ビームヒーロー1
「よし、江奈。今日もゲームやるか」
江奈の部屋のテレビ前に腰を下ろした美子が言った。
「……さも、当たり前のように言うわね。というか、今日は一緒に課題やる為に来たんでしょうが」
部屋の隅に置かれた机に座る江奈が言った。
「いやぁ、人間、何事も勢いが肝心だからな。いっちょ、課題前にゲームで勢いをつけようぜ」
「……完全にダメな奴の言い分ね。どうせまた、古臭いクソゲーやるんでしょ?」
「いやいや、古臭いのは否定しないが、クソゲーかどうかはその目で確かめてくれよ」
「えー……どうしても?」
「うん」
「……」
「……」
「……分かったわよ。やるわよ、やればいいんでしょ」
「あざーす! 今日こそはクリアしてやろうぜ!」
「……急に元気になったわね。まあ、ちゃっちゃっとクリアして、課題やりましょう」
「……やっぱクリアしない方がいいか」
「おい」
「冗談、冗談。さあ、やろうぜ」
「ソフトを入れて……と。はい、起動!」
江奈の掛け声と共にテレビ画面が切り替わり、スタート画面が表示された。
「ゲームタイトルは「ビームヒーロー」。まあ、画面横側に向かって進んでいく、いわゆる横スクロールアクションって奴だな」
「シンプル故にやりごたえがあるのよね、こういうの」
「おっ、じゃあ操作するか?」
「いや、こういうジャンルのゲームこそ、見てて楽しいのよ」
「……相変わらずだな。じゃあ、スタートぉ!」
美子はスタートボタンを押した。
「おっ、早速始まったな」
「……以外とフツーな作りのステージね」
「ん? 何か問題でもあるのか?」
「いや、あんたが持ってきたゲームだから、例のごとくとんでもない作りのステージと想像しててね」
「……言われてみればそうだな。こりゃ、何かあるかもな」
「まあ、変に構えてもしょうがないわ。進みましょう」
「そうだな。よし、ダッシュ!」
美子はゲーム内の操作キャラである「ヒーロー」を走らせて前進させた。
すると次の瞬間、突如、疾走中のヒーローの足元から無数のトゲが出現し、ヒーローは消滅してしまった。
「えぇ……」
「……危惧した通り、いやそれ以上ねこれは」
「おい、まだステージ1だぞ。幸先不安すぎるだろ、これ」
「初っぱなから不可視なトラップとは、とんだ初見殺しね。まあ、プレイヤーへのサプライズとしては上出来だけど」
「誉めてどうする! ……というか、ヒーローの人、打たれ弱すぎだろ。一撃でやられちゃったよ」
「ヒーローも色々大変なのよ。きっと民衆からのプレッシャーで、メンタル蜂の巣なのよ」
「何でメンタルが耐久力に影響してんだよ!」
美子はテレビに向かって吠えた。