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北の森の魔女  作者: 鉄猫


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33/54

求道者の眼

 そのモンスターは今までに見たことが無いものだった。

 身体は巨大な球形をしており、その中央に大きな単眼があった。その下には牙が並んだこちらも巨大な口が、そして、球形の胴体からは足長のそれに似た手足が生えていた。

「なんだぁ。ありゃ?」

 ボルトが足長のリーダーに聞く。彼は眼を輝かせて、そのモンスターを見ている。

「文献では見たことがあるけど、本物ははじめてみたよ!」

「だめだこりゃ」

 目玉モンスターは、その巨大な眼で辺りを見回している。目玉がいる場所は、すり鉢状の部屋の下で、その上部の岩陰にそれぞれが身を隠している。

「どうしますか?」

 ボルトは魔女に聞いた。隠れて潜望鏡で見ている魔女は、傍らにいる女エルフに聞いた。

「あいつの特徴は?」

「ええ……実際に戦ったことはないですが、あの単眼からはいろいろな魔法を発することができるそうです。マリンコ(海兵隊)の……失礼しました。あなた方の武器が効くかどうかはわかりません」

「そうか。ボルトとレンチは射撃用意。様子を見る」

『了解』

 ボルトは興奮冷めやらぬリーダーを無視して、M4に初弾を装填した。そしてレンチの方を見て、準備ができたことを示した。

「よし! 発砲!」

 ボルトとレンチは遮蔽物から乗り出し、銃撃を目玉に喰わらせた。目玉の皮膚は思いの外硬いようで、表面で火花が散った。

「5.56㎜じゃ効かないようです」

 遮蔽物に身を隠したボルトは、弾倉を交換しつつ言う。

「やっぱり接近戦じゃないとダメかい、兄さん」

「その文献では、あれに勝ったとは書いてなかったから、どうかはわからないな。それに、文献を書いたのは俺たちと同じ足長だ。その『銃』のような武器は使わなかったと思う」

「メム。どうしますか?」

『この迷宮もここが最後だ。どうにかして奴を殺る。ラチェット』

 後方で待機していたラチェットが応える。

.50(重機関銃)で撃ってみろ』

「了解」

 ラチェットはドワーフとハーフフットの斥候をその場に残し、動甲冑を前進させた。.50を構え、目玉を見下ろす。

「発砲!」

 .50を発射する。薬莢とベルトリンクが石の床に当たってキンキンと音を立てる。弾丸は目玉の身体の表面にめり込み、黄色の血が噴き出した。目玉はラチェットの方を向くと目を大きく開いた。

「な、なにっ!?」

 その目玉に見つめられた途端、ラチェットの動甲冑のシステムがダウンした。

「おかしい。動力炉は動いているのに……システムが……」

 動甲冑が膝を落とす。それを見た魔女は、次なる攻撃を察して警報の声をあげる。

 次の瞬間。目玉が飛び上がった。頭上十数mもある部屋の天井近くまで飛び、ラチェットの動甲冑目掛けて降下する。そして、脚を振り上げると、動甲冑にかかと落としをぶちかました。

『にゃああああああああっ』

 動甲冑が斜面を転がり落ちる。すり鉢状の床に転がり、そこに目玉が着地する。

「援護!」

 魔女がM14を撃ちながら斜面を滑り降りる。周りから、銃撃と魔法、弓による援護が飛ぶ。

「ラチェット、生きてるか?」

『yes,メム。動けないけど』

 魔女は目玉と対峙した。目玉はその巨大な眼を魔女に向け、口から嫌な臭いのする息を吐いている。魔女はM14を構え、その巨大な眼に照準をつける。

 トリガーを引く瞬間。目玉はまた大きく眼を見開いた。魔女がトリガーを引き絞るが、弾が出ない。

「っつ!」

 魔女は横に飛んだ。目玉のパンチがそれまで魔女がいた所にめり込む。

「こいつはすごいな……」

「援護します!」

 エルフがリーダーに目配せし、リーダーが斜面を駆け下りる。エルフはロッドを構えて、ファイアーボールの呪文を唱える。が、それに反応した目玉がまた眼を見開く。

「あ、あれ?」

 呪文が完成したのに、肝心の火炎弾が発射されなかった。

「このモンスター、眼を見開くと……」

「すべての機械的動作を無効化するわけか」

 ロングソードを振り上げてリーダーが背後から攻撃する。その攻撃に、目玉は鋭い回し蹴りで応えた。咄嗟に防御したリーダーの身体が壁面まで吹っ飛ぶ。

「……機械や魔法を無効化して……そして肉弾戦を挑んでくるなんて」

「なんてバケモンだい」

 魔女はM14を背中に回すと、腰から大振りの手斧を引き抜いた。海兵隊の技術で作れられた、柄と刃が一体となったチタン製の斧である。主に扉を壊すのに使われるが、もちろん白兵戦でも威力を発揮する。

「ボルト! レンチ! 着剣!」

 ボルトとレンチは銃にショートソード大の銃剣を取り付ける。ドワーフが両刃斧を抜き放ち、ナットもマチェットを抜く。

 斥候が投げナイフを目玉目掛けて投げつけた。それが合図になったかのように、全員が突進する。投げナイフは目玉の眼の上あたりに突き立つが、そんなにダメージを与えたようには見えなかった。ドワーフが斧を叩きこむ。それを目玉は腕でブロック。素早い膝蹴りをドワーフに打ちこむ。鎧のおかげでダメージはなかったが、壁面まで飛ばされるほどの威力だった。

