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わいは、豚である  作者: 愛雌 雄
3/10

わい、捕まる

「わい、捕まる」



公園に住むこと早一週間。

自分についていろいろなことが分かってきた。


まずは容姿だ。


ある日、公園の隅に落ちていた手鏡で自分の顔を見た俺は失神しそうになった。

豚のような丸鼻、やせた頬、禿げ輝く頭、不自然なほど鋭い目つき。

見た目が気持ち悪いことを知った俺は、近くの家の窓ガラスに自分の全身を見る。


身長は180cmはあるだろうか、これまで蓄えた脂肪はすべて落ち、代わりに筋肉がついて細マッチョのようになっていた。

首元までは全身真ピンクなタイツに包まれ、マッチョな体のラインが強調されている。

キモイ版の新体操の選手のようなものだ。

人の形をした豚だ。 いびつな形をしている、正直自分でもキモイ。ちなみに指はかぎ爪のようになっており、使えそうにない。

……股間の膨らみのキモさ加減が強調されている。 キモイ。 見られたくないので、今は土管の中にいたりする。


他にもわかったことがある。

草が美味しい。

本物の豚が草を食うのかは知らないが、とてもとてもうまい。


しかしそれが、それらの要因が、母親の暖かい飯にありつけないことが、人型の豚であることが、一体どういうことなのかを俺に知らしめた。


つまりは、アニメが見れないのだ。パソコンも、ゲーム機もない。

指が二本だとうまく動かないのでうまく自分を慰めることもできない。

軽くナーバスな状態で、全身タイツの締め付けを感じながら公園の土管の中であれを擦り付けていた時、町に悲鳴が響いた。

切羽詰まった声だ、俺は土管を飛び出す。


公園を出て、自分の聴覚を頼りに声の主の元へ。

自分でも驚くほど正確に音の方向や震えの大きさ、その場の状況や環境、つまりは湿度や気温まで音だけで読み取れた。


「きゃ、きゃあ!! やめてください!!」


それは公園から約4kmの場所。

走った結果4秒で着いた。

どうやら俺は体にも変化があるらしい。


「げへへへへへ、お嬢ちゃんいい体してるねぇ、おじさんの子供産ませてやるよ!」


「い、いやぁ!!」


若い女の子が、無精ひげのはやした目つきの悪い男に後ろから抱き着かれ、胸を揉まれている。

灰色のセーターに身を包んだ女の子は男の腕の中で激しく揺れる。

うすく青がかったショートカットの髪形に、涙を携えた大きな瞳、柔らかそうな唇、物凄い美人だ。

男の指の沈みからかなりの巨乳だとわかる。

足には短いスカートに、濃いめの黒タイツをを身に着けている。

大人な体に、あどけない童顔が絶妙に相まって、怪しい雰囲気をこれでもかと醸し出している。

暴力的なまでの色彩の豊満さ。

魅了的で魅惑的で男なら振り向かずにいられない。

そんな子が、襲われている。


「おじさん興奮しちゃうなあ、おっとっと、起立しちゃったみたいだ! お嬢ちゃんのおしりに擦りつてちゃおー!」


そこで俺は男の前に出る!!

今助けるぞ!!


「あ、あああ、あお、あのぉ……ちょ、ちょっとこういうのは、その、恐れ多いんですが、よ、よよ、よくないと言いますか……」


「なんだごらぁ!?!? やんのかわれ!?」


「ブヒヒヒィ!! す、すすすすすすすみませんすみません!! ごめんなさいイイ!!」


男は俺を怒鳴って威嚇する。

俺は平気なのだが……平気なはずなのに!!

いったい何年ぶりに家族以外の人間と話したんだろうか。

上手くおはなしができないよ!


だけど……。



「お嬢ちゃん、さっさとそこのホテルに行こうか!?」


「い、いや! た、助けて!! 助けてください!!」


女の子は、涙を流して俺に言ったんだ。

嫌だと、助けてくれと。

アニメや同人誌で嫌というほど見たエロいシチュエーションかもしれない。

襲っているおっさんはとても強いのかもしれない。

もしかしたら武器を持っているのかもしれない。


……俺では無理なのかもしれない。


腕が震える。

目を反らしたくなる。

だけど……だけど……。


「助けて!!」


そう叫ばれたら! 行くしかないだろ!!


「やめろおおおおおおおおおおおお!!!!」


俺は渾身の力を込めて男の脇腹に蹴りを入れる。

怖くて目をつぶっていた。

全く効かないかもしれないけど、飛び出さずにはいられなかった。


すると、全身が一瞬光ったような気がして……。


「ぐはああああああああ!?」


目を開けると、男が血を吐いて倒れていた。


「て、てめぇええ!? なんてこと……グハッ! 肋骨が言っちまったぞワレ!? ぶっ殺す!」


「ひ、ひええええ!! ご、ごめんなさいごめんなさいいい!!」


軽く後ずさりする俺の元に女の子が寄ってくる。

その子は俺の背中にびったりくっついて涙ながらに言った。


「ありがとう! ありがとう! う、うう、うわあああああ」


「い、いや、そ、その、え、えとお……」


小学校以来に女子とお話しした俺はキョドってうまく舌が回らない。

背中に柔らかい感触と暖かさを感じる。

人に触れられたのは久しぶりだった。


男が拳銃を取り出す。


俺は咄嗟に女の子のほうを向いてその子を抱いた。

俺の背中が銃弾を受けて、その子を守れるように。


死ぬ覚悟だった。

久しぶりの暖かさを教えてくれたこの子を、命と引き換えに守ってあげたかった。


弾丸は無慈悲な音を上げて発射される。


「ありがとう」


そうつぶやいた。

もう死ぬと、遺言だった。


だけど……。



銃弾は俺の背中で跳弾。 突拍子もない方向に吹き飛ぶ。


俺は痛みどころか感触すらなかった。


男は銃弾を撃ち続ける。

周囲には、カン、カンと鉄と鉄を叩き合わせるような音だけが響き、やがて玉の一つが男の足に突き刺さる。


「ひ、ひええ、お前はいったい何者なんだあ!?」


「え、あれ、もう撃ったんですか? 全部外したんですか?あはは! へったくそですねぇ! ぶひひぶひひひひひひひ!! ……え?」


丁度その時、俺の腕に手錠がかけられる。


「お前!! 女の子から離れろ!!」


何故か、到着した警官は無精ひげの男ではなく、全身タイツのわいを捕まえた。



そして数十分後。


わい、捕まる。



今は拘置所の中だ。

公園の中より……




寒い。



第三話「わい、捕まる」

もう少しだけ早く投稿しようかな……?

明日も夜投稿です。

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