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10 少女は奮い立つ

お昼ご飯を食べようと街中をうろつく二人は……

「サクラちゃん、お昼時はどこのお店もいっぱいですね~」


「通り沿いの店は混んでますね。一本裏道に入ってみましょうか」


 表通りの店を諦めた二人は、脇道に入って食事ができそうな店を探し始める。するとサクラが…



「おや、この店は一度入ったことがありますが、今日はずいぶん空いていますねぇ~」


「サクラちゃん、その時は美味しかったですか?」


「ええ、とても満足した覚えがありますよ」


「それじゃあ、このお店にしましょうよ~」


「そうしますか」


 メインの通りから一本入っただけで、脇道には人の姿がめっきりと見られなくなる。窓から中を覗いてみるとどうやらその店には空きがあるようなので、二人はドアを開けて入っていく。カランカランと音が鳴るドアベルの音と同時に…



「いらっしゃいませ」


 店内に入った二人を出迎えるように、パッと見は同じ年くらいのウエイトレスが声をかけてくる。真っ白なエプロン姿でにこやかな営業スマイル、「こちらへどうぞ」と二人を窓際の一番いい席に案内してくれた。店の中はこざっぱりした清潔な印象で、隅々まで掃除が行き届いているように見受けられる。彼女の他にも二人の店員がいて、顔立ちがそっくりな点からしてどうやら姉妹のようだ。もしかして表向きは3姉妹が切り盛りするレストランだが、夜中になると怪盗に変身するのだろうか? レオタードで夜の街を飛び回るのか???


 それはともかくとして、一見問題がない店のようであってもどうしても気になることがある。それはお昼の忙しい時間帯にも拘わらず、サクラとアスカの他には誰一人客の姿がない点であった。一体どうしたんだろうという不安を抱かざるを得ない。



「ご注文はどうしますか?」


「お任せのランチ2つでお願いします。あとランジェのジュースを2つ」


「はい、少々お待ちください」


 ランジェとは、オレンジとそっくりな果実のことだ。サクラは以前来店した時もお任せのランチだったので、メニューも見ないで注文している。だがアスカはやっぱり不安を隠せない表情でサクラに小声で囁いてくる。



「サクラちゃん、誰もお客さんがいませんが、本当に美味しかったんですか?」


「ええ、美味しかったですよ。味もボリュームも満足しましたから」


「じゃあなんで今日はお客が誰もいないんでしょうか?」


「う~ん… どうなっているんでしょう? 私にもちょっとわかりません」


 アスカはどうも疑っているようだが、サクラは美味しかったという主張を繰り返している。そのサクラにしても、料理を待っている間まったく客が来ない状況を見て徐々に不安になってくる。そこに…



「お待たせしました。塩漬け肉と野菜のガレットと、ボルシチのセットです」


 二人の前に料理のお皿と飲み物を置いていくウエイトレスさん。ガレットというのはフランスの田舎料理でそば粉のクレープに肉や野菜を巻いて食べる。この店のクレープは卵とミルクで溶いた小麦粉を軽く焼いたものだが、料理自体をガレットと呼んでいる。トマトベースのソースが掛けられており、手でクルッと巻いて食べる。


 セットになっているボルシチはゲンコツ大の十分煮込まれたオーク肉が入っていて、ホカホカの湯気が立ち上っていかにも美味しそうな香りがしてくる。一口ボルシチを食べたアスカは…



「( ,,`・ω・´)ンンン? サクラちゃん、これは絶品ですよ~」


「さっきから何度も言ったじゃないですか。この店の料理は美味しいんですよ。うん、このガレットもいい味出しています」


「どれどれ… サクラちゃん、これも美味しいですよ~。満点のお料理です」


 アスカは大興奮。久しく街中の料理とご無沙汰だっただけに、こうして巡り合えた手が込んだ料理を夢中になって口に運んでいる。そしてあっという間に全部食べちゃった。


 空になった皿を眺めるアスカは、心なしか寂しそうだ。本当はお代わりしたいくらいだが、サクラに怒られるからグッと我慢している。そのまま無言で皿を見つめているうちに、どうやら何か思い出したようだ。



「サクラちゃん、サクラちゃん。森で作ってくれたエープルのポアレをこのガレットに包んだら美味しそうですよねぇ~」


「うん? アスカちゃんが急に何を言い出すかと思えば、食べ終わった直後に食べ物のお話ですか」


「なんとなく美味しいんじゃないかと思っただけですよ~」


 まだボルシチが残っているサクラが、呆れた表情で顔を上げている。だがアスカの発言はサクラの中では納得できる部分もある。こうしてランチを食べた後に甘い物が欲しくなるのはサクラも同様であった。



