8 少女は試験を受ける
投稿二日目にして、たくさんのブックマークと評価をいただきましてありがとうございました。
冒険者ギルドで再試験を申し渡された二人、まずは先にサクラが訓練場のフィールドに立つ。
試験官はいつでも掛かってこいという態度で剣を片手で構える。サクラは慎重に間合いを取って飛び込むタイミングを図る。剣が届く間合いを見切って相手の懐に入らないと、リーチが短いサクラの攻撃は届かないのだ。動きを止めた両者が睨み合うヒリつくような時間が過ぎていく。
そしてサクラがついに動き出す。右に踏み込むと見せてから瞬間的に軸足を切り替えて、試験官が剣を手にする方向にダッシュしていく。
「ふん」
サクラの動きに反応した試験官は、右手の剣を正面に突き出す。それも最も避けにくい体の中心を狙った突きであった。だがサクラは怯まない。正面から突き出された剣を体を開いて左方向に躱すと、さらにもう一歩踏み込んでいく。そして瞬時に試験官の横側に回り込んだ彼女は、左手で相手の脇腹を目掛けてフック気味の一撃を放つ。
「甘い」
剣を引き戻しながら体の向きを変えた試験官は、左手の盾を振りかざしてパンチを受けようとする。だがそれすらもサクラが仕掛けた罠であった。盾で撥ね返すると誰もが考える左のパンチを囮にして、サクラの本命は相手が最も避けにくい左足のローキック。パンチからやや遅れ気味のタイミングで体を捻るようにして放たれたサクラの左足が試験官に迫る。
ビシッ!
訓練場に骨と骨、筋肉と筋肉がぶつかり合う鋭い音が響く。サクラのローキックは的確に試験官の右足を捉えている。
「グッ」
強烈なローキックを食らった試験官の表情がわずかに歪んで、その口から小さな声が漏れる。その間にサクラはさっさと後退して、再び剣の間合いの外に出ている。次はどのように飛び込もうかと、すでに頭の中で算段を開始しているのであった。その様子を見た試験官は、なぜか嬉しそうなニヤリとした表情を浮かべる。
「驚いたぜ。俺の突きを躱しただけじゃなくて、まさか蹴りを叩き込まれるとは予想外だったな。いいぞ、お前は合格だ」
ほんの一瞬の攻防で、この試験官はサクラの技量は高い水準にあると見て取っている。少なくとも現状Dランクの冒険者として合格であった。たったこれだけで終わりと言われたサクラのほうが、なんとも拍子抜けした表情だ。確かに無理もないだろう。最初の一撃を当ててこれからどのように料理しようと身構えた矢先に終わるというのは、サクラにとっては不完全燃焼も甚だしい。
あっという間にサクラの試験が終わると、続いてはアスカの番となる。試験官は槍を手にするアスカの姿に確認の意味で声をかける。
「本当にその槍で試験を受けるのか? 書類には魔法使いという記載があったぞ」
「最近は槍の訓練しかしていないので、これで大丈夫です」
アスカとしては自分の腕がどの程度上がったか確かめる意味で試験に臨むので、今日は槍以外で試験を受けるつもりはない。サクラほど自信はないが、自分の力を思いっきり叩き付けようという闘志がアスカの体ら湧き起っている。
「まあいいだろう。所詮冒険者は全ては自己責任だからな」
「お願いします」
森でのサクラとの戦闘訓練時には固い木の棒を手にしていたアスカだが、槍は穂先が金属になっている分重心がやや手前にある。ちょっとした違和感は感じているものの、まあこの程度なら大丈夫であろうという表情のアスカであった。
どっしりと構えて動かない試験官に対して、アスカは槍を構えて徐々に前進していく。剣と槍の先端が触れ合うかどうかというところで、アスカが大きく一歩踏み込んで槍を突き出していく。意外なほど鋭いその突きに対して、試験官はやや驚きの表情で剣を横から当てて撥ね返す。
「素人の付け焼刃ではないようだな。基本がしっかりしている」
