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北の森の魔女  作者: 鉄猫


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魔法の道具

「ただいまー」

「今帰りました」

 小屋のドアを開け、ボルトとレンチが入ってくる。近くの町に買い物に行ってきたのだ。町でしか入手できない消耗品を買うためだ。

「ご苦労さん」

 魔女がいつものように居間のテーブルでノートパソコンを操っている。

「言われたものは全部買ってきましたが……えっと」

「ああ、ちょうど蚤の市がやってたもんで、結構いい出物を買ってきたんですよ」

 ボルトがニヤニヤ笑いながらポケットから取り出す。巻いてある布である。

「何だいそれ?」

「すいません、メム。テーブルの上を開けてください」

 魔女は言われるがままテーブルの上からノートパソコンと灰皿とマグを除けると、ボルトは布をテーブルの上に広げた。

「ふむん。良いテーブルクロスだね」

 それは豪奢な模様が入ったテーブルクロスだった。かなりの年代物のようで、四辺は少し毛羽だってはいるが、なかなかのものであった。

「それが、ただのテーブルクロスじゃないんですよ。えーっと」

 ボルトはテーブルクロスの隅に染め抜かれた一文を、自慢げに読み上げた。すると、テーブルクロスの上に4~5人前の食事と飲み物、カトラリーが出現した。

「……まさか?」

「ええ、"魔法のテーブルクロス"です。金貨2枚で買いました」

「まさか、本物だったなんて」

 蚤の市で偽物をつかまされたとばかりに思っていたレンチも、この様子にはびっくりした。ボルトはへへんっと鼻を鳴らす。

「たまには鼻が利くってもんですよ」

 魔女はクロスに出てきた料理を味見してみた。見た目は普通だが、なかなか味わい深い。一流のコックが作ったかのようだ。

「これなら、MRE(レーション)ばかりに頼られなくてもよくなりますよ!」

「そうだねぇ……ボルト、管理は任せるよ」

「yes,メム!」

 その後、いろいろな仕事や冒険で、この魔法のテーブルクロスは威力を発揮した。火を点けなくても、温かくて美味い料理が食べられるのだ。しかも、いざとなればテーブルクロスを巻き上げるだけで食事を終わらせることもできた。カトラリーや料理皿などは、テーブルクロスからある程度離すと消えてしまうが、別段困るようなことではなかった。メニューも同じものが出ないという徹底ぶりで、古今東西の料理を食べることができた。ボルトも調子に乗って、テーブルクロスを拡げて、呪文を唱える仕草も、一流店の給仕のように様になってきた。

 しかし、ある日。

 ボルトはまた食事を出そうとテーブルクロスを開いた。すると、テーブルクロスの真ん中に、給仕の服を着た小さな二本足の蛙が立っていた。

「なんだおまえは?」

「こちらを一読してくださいませ」

 蛙は一礼してボルトに封書を手渡した。ボルトは怪訝そうに手紙を開くと中身を読んだ。そして、何度も何度も目を白黒させて、封書とテーブルクロスの上の蛙を何度も見た。

「せ、せ、請求書だと!」

「はい。レストラン『蛙亭』をご利用いただき誠にありがとうございます。今までのお食事のお代をいただきたく」

「……メム……」

 ボルトの困った顔で魔女の方を向く。魔女は口の端が大笑いの寸前でぶるぶると震えるのを感じていた。

「で、いくらだ?」

「金貨、5枚です」

 ついにこらえきれずに魔女は大笑いした。

「──あー、苦しい。ボルトの事だ、どうせこんなもんだろうと思ってたよ」

「そこまで言わなくても……」

 魔女はテーブルクロスの上の蛙の方を向き、ポケットから金貨を取り出した。

「これは今まで良いもん喰わせてもらったお代だ。受け取ってもらいたい」

 5枚の金貨を受け取った蛙は一礼し、「またのご利用を」と言って消えていった。

「──ボルト」

「はい。売り飛ばしてきます」

 ボルトはテーブルクロスを丸め、そそくさと小屋を出ていった。その後ろ姿を見て、魔女はまた大笑いした。

「何があったんですか?」

 笑い声を聞きつけてやってきたレンチとラチェットが魔女に聞く。

「ああ、とんでもないまがい物をつかまされたのさ。あいつはマジックアイテムに関して見る目が無い」

「やっぱりな」

 ラチェットが薄々気づいていたかのようにつぶやく。

「でも、ありがたいこともある。ある日な、また蚤の市で"ホールディングバッグ(何でも入る袋)"を見つけてきたって言ってな、いろいろと弾薬とか手榴弾とかを突っ込んで使っていたんだが、ある日バッグが爆発して、それで"デボアリングバッグ(貪り食う袋)"だったとわかったんだ。バッグが手榴弾を噛んだみたいでな」

「それで、どうしたんですか?」

「今でも使ってるさ。トイレで」

「はぁ?」

「バッグに糞尿を入れると……というわけさ」

「災い転じてなんとやらですね」

「物は使いようさね」

 魔女は町に向かって走りだすHMMWVを見送りながら、マグを上げた。


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