「そうですねぇ~… このガレットは料理に合わせて薄い塩味になっていますが、甘い味付けにしたらエープルと合うかもしれませんね」


「そうですよ! サクラちゃん、甘い味わいが必要ですよ~」


「アスカちゃん、甘い味なんてそんな簡単にいきませんから。ハチミツは貴族じゃないと手に入らないんですよ」


「そうでしたね… 私たち庶民は、精々エープルの甘さで我慢するしかないんですね」


 この国には砂糖は流通していない。もっと南の国に行けばサトウキビとよく似た植物から黒砂糖を作り出しているが、現状交易では入ってきてはいなかった。唯一甘さを存分に味わえるのはハチミツであろうが、目玉が飛び出るような値段がするのでDランクの冒険者程度では口に入る代物ではない。サクラからその点を指摘されたアスカの目はみるみる力を失っていく。はぁ~… と大きなため息をついては、ウエイトレスさんを呼んでランジェのジュースをお代わりする。



「お待たせしました。お飲み物です」


「はい、ありがとうございます」


 ちょうどこのタイミングで食事を終えたサクラが、来店時から気になっていた件を聞いてみようと口を開く。



「前ここに来た時には結構お客さんがいたけど、今日はガラガラですね」


 直球で突っ込んできたサクラに、ウエイトレスさんが困った表情を浮かべる。ど真ん中のストレートだけに、見逃すという手には出にくいようだ。どう答えようかと口ごもって考える様子がありあり。だがようやく意を決したようだ。



「実は3か月前にシェフを務めていた父が亡くなりまして、しばらく店を休んでいる間に常連さんが離れていって…」


「それから戻ってこないんですか?」


「はい… 今は兄が調理をしています。父の下で修業してしっかりとレシピを受け継いでいるので、料理の味と質は変わっていないんですが…」


「そうなんですか、美味しいのにとっても残念ですね… そうです! たった今、すごいことを思いつきましたぁぁぁぁ」


「あ、あの… お客様、一体どうしたんですか?」


 急にサクラが立ち上がったものだから、ウエイトレスさんがビックリしている。アスカは飲んでいたジュースを気管に詰まらせて、ゲホゲホと咳き込む。目に涙を浮かべてようやく咳から立ち直ったアスカは…



「ゲホゲホ、ざぐらじゃん、どうじだんでずが?」


 声が出ないんだったら無理しないでいいだろうに…



「アスカちゃん、思い出したんですよ。安い値段で手に入る甘い物がぁぁぁ」


「サクラちゃん、そんな物があるんですか?」


「全部私にお任せください。森に行けば手に入ります。ウエイトレスさん、10日間待ってください。このお店に大勢のお客を呼べる夢のメニューを準備しますから」


「ええぇぇ、もしそのようなメニューがあったらとっても助かりますが」


「明日から森に行ってきますから、絶対に待っていてください。この店がなくなったら、私が困ります」


 いつの間にかサクラはウエイトレスさんの手を握って力強い宣言を行う。どうやらこの娘は本気になっているようだ。アスカは何が何やらサッパリわからない表情で、立ち上がったサクラをボケっと見つめている。


 こうしてお会計を済ませて外に出ると、ようやくアスカがサクラに事情説明を求める。せっかく街に戻ってきたのに再び明日から森に行くとか、アスカにとっては理解不能な一連の流れであった。



「サクラちゃん、ちゃんと説明してくださいよ~。なんで明日からまた森に行くんですか?」


「フフフ、アスカちゃん、よくぞ聞いてくれました。ヒントはさっきアスカちゃんが食べたいといった物です」


「私がですか? え~と… エープルのことですか?」


「そうです! エープルを使った凄いメニューを思いつきました。そのために明日から森に行きます」


「森に行けば甘い物が手に入るんですか?」


「アスカちゃんは、ハニートレントをご存じですか?」


「いいえ、全然知りません」


「トレントの一種なんですが、幹から樹液を出して虫を集めて食べるんです。その樹液がとっても甘いんです」


「そうだったんですかぁぁぁぁぁ! わかりました、今すぐに森に行きましょう」


「アスカちゃん、まだ武器と防具を買っていませんよ。それから私の服をいつまでも貸していられませんから、ちゃんとサイズが合った服も買いますよ」


「そうでした。すっかり忘れていました」


 甘いハニートレントの話で頭の中がいっぱいになったアスカは今すぐに森に向かおうとするが、それはさすがにないだろう。サクラが止めに入って当然だ。このお調子者め! もうちょっと冷静になってくれ。


 こうしてようやく本来の用事に立ち返った二人は、このまま武器と服を求めて街中へ戻っていくのであった。 


寄り道をしてからようやくアスカの武器を買いに…… 初めてのお使い状態で大丈夫か? この続きは明日投稿します。どうぞお楽しみに!


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