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北の森の魔女  作者: 鉄猫


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戦士の挑戦

「また来たか……」

 魔女は小屋の前にやってきた5人の人物を見て、呆れた声を出した。小屋にやってきたのは自信ありげな表情をした冒険者のパーティらしい人物たちだった。服装も鎧もどこか派手で金がかかっている。

「『北の魔女』とお見受けする」

「そりゃそうだけど。あんたらは何だい」

「あなたと戦いに来ました。あなたの首にかけられた報酬は大金ですが、僕らにとってははした金です。あなたを倒して、歴史に名を刻むのが目当てです」

「それなら、変な挨拶もせずに殺ったらよかったじゃない」

「いえ、我ら『影嵐の五戦士』としては、丸腰の魔女を倒しては、名に傷がつきます。準備を整えて、全力でかかってきてください」

 五戦士のリーダーらしき、黒色の鎧の戦士が言う。

「それじゃ、ちょっと待っとくれ」

 魔女はボルトたちを呼ぶと、それぞれ武装をするように告げた。

「あれだけの自信の持ち主だ。何かある。いつもの対モンスター用じゃなく、対人装備を用意しろ。ナットはグレネード。ラチェット、あいつらに見覚えは無いかい?」

 五人をちらりと見たラチェットが口を開く。

「あいつらは王国でも名の通った冒険者のパーティです。黒い鎧の男が"ヴェイ"、戦士です。ワンドを持っている女が"シリス"、雷撃系を得意とする魔法使い。小柄な女が"ウィス"、いわゆるローグです。大男が"ガイ"、いわゆる防御役で、手足がひょろ長い男が"ネク"、こっちも魔法使いですが、防御系の魔法を専門にしてます」

「具体的にはどんなことをしてくるんだい?」

「そこまでは知らないな。王国最強と喧伝されているだけで、活躍の場は主に地下迷宮ですから、技を見た人はすくないかと」

「よけい胡散臭いな。ラチェットは20㎜で出な」

「いきなり終わらします?」

「いや、それで終わる気がしないんだ……」

 十数分後、魔女たちは装備を整え小屋の前に並んだ。

「おまたせ」

「いえいえ。北の魔女と手合わせできるだけで、自分たちにとっては名誉なことです。試合終了は、どちらかが死んだらでどうですか?」

「かまわないさ」

「では、はじめましょう」

 影嵐の五人は扇形の隊形を取った。魔女は一歩下がると、ラチェットに合図を出した。ラチェットの動甲冑が一歩踏み出し、抱えていた20㎜バルカンを発射する。分間3000発の機関砲弾が飛ぶ。

 それを予期していたかのようにガイが地面に手を当て、地面から土壁を生やした。砲弾は土壁によって防がれる。そこにネクが呪文を唱え、紫色の霧が小屋の前の5人を襲う。

「妙な霧だ」

「うまく前が見えない」

 ボルトとレンチが霧を避けようと後ずさる。そこにシリスが雷撃を叩きこむ。

「うわっ!」

「まかせといて。こっちには魔銀の鎧があるのよ!」

 ラチェットが雷撃にわざと当たり、雷撃を防ぐ。

「ははっ! たったそれだけ!?」

 シリスはさらにラチェットに向けて雷撃を放つ。

 ナットがグレネードを撃ち込む。それらはシリスが展開した雷風陣によって空中で爆発する。ネクの放った霧により、相手の姿が良く見えない。4人はテラスの方に後ずさった。

 ウィスの姿が不意に消えた。レンチは何かの危機を感じ、咄嗟に銃で首を守った。突然目の前にウィスの姿が出現し、その手にしていたショートソードがHK416に食い込む。レンチはウィスを蹴りつけるが、ウィスはまた姿を消し、どこかに移動する。

 魔女はヴェイに向かってM14を撃ち込んでいた。しかし、ヴェイはそれを避けようともせずに接近してくる。銃弾は彼が着ている鎧に吸収されるように消えていく。

「そんな攻撃は無駄ですよ!」

 ヴェイが剣を振るう。魔女は身体をひねってそれをかわす。テラスの柱の一本がきれいに切断される。

 魔女は内心焦っていた。これだけの能力者を相手にしたことはなかったからだ。一人一人が高い能力を持っている。こちらの攻撃は土壁や雷風陣で防がれている。今まで誰も傷ついていないのが奇跡だった。

 ラチェットは思い切って銃を捨てると、大剣と盾を抜き放った。自分が培ってきた経験を発揮できる装備だ。

「まずはお前だ!」

 ラチェットはネクめがけて突進した。その突撃をガイが陥没地を足元に出現させて防ごうとする。しかし、ラチェットはそれを読んでいたかのように飛び跳ね、ネクの頭上から剣を振り下ろす。

