バトルレーシング1
ピンポーン。
「はーい、配達ご苦労……」
インターホンに呼ばれた江奈は玄関の戸を開けた。
「うっす」
そこには美子の姿があった。
「なんだ、またあんたか。新作のフィギュアが届いたのかと期待したじゃないのよ」
「だからその至極残念そうなツラを止めろと言ってるだろ」
「で、何の用よ。暇人さん」
「お前に暇人言われたくないな。実はまたおばさんから面白いもんを頂いてな」
「何かしら?」
「ほいこれ」
そう言って美子が取り出したのは、手のひら大のゲームのソフトだった。
「またゲームかよ!」
「なんだそのリアクションは。ゲーム好きだろ、お前」
「いや、好きだけどさ。前回のクソゲーのこと、忘れたとは言わせないわよ」
「クソゲー言うなよ。あれは私達の実力が足りなかっただけだ」
「いや、明らかにゲーム自体のバランスがおかしかったと思うけど」
「まあ、あれがおばさん世代にとっての普通の難易度なんだよ」
「はあ。で、そうと知りながら、またその世代のゲーム持って来たのはなぜ?」
「決まっているだろ。前回のクソゲーへのリベンジだ」
「クソゲーって言っちゃったよ」
「まあ、細かい事はいいじゃないか。いいか? このゲームはおばさん世代から私達への挑戦状なんだよ。今の時代のかんたんなゲームをクリアしていい気になってる私達へと当て付けなんだ」
「随分と穿った見方をしている気がするけど。まあ……」
「ん?」
「……挑戦状っていうのは気に入ったわ。受けて立とうじゃないの」
「そうこなくちゃ」
「いいわ。上がってちょうだい」
「おう! おじゃましまーす」
二人は江奈の部屋に移動した。
「さて、第二ラウンド開始だ」
「ソフトを入れて……と。はい、起動!」
江奈の掛け声と共に、テレビ画面が切り替わり、スタート画面が表情された。
「ゲームタイトルは「バトルレーシング」だ。まあ、名前通りのバトルなレースゲームだろうな」
「バトルってのが引っかかるわね。何がどうバトルなのかしら」
「百聞は一見にしかずだ。よし、スタートぉ!」
美子はスタートボタンを押した。
『マシンを選択してください』
「……参ったな。そうきたか」
「どうしたのよ?」
「いやぁ、ウチ、こういうのすごく迷うタイプなんだよね」
「知るかよ! どうせ大した種類ないでしょ、ちゃっちゃっと決めなさい」
「しゃーねぇな。えーと……あれ次のページもあるな」
「ん?」
「……五十台から選べるらしいな」
「多っ!! ……いや、ゲームのボリュームとしては正しいのかもしれないけど」
「めんどくせぇな。じゃあこの赤い奴で」
「即決! さっき迷うどうのこうの言ってたのはどこの誰よ!」
「いや、多過ぎて逆にすんなり決められたよ」
「……まあ、何でもいいけど」
美子は赤く輝く流線型のマシンを選択した。