 ボルトとレンチが左右から突きかかる。それを目玉は両腕を伸ばして、銃剣の側面を叩いて受け流す。

「なんだ、こいつは!」

 ボルトは目玉のローキックをジャンプしてかわす。目玉は、その巨体に似合わぬ身のこなしで、攻撃をくりだし、そして避ける。

 リーダーと魔女が視線で会話し、前後から同時に攻撃する。目玉はハイキックでリーダーを吹き飛ばし、水平チョップを魔女に放つ。魔女は手斧でチョップを受けながし、姿勢を落とすと、斧を振った。脇腹に手斧がめり込む。

 目玉が吠えた。目玉は水面蹴りで魔女を転がすと、また宙に飛び、両膝を合わせて降下してきた。ナットが魔女の足をひっぱり、ダイブしてくる目玉の攻撃から避けさせる。目玉の両膝が石造りの床に大きく陥没させた。

 目玉を囲む6人は攻めあぐんでいた。相手は一流の格闘家のような体さばきで、攻撃をくりだし、防御する。長距離の攻撃を目玉の力で防ぎ、近接戦ではその体術を使う。なかなかの強敵であった。

「なにかあるはずだ……」

 魔女はふと閃き、エルフの方を向いた。

「油ビン!」

 エルフは慌ててザックをひっかきまわし、油ビンを取り出す。

「投げろ!」

 エルフが油ビンを投げる。魔女は.45を抜き、油ビンを目玉の頭上で破壊した。中に入っていたランプ油が目玉に振りかかる。魔女はライターを出すと着火し、投げつけた。目玉の頭が燃える。

 目玉は頭の火を消そうと、短い腕で頭を叩いた。だが、頭頂部までは届かないようだった。

「いまだ!」

 リーダーが目玉の腕を斬りつける。ドワーフが右足に斧を叩きこむ。ボルトとレンチは脇腹に銃剣を突き立てる。さすがの目玉もこの攻撃をさばききることはできなかった。しかし、まだ戦えるようだった。両腕を伸ばして、全員に向かって回転ラリアットを放つ。皆はそれをかわすと、距離を取る。

 目玉は頭の消火はあきらめたようで、そのままにして、ファイティングポーズをとる。

 魔女は手斧を振り上げ、目玉の最大の特徴である大きな目玉目掛けて振り下ろした。目玉はそれを両腕でブロックし、口を大きくあける。

「あぶない!」

 エルフが魔法の矢を飛ばす。同時に斥候が投げナイフを投擲する。魔法の矢の発動を察知した目玉は、眼を見開くが、そこに斥候の放った投げナイフが命中する。目の効力は消え、魔法の矢が次々と着弾する。

 目玉が絶叫する。リーダーはドワーフと目配せし、一斉に同じ足に向かって攻撃を放つ。剣と斧が肉にめり込み、目玉は膝をつく。ボルトとレンチも同様に片腕に攻撃を集中した。銃剣が目玉の右手を貫く。

 魔女は手斧を野球のバッターのように構えると、目玉目掛けてフルスイングした。目玉の頬に手斧が叩き込まれ、何本かの牙が吹き飛ぶ。

「ラチェット! 動けるかい?」

 目玉の凝視の効果が切れたのか、動甲冑のシステムが再起動した。

『行けます!』

 ラチェットは動甲冑をゆっくり立たせると、.50を構えた。そして、大きく息を吐くように機体を安定させる。

「こ・れ・で・も、喰らえっ!」

 .50が発射される。銃弾が眼に次々と着弾し、その眼球を破壊する。目玉は絶叫し、むちゃくちゃに手足を振り回した。

「とどめをさすよ!」

 魔女は再び手斧を構え、フルスイングを叩きこんだ。頬が裂け、舌が飛ぶ。ボルトとレンチは銃剣を深々と刺すと、至近距離から銃撃を加えた。リーダーとドワーフがもう1本の足を破壊する。

 目玉は断末魔の声を上げると、ごろりと床に転がった。

「あーあ」

「うプ」

 転がった目玉に対して行われた行為に、斥候は呆れ、エルフは口に手を当てて眼をそらした。


「これで文献に補足できますね。実際に倒したのは自分たちが最初でしょうから」

 リーダーは目玉の死体を検分しながら言った。魔女はライターを拾い上げ、煙草に火をつける。

「財宝もそれなりにあったようで、充分出資に見あいますよ」

「こちらへの報酬も忘れずにな」

「うほーい、宝箱だー」

「こらっ! 罠を調べてからだ!」

 ボルトが部屋の隅にあった大ぶりの宝箱を見つけ、斥候が調べる。鍵を解除し、箱を開ける。

「あーあ……」

「なんじゃこれは」

 宝箱の中には、1本の巻物が入っていた。それを拡げると、そこには格闘技の型が描き込まれていた。

「モンスターが足長の武術を……」

「まぁ、そんなのが居たって不思議じゃないだろ?」

 魔女はリーダーの方を見て笑った。


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