「それはさせない」

 バンっという音が響いた。シリスの放った雷撃がラチェットを弾き飛ばす。ラチェットは地面に転がり、雷撃が操縦系に被害を与えたようで、動かなくなる。

「そろそろ終わりにしますか」

 ヴェイが剣を下げて近づいてくる。魔女は叫んだ。

「フラッシュバン!」

 魔女の合図で、ラチェットを除く4人がスタングレネードを転がす。一瞬の間があって閃光と轟音が辺りを包む。

「う、眼が……」

 まったく経験の無い攻撃にヴェイたちは混乱した。眼は閃光により残像に覆われ、耳も聞こえない。

 ネクが眼を押さえた瞬間、ボルトが放ったショットガンの弾雨が命中する。散弾と燃焼剤を喰らってネクは身体をよじる。ボルトは弾倉に込めれらた全弾を撃ち込んだ。

「次、M7!」

 レンチやナットの手から灰色の筒状の手榴弾が放り投げられる。手榴弾は白い煙を吐き出しながら、影嵐の4人の方に転がる。

「目潰しをするつもりか!」

 ヴェイが煙を払いのける。が、次の瞬間には眼や鼻に強烈な痛みが走った。魔女たちが投げ込んだのは、いわゆるCSガス弾(催涙弾)だったのだ。魔女たちは素早くガスマスクをかぶり、銃を構えると、最も強敵であるシリスめがけて集中的に銃弾を放った。せき込み、涙を流しているシリスは呪文を唱える暇も無く銃弾に倒れた。

 せき込みながらもウィスが姿を消した。接近し、攻撃するためだった。しかし、その刃は届かなかった。ボルトはそれを待っていたかのように、暗視装置をサーマルイメージングモードに切り替え、消えたウィスの姿を赤外線で捉えた。レンチに襲い掛かっていたウィスはボルトの銃撃で吹き飛ばされた。

 ガイは反射的に身を護るために四方に土壁を立てた。そこに向かってナットがジャベリン(対戦車ミサイル)を構え、トップアタックモードで撃ち込んだ。ミサイルはガイの頭上で爆発し、身を護るために立てた土壁が逆に爆風をすべて集めることになり、ガイの身体は消し飛んだ。

 あっという間の大逆転だった。影嵐側は4人を失った。しばらくして白煙が消える。目の周りを真っ赤にしたヴェイが、死んだ仲間を見、そして魔女の方を向く。

「……仇は取らせてもらう」

「できればね」

 魔女はマスクを脱ぐと、M14を構えた。

「その攻撃は俺の闇の鎧には効かん。そればかりか力を吸収して、打撃力に変える」

「でも、生身の部分はやわなようだね」

 魔女はまたしてもスタングレネードを取り出すと、ヴェイの足元に転がした。強烈な光と音がヴェイを襲う。

「これで終わりにしとこう」

 ヴェイに素早く近づいた魔女が手にしていたのは、サーメイト手榴弾だった。それのピンを抜き、首元に突き込む。

「があぁっ!」

 魔女が離れると同時に、ヴェイの首元から炎がほとばしった。数千度にもなる化学の炎は、ヴェイの頭を一瞬のうちに燃やし尽くした。

 ヴェイの身体がゆっくりと倒れる。広場には5体の死体が転がっている。

「一時はどうなることかと」

「そういえば」

「ラチェットのこと忘れてた」

 4人は倒れているラチェットに駆け寄り、うつぶせに倒れている動甲冑をひっくり返す。ナットが非常開放弁を引き、動甲冑のハッチを開く。

「あー。どうだった? 終わった?」

 ラチェットは怪我一つなく動甲冑から這い出してきた。

「見ての通りさね」

 広場に死体が転がっている。

「言わんこっちゃない。自信過剰なのも問題ですね」

「今回は、その自信過剰に助けられたんだ。明日は我が身だよ」

「こいつらの装備はどうします? 結構良いものですよ」

 死体を検分しているボルトが言った。

「また同じような奴が来ないように、森のどこかに埋めてきな」

「この鎧なんて、売れば金貨1000枚はくだらないのに」

「言われたようにするんだよ」

「へーい」

 ボルトはナットともに後始末を始めた。遺体は小屋から離れたところに、獣に喰われないように深い穴を掘って埋めた。自分たちを追い詰めた敵への、せめてもの手向けだった。

「こんなのが続いたら、休む暇もありませんね」

「そうだね。昼寝するもの命懸けだ」

 魔女はどうしたもんかと眉間にしわをよせた。


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