りんご飴
「今週の土曜日、お祭りいかない?」
勇気を出して伝えた。学校の廊下に、後輩と2人っきり。全開になった窓から風が吹く。湿った涼風が肌に当たる。
「はい、いきましょう。」
彼女は無邪気な笑顔で返した。僕と彼女の、淡い一夏。
日中の蒸し暑さが嘘のように、夜になって急激に冷え込んだ。人混みをかき分けながら進む。ふと、りんご飴の屋台が目に止まった。僕が目の前まで行くと、飴は、赤い命が吹き込まれた水晶のように、美しく輝いた。
「りんご飴2つください。」
「2つかい。はいよ、600円ね。」
屋台の人は、財布をしまう僕を待ってから、ゆっくりと2本のりんご飴を渡した。
河川敷。屋台が集中する大通りからは少しだけ離れている。時折、寒さがわずかな痛みとなって表れる。ちょうど2人が腰掛けられるような、小さな階段がある。彼女が横に座れるように、僕は右に詰めて座った。
「はい、りんご飴。」
そう言って僕は、1本のりんご飴を、コンクリートの階段に落とした。りんご飴はひび割れて、黒く汚れ、赤い命を失っていた。
淡い夏の日。僕たちは祭りを訪れた。小雨が降っているせいか、屋台のほとんどが閉じたままだった。僕と彼女は、橋の下、河川敷で雨宿りをしていた。本来なら今頃、2人で花火を見ているはずだった。僕たちはその喪失感から、何も発さず、ただひたすらに花火が上がるのを待ち続けた。夏祭りが行われるその時をじっと待っていた。
次第に雨が強くなっていく。
「帰ろう。」
僕の提案を彼女は聞かなかった。その瞳は紅く燃えていた。彼女は大きく息を吸って、緊張しているかのように言う。
「その階段の上から、私を見てみてくれませんか。」
言葉通りに、僕は階段を上がって、振り向いた。そこにいた彼女の瞳は青白かった。
「先輩の命は、まだ赤いままでいてくださいね。」
彼女はそう告げ、直後、濁流にのまれた。どす黒い水に染まって、沈んだ。
去年の夏、彼女はここで死んだ。僕が手に持っているもう1つの飴は、純粋な赤い光を放っていた。残念なことに、僕はまだ、死ぬことはできないようだ。