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2 少女は薬草を摘みに森へ行く

本日2話目の投稿になります。引き続きよろしくお願いします。

 パーティーを追い出されたアスカは、街中の通りをフーフーしながら歩いている。こんな調子では健康診断で一発で引っかかってしまうだろう。〔要治療〕という項目が上から下まで診断表に勢揃いするに違いない成人病の総合商社とでもいうべき体になっている。この世界では健康診断など存在しないが、このままでは長生きができないのは確実だ。


 そもそも冒険者というのは、いかに魔法使いであっても体が資本なのは言うまでもない。この時点でアスカは冒険者として失格であった。だが12歳から仲間と一緒にパーティーを組んで冒険者として活動してきたアスカは、当然ながら手に職などない。むしろ普段からゴロゴロしていたい人間なので、店や市場で毎日決まった仕事をしようという意思もない。そんな人間を簡単に雇うほど、この街には職もない。


 八方塞がりの現状には、どう考えても明るい未来など展望できないのであった。だがアスカにとってはそのような先々の展望よりももっと切実な問題がある。それはお金がないという実にシンプルかつ、生きていくためには非常に重要な問題であった。


 もちろんたった今パーティーを追い出されたばかりでショックはある。自分はいらない子と言われたことが一人になった今、ますます心の中に重たく圧し掛かる。だが、この場で立ち止まっているわけにはいかないアスカであった。



(さて、どうしましょうか… 殆どお金もないし… 簡単にお金を稼ぐんだったら、森に行って薬草でも採ってくるしかないです。パーティーを追放されても、冒険者ギルドの登録は残っているはずでしょうから)


 たった今追放されたばかりで立ち直れないくらいのショックを抱えているものの、生きていくためにはお金を稼がなければならない。クエスト報酬で昨日パーティからそこそこの金額を配分されてはいたが、そのほとんどを夕食で散財しか結果アスカの手持ちのお金はごく僅かであった。


 ということで、やむなくアスカは街の外にある森へと向かう。巨体を揺らしてフーフー息を切らし、時折立ち止まって息を整えてから石畳の街道を歩いていく。


 街道沿いや森の浅い部分では魔物と遭遇するのは稀だ。魔物というのは体内に魔力を蓄えて獣から独自の進化を遂げた種だといわれている。独自の生態系を持っており、通常の動物とは区別されている。人が住む地域の付近に出没する魔物は発見次第に討伐対象とされて、冒険者ギルドが主体となって討伐を行う。そのためのクエストが冒険者の収入となるのだ。


 もちろん冒険者の仕事は、魔物の討伐だけではない。これからアスカが行おうとしている薬草の採取も、冒険者ギルドでは常時依頼のクエストとして取り扱われている。ただし薬草と一口に言ってもその効能によって様々に分類されているので、熟練しないとまとまったお金を稼げるほどは集められない仕事でもある。


 その点ではアスカには自信があった。まだ駆け出し冒険者の頃、薬草の採取は散々行っている。森のごく浅い部分であったら、一人で活動しても魔物に襲われるリスクは殆どないであろう。そう、クエスト自体は問題はなかった。だが街を抜けて森まで行くだけで、すでにアスカはバテバテになっている。スタミナと体力の面では大問題があった。



(ふぅ~… ここに来るだけで疲れましたよ~。一休みしてから森に入らないと、どうにも体がもちません)


 街道から外れた場所にある切り株に大きなお尻を下すと、その場で休憩に入るアスカの姿がある。薬草の採取をナメ過ぎている気がする。本当にこの調子で大丈夫だろうか? いや、それよりも切り株は無事か? ヒビが入っていないのか?


 森の入り口でたっぷり30分休憩して、ようやく歩く気力を取り戻したアスカは、重たい… 本当に重たい腰を上げて薬草を求めて森の中に向かって歩き出すのであった。


 この直後にアスカはとんでもない災難に見舞われることは、いまだ彼女は気づいてはいない。











   ◇◇◇◇◇











 森の入り口でアスカが休憩している同じ時間帯に、一人の冒険者がワイルドウルフ討伐クエストを無事に終えて、周囲を警戒しながら森のかなり深い部分から出口へと向かっている。


 彼女の名はサクラ、ソロで活動するDランクの冒険者である。この世界では、大抵の冒険者はパーティーを組んで活動する。魔物の盗伐には当然ながら怪我や、場合によっては死に直結するリスクが伴う。パーティーはそのリスクを分散かつ最小化するのが最大の目的といえる。より安全確実に魔物の討伐を遂行するためには、多くの冒険者にとってはパーティーは欠かせないものであろう。良い仲間と巡り合えば、チームワークによって自分たちの実力以上の魔物を討伐可能になるのだ。


 だが時には、一人で活動するのを是とする冒険者もいる。性格的に人と組むのが面倒だったり、本当は誰かとパーティーを組みたいのだがいい相手が見つからなくて否応なく一人で活動しているなど、その理由は人それぞれだ。


 だが概ねソロの冒険者というのは、腕が立つのは言うまでもない。索敵から魔物の討伐までの一切を一人で行う以上、優れた能力がないとたちどころに生命の危機に瀕する。したがってソロの冒険者というのは、パーティーで活動している冒険者よりも実際は1つ若しくは2つ上のランクと見做して間違いない。


 実際にサクラは、その実力だけならば今すぐにでもBランクに名を連ねてもおかしくはなかった。彼女がいまだにDランクでいる理由は、孤児として拾われて森の奥で師匠とついこの間まで修行に明け暮れる日々を送っていたため、まだ冒険者ギルドに登録してからわずか半年しか経過していないという点だけである。実力は認められるものの、まだ実績が不十分という理由でDランクに留め置かれている。


 しかも魔法使いでもない彼女は一切の武器を持たず、徒手空拳で戦うスタイルを貫いている。師匠から学んだ技を武器にして、彼女は数多くの魔物をその拳で血の海に沈めてきたのだ。


 桜は本日もワンパンでワイルドウルフを仕留めており、これから冒険者ギルドに戻ってクエスト完了の報告をしようと森を歩いている。その視線は常に周囲に配られており、一切の気配を見逃さずに注意深く全方位を見渡している。歩いているにも拘らず、足音は一切立てずに木の葉を踏みしめる僅かな物音すら発しないように細心の注意を払う。さらにさらに、獣ですら歩いているサクラの姿を見失うのではないかという巧妙な気配の消し方で、小鳥だろうが虫だろうが何も気づかずに桜の極々近くまで寄ってくる。


 年齢はまだ成人したばかりのように見えるが、そのサクラという冒険者はまるで生まれつきの捕食者のようであった。もちろんその名の通りに、童顔なその顔にはあどけなさを残す少女である。黒髪に黒目というこの世界では珍しい外見をしてるのが人目を惹く特徴であろう。冒険者が身に着ける着心地と動きやすさ重視の服をまとい、両手には革の手袋を嵌めている。


 無言で森を進むサクラ、間もなく森の出口が見えてくるちょうどその時、彼女の耳には弱々しい声で「誰か助けて~」という声が聞こえてくる。


 これは何らかの危機に陥っている人間がいるのかと感じたサクラは、その声がする方向に一気にダッシュしていくのだった。

この続きは30分後(予定)に投稿します。しばらくお待ちください。

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