剣は王の手に届かない所に置かれた。

 エメンは王の顔を見下ろした。王は細くなった手を伸ばし、エメンにつかみかかろうとするが、力が出なかった。

「時期がやってきました。その終わりを眺めることができないのは残念でしょうが、これも時代の流れですので」

 エメンは寝台の近くにたたまれて置いてあった毛布を手にとった。王は力なくエメンを阻止しようと叩くが、その行為は絶望的であった。

「それでは、王。あなたの時代はここで終わります」

 王の顔に毛布をかぶせる。そして、渾身の力をこめてそれを押さえた。王は苦しみのために手足をじたばたさせたが、それではどうすることもできなかった。足から力が失われ、手だけが毛布を叩いていたが、その手も動かなくなった。

 エメンは毛布を取り払うと、目を見開き、口を大きく開いた王の顔に手を置いた。もはや息は無く、眼の光も失われていた。

 エメン候は大きく息を吐くと、大音声で言った。

「王が、王が崩御なされた! 王が!」

 その声を聞いて侍従が寝室に飛び込んでくる。それらに対してエメン候は言った。

「王は、王子が帰城するまでの間、このエメンに政務を任せるとご遺命なされた!」

 侍従たちは頭を下げ、その命に従う旨を示した。

 エメンは顔では悲しみを表していたが、内心ではついに始まったと、自らに言い聞かせた。王位の簒奪。わが身の未来を賭けた舞台の幕が開いた瞬間であった。


 王の死は翌朝には王都に知れ渡った。諸侯たちは、「王の遺言」で政務を担当することになったエメン候の下に集まり、今後の事を話し合った。まずは王子の帰城を待つしかない、ということになった。

 しかし、その頃王子は、陰謀者たちの所領の多い南部地域にいた。陰謀者たちは王子を亡き者にするために、町のならず者や流れの傭兵たちにその殺害を命じた。王子は敵の真ん中で孤立することになったのである。


 王の死の一報を受けた魔女は、その時は「そうか」と言っただけであった。しかし、その頭の中では様々な選択肢が描かれ、それらの精査が行われていた。

「ボルト!」

 いつになく緊迫した魔女の声に、ボルトが緊張した面持ちでやってくる。

「"倉庫"を開けろ。これから王子を助けに行く」

「"倉庫"を!?」

「わかるな?」

「もちろんです」

「全員を呼べ。準備できしだい、出発する」

 魔女はかたわらに置いてあったM14をつかむと、"倉庫"へと向かった。


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