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北の森の魔女  作者: 鉄猫


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19/54

殺しは朝飯前に。

 そいつは朝食の場に現れた。

「これはこれは皆さん。お初にお目にかかります」

 普通の魔法使いが着るようなローブではなく、洒落ものと言われるような飾りがついた豪奢な服を着ていた。

 キッチンでいつものように朝食をとろうとしていた魔女たちは、そいつがなぜそこにいるのかわからなかった。

「ああ、私は時を操ります。皆さんが気づかないうちに、この家に入り込むことなぞ、簡単なことです」

 うやうやしく礼をする男に、魔女はうんざりしたような表情を浮かべて言った。

「何の用だ。用事はすぐに済ませてもらいたい」

 伊達男は微かに笑い、小さなナイフを引き抜いた。

「簡単な話です。皆さんには死んでいただきます」

「魔女の家にやってきて、帰った者はいないぞ」

 ボルトが素早く傍らに置いていたM4を抜き、構える。

「朝飯の最中でね。命が惜しかったら、今すぐ出ていくことだ」

「なかなか手の速い方で。でも撃てますかね?」

 何ッと、ボルトはM4を見た。引き金が布でぐるぐる巻きになっている。これでは引き金が引けない。

「い、いつの間に!?」

 それを見たレンチも銃を取る。そちらも引き金が布で巻かれている。

「なんで?」

 伊達男は奇術師のように両手を広げるとニヤリと笑った。

「北の魔女を倒すのは私です」

「そうかい」

 魔女はホルスターに手を伸ばした。が、指が空振りする。

「あなたのお得意の武器は棚にしまっておきました」

 ラチェットが呪文を唱えようと立ち上がろうとするが、脚がもつれ床に倒れる。見ると、両足のブーツの紐が左右を合わせてぐしゃぐしゃに結ばれている。

「だから言ったでしょう。私は時を操れると。私はこの場に立ったのは一度ではありません。皆さんが私を見て何をするかを見て、時を戻し、それらが実現しないようにしています。次の手もすでに妨害させていただいています。あなた方には勝ち目はありません」

 伊達男はナイフを魔女に向けた。魔女が次に考えていたM14を構えることはできなかった。M14が傍らに無い。

「これはファッキンな野郎だね」

「それでは皆さん。覚悟を決めてください。誰から死にますか? 反撃の手段はすべてありませんよ」

 誰もが黙りこくった。そこに魔女が口を開く。

「時を操るって言ったね? もしこの時点であんたが死んだらどうなる?」

「そうですね。時を戻せないので、死ぬんではないでしょうか。試した事がありませんので、どうとも言えませんが」

 ナイフが魔女の喉元に迫る。ボルトやレンチは何か武器を探すが、手の届くところには何もない。テーブルの上にあったはずのカトラリーも無い。

「ご覚悟!」

 その時、パンっという音とともに何かが弾けた。鍋にかけられていたゆで卵が破裂したのだ。熱々のゆで卵の破片が食卓に飛ぶ。その一部は伊達男の顔に直撃する。

「こ、これは!」

 伊達男が次に感じたのは、顔面への強烈な一撃だった。ナットの右手のフルスイングは伊達男の顔面を一撃で粉砕した。

「ぐ、ぐはっ……」

 何やら呪文を唱えようとしていた伊達男の口からは、苦痛に歪む声と、折れた歯と血しかでなかった。ナットは伊達男の頭を持ち上げると、床に叩きつけた。

「もういい、ナット。死んでる」

 魔女の声を聞き、ナットは次の攻撃の手を引いた。そして、器用に伊達男の身体を血で汚れたラグで包むと、小屋の外に運び出し、獣の餌とするべく遠くに投げ捨てた。

「あいつも手前勝手な未来を見ていたんだろうね」

 魔女は愛用の.45を棚から見つけ出し、ホルスターに収めた。

「結構念入りに武器にできそうなものを隠したりしてますね」

「誰か、起こしてー」

 テーブルの下に転がって起きれなくなっていたラチェットを、レンチが抱き起す。

「両方の靴の紐を結ぶなんて、残酷な奴だ」

「で、あいつはどこのどいつだったんだ?」

 ボルトが言うが、誰もその問いには答えられなかった。

 ナットが外の桶で汚れた手を洗って戻ってくる。そして、朝食のメニューを再び聞いた。

「ゆで卵を頼む。今度は爆発しないやつをね」

 魔女は微かに笑うと、めちゃくちゃになったテーブルの上を皆で片付け始めた。


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