「二人しかいないパーティーなんで、色々とやらないといけないんですよ~」
どうやら試験官もアスカの槍捌きが本格的だと認めたようだ。眼光を強めてアスカの次の動きに集中する。再びアスカが前進をして槍を突くと、それを試験官が振り払うといった攻防が繰り返されていく。何度目かの攻防で試験官が大きく槍を横に弾いてから、剣を振り被ってアスカ目掛けて突っ込んでくる。
だがアスカは慌てない。弾かれた槍の穂先の動き敢えてに逆らわないように体を開き気味の姿勢にすると、心持ち槍を短めに握り直す。そのまま横薙ぎに試験官の胴体を狙って振るっていく。
ガキン
踏み込みの途中で横から槍が飛んでくる動きを察知した試験官は、左手の盾で受け止める。そのまま剣を振り下ろそうとしてもすでにアスカの体は軌道の外側に逃げており、試験官は体勢を立て直さざるを得なかった。そのわずかな時間を利用して、再びアスカが槍を突き入れていく。
「まだまだだぞ」
今度は試験官が剣を真横に薙いで、アスカの突きを打ち払っていく。同時に剣を振る遠心力を利用して横向きになった体勢をアスカの正面に向ける。この辺の動きはさすがというべきであろう。不利な体勢を一瞬の機転で元に戻すのは、熟練の冒険者ならではの剣技かもしれない。
もっともこの試験官が本気を出していないのは明らかだ。いくら何でも本格的に槍の訓練を開始して半年のアスカに防戦一方に押し込まれるはずはない。おそらくはアスカの技量を確かめるという試験官の職務に専念しているのであろう。
その後もアスカが突き込んでは、試験官が躱して反撃に出るという攻防が何度か続く。こうして見るとサクラによって指導されたアスカの槍捌きは、派手さはないが堅実かつ相手の嫌な箇所を執拗に狙っていくという技術をいつの間にか身に着けているのだった。わずか半年でここまで成長するのは、実はかなり驚異的だったりする。
今ここにいるのは、歩く度にフーフー言って呼吸を整えていたアスカではない。森で魔物との実戦を繰り返して来る日も来る日も腕を磨いてき続けてきた、いわば生まれ変わったアスカであった。別の言い方をすると、サクラによって魔改造されちゃったとも表現できる。
「よーし、いいだろう。合格だ」
「やったぁぁ。ありがとうございました」
試験官に挨拶をすると、アスカはサクラが待っている場所に駆け寄る。その表情は素直に合格を喜んでいる。ついさっき元パーティーメンバーと顔を合わせてビクビクしていた姿と同一人物とは思えない。喉元過ぎると熱さをあっという間に忘れてしまう便利な性格なのか、それともキャンプ生活で図太くなったのか、この辺は定かではない。
「サクラちゃん、やりましたよ~」
「初めて本物の槍を手に取ったにしては中々いい動きでした。森での修行の成果が出ましたね。必ず合格をするとと信じていましたよ」
「本当にサクラちゃんのおかげですよ~。森の生活は大変だったけど、やっぱり役に立っているんですね」
アスカにとっては師匠でもあるサクラは、彼女の成長を確信していたようだ。だがサクラの目標は、まだまだこの程度では終わらない。この先アスカと二人でより高みに登っていくつもりだ。そこにはどんな苦難があろうとも、サクラは立ち止まりはしない。ただしアスカはまたブクブク太って高みに登っていく坂を転がり落ちていく心配が付きまとう。幕内力士でも負け越すと番付から陥落するのだ。
アスカの心配はともかくとして、こうして再試験で無事に合格を勝ち取って二人ともクエストを受けられるようになる。その後は買い取りカウンターでアイテムの代金の金貨50枚を受け取って、ひとまずは冒険者ギルドを後にするのであった。
冒険者ギルドで試験に合格した二人は街に出て…… この続きは明日投稿します。どうぞお楽しみに!
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