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3 少女は挟まれる

本日3話目の投稿となります。この後2話今日中に投稿いたします。

(誰かが魔物に襲われている? それにしてはこんな森の浅い部分だし、何かおかしいですよ)


 もしや盗賊に襲われて森に連れ込まれた旅の商人か? そんな可能性を考えながらサクラは声がした方向に気配を消したまま進んでいく。森の出口に近づくにつれて木々が疎らとなっており、徐々に視界は開けてくる。そしてまだ森に10メートル程しか踏み込んでいない場所で、ついにサクラの目に驚くべき光景が飛び込んでくる。大木と大木の間で何やら手をジタバタさせて助けを呼んでいる奇妙な物体がそこにいるのだ。



「誰か助けて~」


 必死に助けを求めるその物体はどうやら人間のようだ。だがサクラの脳裏には、もしかしたらあれはオークではないかという一抹の疑念が浮かぶ。体つきというか、その物体の横幅がまるでオークのようだったせいだ。ただし普通に人間の声で助けを求めている様子からして、やっぱりオークではなさそうだと考えを改める。そしてその助けを求める人間をよくよく観察するが、周囲には魔物も獣もその姿は一切なくて、一体どのような理由で助けを求めているのかサクラにはさっぱり伝わってこなかった。


 しょうがないから本人に聞いてみようと気配を表して近づいていって、頭の上に???を浮かべながらその物体に話し掛ける。



「こんな場所で何をしているんですか?」


「よかった~。どうか助けてください」


「いやいや、周りには魔物もいないし、何を助ければいいのかさっぱりわからなんだけど」


「挟まって動けないんです~」


「はぁ?」


「だ・か・らぁ、木と木の間に挟まって動けなくなったんですよ~」


 桜がよくよく見ると、助けを呼ぶその人物は70~80センチの木の間にスッポリと挟まれているのだった。体の両脇の無駄な肉に木の幹が食い込んでおり、前後に動こうとする体を邪魔している。贅肉のおかげで進退窮まっているらしい。この様子を目撃したサクラは、あまりに下らない理由で一瞬目が点になる。そして次の瞬間…



「ギャハハハハハハハ! デ、デブ過ぎて木に挟まって動けなくなってる~」


 大笑いが止まらない。相当に笑いのツボを刺激したようで、両目に涙を滲ませながら腹を抱えて笑うサクラ。その態度に挟まって動けない人物は少々ムッとした表情を浮かべている。


 ようやく無慈悲な笑いの洪水が収まったサクラは、改めて木に挟まっている人物をしげしげと眺める。こんな間抜けな理由で動けなくなるなんて、ウルトラスーパー級のバカなのではないかという目で見ている。



「はぁ~、こんな間抜けな人を助けなければならないなんて、呆れ返って言葉が出ませんよ」


「そんなことを言わずに、どうか早く脱出させてくださいよ~」


 両肘から先を辛うじて動かして両手を組んでお願いポーズをとってはいるが、あまりにギャグパート過ぎてサクラには同情する気持ちが一切湧いてこない。むしろこんなアホな人間とは金輪際関わりになりたくないとさえ思っている。なんだったらこのまま放置して街に戻りたいとも考えるサクラであったが、動けなくなっているこの人物をこのまま見捨てるのも、なんだか夢見が悪くなるような気がしてくる。仕方がないとばかりに…



「それじゃあ、手を引っ張りますからね」


「はい、お願いします」


 桜が両手を引っ張ってみると…



「痛たたたたた、手が抜けてしまいますよ~」


「しょうがないですね。それじゃあ後ろから背中を押しますよ」


 背中を力いっぱい押してみる。その結果…



「グ、グエッ! い、息が… く、苦しい」


「これもダメですか… どうやってこんなにスッポリと嵌ったのか、本当に訳が分かりません」


「絶対に通れると思って無理やり前進したのが不味かったみたいですよ~」


「通れるはずがないでしょうがぁぁぁぁぁ! 自分の横幅がわかっていないんですかぁぁ」


「面目ない」


 どうやら無理やり引っ張ったり押したりしても無駄だとサクラは理解する。完璧に無駄な肉に木の幹が食い込んで、にっちもさっちもいかない状態なのだ。電車のドアに挟まれた通勤客によくある状態だ。駅員さんや周囲の乗客が協力してドアを開いて助け出す光景をちょくちょく目にする人もいるのではないだろうか。


 押しても引いてもダメなので、サクラは別の方法に取り掛かるようだ。



「仕方がないですから、ジッとしているんですよ」


「はい、動けませんから」


 ここだけは妙にはっきりと答えるデブがいる。ちょっとその言い方が鼻につくが、それもそうかと思い直してサクラは片方の木の幹の根元に右の手の平を添える。軽く目を閉じて精神を集中すると、5センチほど手の平を引いて気合い一閃。



