7 少女は冒険者ギルドに立ち寄る
森のキャンプを終えていよいよ街に戻っていく二人は……
森を出て歩くこと1時間少々、半年前はちょっと歩くだけで息切れを起こしていたアスカも、サクラと全く同じペ-スで街を目指す。そしてようやく門が遠目に見えてくる。
「半年ぶりの街は、とっても眩しく見えますよ~」
「アスカちゃんはずいぶん嬉しそうですね」
「それはそうでしょう。街に戻れば、美味しい物がいっぱいあるんですから」
「そしてまたブクブク太っていくんですね」
「もう絶対に太ったりしません」
「いいんですよ太っても。またキャンプにご招待しますから、どうぞいつでも声を掛けてください」
「絶対にお断りですよぉぉぉ!」
街の門の前にして、すでにアスカはテンションマックスになっている。何せようやく半年ぶりに街に戻ってきたのだから無理もないであろう。対してサクラは、あと1年でも2年でも洞窟で生活しても大丈夫という表情だ。その表情には「鍛え方が違う、鍛え方がね」という自信がありありだ。森の民である獣人やエルフに匹敵するサバイバル術を身に着けているサクラにとっては、洞窟生活はまるで故郷に戻ったかのような居心地であったのだろう。
門番に通行証を見せて街中に入っていくと、二人はまっすぐに冒険者ギルドを目指す。半年間のキャンプ生活で得たアイテムを売って、まずは現金を手に入れなければならないためだ。もちろんサクラは手持ちの現金がアイテムボックスに仕舞われているが、アスカはほぼ一文無しでサクラに借金まで背負っているのだ。
「ナルディアの冒険者ギルドへようこそ」
カウンターにいる受付嬢がにこやかな表情で出迎えてくれる。そういえばこの街はナルディアというらしい。今初めて知った。
「アイテムの買取りをしてください」
サクラが取り出すのは、ホーンラビットの角と毛皮やオークの牙と革、ワイルドウルフの毛皮、ブルーグリズリーの爪等々… 買取カウンターに山が出来上がる量であった。魔物の体の部位しか残っていないのは、すでに肉は二人のお腹に収まってすっかり消化されているせいであった。
「こ、こんなにたくさんですか… そ、それでは冒険者カードをお願いいたします」
カウンターのお姉さんが思いっきり引いている。半年分の収穫品を全部まとめてドン! では、引くなと言うほうが無理であろう。だが冒険者カードを受け取ったお姉さんはやや困った表情を浮かべている。
「お二人はここ半年間クエストを受けていませんね」
「そういえばそうでしたねぇ~。ずっと森に籠ってキャンプをしていましたから」
「理由は問題ないのですが、クエストの受注の期限が切れています。半年以上クエストを受注していないと、ギルドの規定で再試験が課せられるんですよ」
「再試験ですか?」
「はいそうです。どのような理由があっても休んでいたと見做されますので、冒険者の適性を確認するための試験を受けてもらいます。合格しないと、新たなクエストは受注できません。この場でご希望しますか」
「それではしょうがないですねぇ~。再試験をお願いします。それから買い取りも試験後なんですか?」
「買い取りは今すぐに可能です。それでは再試験の手続きをしておきますので、呼び出されるまでお待ちください」
お姉さんにこう言われた以上は、従うしかないだろう。二人はベンチに腰を下ろして呼び出しを待っている。特に何もすることがない二人は、大人しく手続きが終わるのを待つ。
すると一組の冒険者パーティーが入り口から入ってくる様子が目に入る。そのパーティーこそが、半年前アスカを追放した〔綺羅星の誘惑〕であった。どうやらアスカを追放後に別の人間を加入させて元の五人組に戻っているようだ。まもなくCランクに昇格しようという勢いのあるパーティーなので、加入を希望するアスカの代わりの魔法使いがすぐに見つかったのだろう。
だが彼らの姿を見た途端に、アスカを身を固くして目を閉じて下を向く。どうやら半年が経過してもなお、追放された記憶というのはアスカの心に傷となって残っているのであろう。サクラは、アスカの態度の変化に敏感に気が付く。
「おや、アスカちゃん、一体どうしたんですか?」
「そ、その… 半年前まで所属していたパーティーの人たちなんです」
ヒソヒソ声で言葉を交わしながら、サクラはそのパーティーの行方を目で追う。彼らはそこにアスカが座っていても全く気が付かずにクエスト完了の手続きを終えると、そのままカウンターの奥にあるギルド直営の酒場に消えてしまった。おそらくはクエストの成功を祝って今から祝杯の一つでもあげるのだろう。
「アスカちゃん、全然気が付かなかったみたいですね。見た目が別人になっていますから、通りすがりにちょいと見ただけじゃ誰だか分からないんですよ」
「はぁ~、よかった~… 声を掛けられたらどうしようかと思ってドキドキしました」
「アスカちゃんは気が小さいですねぇ~。ドンと来いという気持ちでいればいいんです」
「そうそうサクラちゃんみたいにはいかないですよ~」
二人がこのようなヒソヒソ話をしているうちにどうやら再試験の準備ができたようで、カウンターからお姉さんの呼ぶ声が聞こえてくる。
「お待たせしました。先に再試験を行いますから、建物の裏手にある訓練場に向かってください。試験が終わる頃には買い取りアイテムの計算が終わっていますから」
「わかりました」
こうして二人は、訓練場に向かう。建物の通路を抜けて酒場の脇を歩いて外に出ると、そこは頑丈なレンガ塀で取り囲まている訓練場だ。そこにはすでに試験官とギルドの記録係の職員が待っている。
「おーい、こっちだ、早く来い。俺が試験官のビスマルクだ。そこにある武器から好きな得物を選んでいいぞ」
「「はい」」
大声で二人に指示を出すビスマルクという男は、身長は190センチで筋骨隆々。右手には刃を潰した片手剣を握りしめ、左手には小型の盾を持っている。いかにも剣士か戦士風のいでたちだ。年齢はかなりいっているようで40台半ばに見えるが、その体つきには衰えた様子は一切見当たらない。いかにも歴戦の強者といったオーラが、その体中から溢れ出ている。
「サクラちゃん、武器はどうしますか?」
「私はいつも通りの拳で戦いますよ。アスカちゃんは、そうですねぇ~… この辺の槍が扱いやすそうですね。何回か素振りしてみてください」
「わかりました」
アスカは魔法使いとして試験を受ける道もあるのだが、半年間の成果を試したいので敢えて槍を手に取る。サクラの指導の下で長めの木の枝で素振りを繰り返しただけあって、風を切る槍の穂先の動きは中々鋭い物がある。試験官はその様子を目にして、満更でもないなという表情を向けている。
「この槍で大丈夫です。どちらが先ですか?」
「私から行きましょうか。アスカちゃんはここで待っていてください」
両手に革手袋を嵌めただけのサクラが訓練場の中央に立つと、試験官はオヤ? という表情を向ける。
「武器を取らなくていいのか?」
「はい、私はずっと拳で戦うスタイルですから、これで構いません」
「そうか、では始めようか。怪我はさせないつもりだが、打ち所が悪かったら勘弁してくれよ」
「それは当たった場合の話ですよね。それでは行きます」
自信に満ちた表情で軽く両腕を上げて構えをとるサクラであった。
ギルドで試験を受ける二人、果たして無事に合格できるのか…… この続きは1時間後に投稿します。どうぞお楽しみに!
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