わい、豚になる
「わい、豚になる」
俺は豚になった。
事の発端はほんの些細な出来事だ。
誰にでも起こりうる簡単なことだよ。
俺は、みんなと同じで今日も百合アニメに興じていたんだ。
「うおおおおおおおお!! 何だこの子はっ!! かわいい! 可愛すぎるよおおおぉおぉおぉおぉおぉお!! ぶっひいいいいいいいいいいいいいいいいいい!!!!」
このあたりで豚になっていた。
まあ、誰でも一度は経験しうることだろう。
俺は特に驚くこともなく、百合アニメを見終わると自室を出る。
豚は四本足で歩くらしいが俺には関係がない。
人間のように二本足で立って歩ける。
指は残念なことになくなっちまったが、そのかわり力が強くなった。
この……大地から得たpower? ていうの?
大自然を長年生きながらえてきた生命力のようなものをものすごく感じるぜ!!
うおおおおおおおおおおお!!
……自室のドアがぶっ飛んだ。
指が使えないのでドアノブを下に下ろそうとしたら、触った瞬間にドアごと吹き飛んでしまった。
まあ、限界オタクの俺なら何でもできる。 中学の頃からそう信じて生きてきた。 こんなことだってあるはずだ。
轟音と共にドアは狭い廊下を暴れまわる。
隣の部屋の主、俺の妹がその音に反応して部屋から出てきた。
そのまま小さな悲鳴を上げる。
「兄ちゃんこれ何のお……と……? !!?? ぎゃああああああああああああ!! お、お母さん!! 泥棒!! 全身ピンクタイツのキモイ豚みたいなやつがお兄ちゃんの部屋から出てきた!?」
中学の頃から妹は俺の姿を見ては悲鳴を上げていた。
あれはそうだな、学校をさぼってアニメに興じることを覚えてからですかな、ブヒブヒブヒ。
悲鳴は俺の腹が日に日に大きくなるにつれて大きくなっていった。
今ではもう絶叫レベルだ。 小さな悲鳴ではなかったりする。
妹は母に助けを求め一回へ階段を下りる。
何をそんなに慌てているのだろうか。
「おいブヒ! 何をそんなに慌てているのだブヒ? 全身タイツ?ワイは豚だから体がピンク何度ブヒ! あ! わかったブヒ! さてはお主BLアニメの円盤を折ってしまったブヒね!? わかるブヒー! 辛いブヒよねぇ! かく言うお兄ちゃんもあのDVDを折ってしまったときは、これはもう悲しくて……」
俺が妹の悲しみを共有してやろうと演説していると、一階からさすまたを持った母親が来て……ってえええ!? なんでワイを抑えるブヒ!?
「やめろ!? やめるんだブヒ!!? 母上いかがなさった!? ついにワイのパラサイト生活にしびれを切らしたんだブヒ!? わかった、働く! ワイ一生懸命働き参ず所望で、ゴホッ、ゴホゴホッッブビビビビビビビビ!!」
せき込む俺にも母親は容赦がない。
攻撃に倒れた俺は体をさすまたで抑えられ、ゴホゴホしながら抜け出そうと必死にあがいていた。
「なんだいこいつは!? なんて気持ちの悪い鳴き声の豚なんだろうね!?」
「お、お母さんこいつお兄ちゃんの部屋から出てきたの!! 扉を吹き飛ばして出てきた!」
「お兄ちゃんは大丈夫なのかい!?」
どうやらこの母親と妹、この豚が親愛なる家族の一人だとは気が付いていていないのか……?
「母上、妹よ……わい、豚になった」
第一話 「わい、豚になる」
どうもお久しぶりです!
今日(3/7からとりあえず3/17まで)毎日上げますね!
今回はちょっとおかしな豚さんのお話です! オタクのかっこよさを伝えたいです!