「破ぁぁぁぁぁ」


 バキベリバキバキ


 ゆっくりと木が倒れていく。桜の手の平が与えた衝撃で木の幹が根元のほうからゆっくりと折れているのだった。



「今のうちに早く抜け出してください」


「ヒィィィィ、木が倒れましたぁぁ」


 片側の幹が傾いた結果、そのおデブさんは体を挟んでいた隙間が広がってようやく脱出できたようだ。だがせっかく助け出されたにも拘らず、サクラが手の平だけで木を倒した信じられない出来事にビビりまくっている。生まれたての小鹿のように体をプルプル… 間違えた! 水族館で見掛けるゾウアザラシのように体をブルンブルン震わせて怯えた表情をサクラに向けている。



「ど、どうやって木を倒したんですか?」


「このくらいは初歩的な技ですから簡単です」


「だって武器も使わずに素手でしたよ」


「きちんと修行すれば、誰にでも出来ます」


 ずいぶん自信満々だなと思いながらも、木に挟まっていたおデブはお礼を言っていなかったと気づく。



「危ないところを助けてもらってありがとうございました。私はアスカといいます。16歳です」


「いいえ、思いっきり笑わせてもらいましたからお礼には及びません。私はサクラ、あなたと同じ16歳です。それよりも木に挟まって動けなくなるような素人は、森に入ってこないほうがいいです」


「サクラちゃん、私はこう見えても冒険者なんです。一応はDランクなんですよ~」


「へえぇ~… 私も同じDランクですよ。得意な技はありますか?」


「えへへへ、そこそこ腕のいい魔法使いです」


「そうなんですか! 人は見掛けによりませんね。ただのビヤ樽だと思っていたら、魔法が使えるんですね」


「誰がビヤ樽ですかぁぁぁ」


 サクラの発言にはついつい毒が織り交ざってしまう。これだけのバカっぷりを見せつけられたら、誰でも聖人君主のような対応は不可能であろう。お釈迦様でも助走をつけてドロップキックをかますレベルのアホっぷりであったといえよう。


 とはいえ、このアスカと自己紹介した人物にちょっとだけ興味が湧いたのも事実だ。単にふざけた人間だと思っただけだが、今日はもう仕事は終わっているのでもう少し話を聞こうかなと、サクラはさらに質問を続ける。



「え~と、ビヤ樽さんは」


「ビヤ樽じゃなくて、アスカです」


「アスカちゃんは、どんな魔法が出来ますか?」


「それじゃあ実際に撃ち出してみましょう。アイスバレット」


 アスカの右手から氷の礫が自分を挟み込んでいたもう一方に木に向かって飛んでいく。自分の体を封じ込んでいたお礼と憎しみを込めて、それはもうたっぷり大盛りのトッピングマシマシで。


 バババババババババ


 氷の礫は中々いい感じに木の幹に食い込んでいる。桜の目から見ても、そこそこ合格点を与えられるレベルであった。自分で「腕のいい魔法使い」と言うだけのことはあるようだ。魔法のデモンストレーションを終えたアスカは、自分の置かれている立場も忘れてドヤ顔を決めている。調子が良すぎだと思わないのだろうか? 何だったらもう一度木の幹に挟まれてもらいたい。


 ドヤ顔を決めるアスカの態度にややムカッ腹を立てながらジト目を向けるサクラが口を開く。アホなおデブとは思いつつも、なんだか放っておけない気がしてきたせいだ。アスカの魔法の腕だけ見れば、これは中々の拾い物という気がしてきた。こうしてみるとサクラは意外とお人好しかもしれない。



「ビヤ樽さ…」


「アスカです」


「アスカちゃんは、どこかのパーティーに所属しているんですか?」


「今日クビになったばっかりで、今はどこにも所属していません」


「ほほう、よかったら私とパーティーを組みませんか?」


「本当ですか! 頑張りますので、どうかよろしくお願いします」


「その代わり、ものすごく厳しいですよ。そうですねぇ~… まずは人並みの体格になるまで私と一緒に訓練をしてもらいます。二度と森の中で木に挟まらないように、もっとほっそりした体形になってもらいましょう」


「私頑張りますから! どんな苦難にも耐えてみせます」


「いい覚悟ですね。今日は一旦冒険者ギルドに顔を出さないといけないので、街に戻りましょう。訓練は明日からスタートします」


「わかりました。一緒に戻りましょう」


 こうしてサクラとアスカという二人が出会ってパーティーを組むこととなった。この翌日からアスカの身には信じられないような苦難が始まるのだが、この時点では彼女自身まったく知る由はない。


この続きは30分後(予定)に投稿します。もうしばらくお待ちください。

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