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復活祭 ~この世界の日常~  作者: とーもん
3/4

三話

 


大和の国の協会は復活祭以後、外区に発生した大型建造物を再利用している。

 その外観は異様の一言で、まず日本式の城が存在し、それを中央からぶち抜くように西洋の宮殿がそびえ立っている。

 その立地もまた不可解なことに、広大な湖の中央に浮かぶように建設されている為、君子危うきに近寄らずとばかりに一般人には避けられる傾向にある。。

 しかし―――


「おおー、これが協会ですか。遠目には見てましたけどここまで来たのは初めてです!」


 異様で不可解であってもその景色はまさにこの世のものとは思えない光景。見ようによっては貴重な体験ができる場所ともいえる。


 透明度が高く、鏡のように湖面に異質な城を移す湖にはしゃぐ大沢木だが、湖面に影が出来始めそれに気を取られていると三メートルはある巨大魚がノコギリのような歯を見せつけながら飛び出してきた。


「わぎゃあ!?」


 悲鳴を上げてあわや喰われるかというところで、呪井の蹴りが巨大魚を湖へリリースした。


「言い忘れた。ここの湖は海魔の類や水霊がたむろしてるから危ないぞ」

「先に言ってくださいよ!っていうかこれ協会までどうやって渡るんですか!?」


 そんな抗議の声も聞く気はなく呪井は、こうやってだ、とだけ言って湖面に千円札を二枚落とした。


 ザッパーーンッ!!


 先ほどの焼き直しのように大きな水しぶきが上がり、水中からまた巨大な魚が飛び出してきた。しかし先程と違うのは飛び出してきた魚には手足があり、獲物は人ではなく千円札であった。


「わ、びっくりした。今度は半魚人さんですか……こんにちは!」

「もうそろそろこんばんは、だな。源さん二人で二千円、協会まで頼むわ」


 源さんと呼ばれた半魚人は千円札を防水ケースにいれ防水鞄にしまうと、……乗んな。

 と言葉少なに言うと平泳ぎのような姿勢で水面ギリギリに浮かび呪井がその背中に二メートルほどの板を乗せ、その上に乗る。

 え、これわたしも乗るの?と困惑したが結局何も言わず板の上に乗ると半魚人の源さんが協会へ向かって泳ぎ始めた。


 二人を乗せた原さんの泳ぎは手漕ぎボートほどの速さと思っていたが、意外にもエンジン付きモーターボート並みの速さで協会までの距離を猛然と縮めていく。

 その思いがけない猛スピードに大沢木のテンションが上がり、呪井がそれをどうでもよさげにたしなめる。


「うっひゃー!すっごいはやーい!」

「落ちても助けんぞ」


 広い湖とはいってもこの速度で泳げば数分でたどり着く距離。思いがけないアトラクションの時間は早々に終わり、二人は水面にそびえ建つ協会へと足を踏み入れた。

 その背後で源さんが「帰りはどうする?」と聞くと呪井は「帰りも頼む」とだけ答えた。それを聞いてから無言で水面に潜る源さんを不思議そうに見ながら大沢木が問いかける。


「呪井さん、あの原さんって人、亜人の人ですよね?それにしては流暢にしゃべりすぎな気がするんですけど?」

「源さんは元人間だからな」

「え……人間から亜人になったんですか!?亜人種って復活祭で現れた人種って学校で習ったんですけど?」


 知らなかった新事実に驚いた様子の大沢木に「まあ、いまの学校じゃそう教えるかもな」と呟いたあと、協会の広い建物内で受付まで少し歩くまでのあいだ疑問に答えることにした。


「遥か昔が異形種だった異形種と交わったなんて血筋があってな、この国なんか特に天孫なんて言って神の直径の子孫がいるだろ?

 隔世遺伝っていってな、先祖返りなんて呼ばれることもある。何百何千年も前の話だから血も薄まってほとんど影響なんかないんだが、復活祭直後に血が影響を受けたのか結構な数が亜人化しちまったんだ」


 源さんはその一人だ、といった。

 なるほど、と納得しかけたが、しかし亜人についての知識が学校で教えられるものと違う事の説明がついていない。

 歯切れ悪そうな呪井が言うには、それは不都合な歴史なので教科書に載せるのはまずいということらしい。

 どういうことかといえば、あんま喋って回るなよ?と前置きして話してくれた。


「亜人にはお前が教えられた通りの生来の亜人と後天的に変質した元人間の亜人がいる。

 だが復活祭直後の混乱期にそんな事情はわからないし、見分ける方法もない。結果、どちらも人に仇なす怪異として討伐対象になった」


 源さんは稀有な生き残りだが元人間の亜人は生来の亜人とともに混乱期に大半が滅ぼされたらしい。

 だから今現在ほとんど存在しない元人間の亜人のことをいちいち教える必要性は低く、また国にとって不都合な事実でもあるので教科書に書かれることはないのだそうだ。


 復活祭から数年の混乱期が終わり、人類の安全な生活圏が確保された安定期以降、人語を話せて危険性が薄いと判断された亜人種との和平が成立した。

 今でこそ亜人は市民権を得ているがそれは外区でのみのことで、すべての人々に受け入れられているわけではなく特区に入ることはできないでいる。

 そういった差別意識が残っているため亜人の多くは正規の仕事に就くことができず、請負人になるか自営業で金を稼ぐ場合が多い。源さんも仕事につけず、渡しの仕事で日々の糧を得ているらしい。


「そんなわけで請負人には亜人やワケありが多い。下手に騒いで騒動を起こすなよ」

「……なんだか嫌な裏話を聞かされた気がするけど、了解です!普通に接すればいいんですね!」


 大沢木の答えに呪井はしばし、あー……と考える素振りを見せたが諦めたようにため息をついた。


「ま、お前はそれでいいだろ。っと、ついたぞここだ」


 ここまでの内装は純和風のものだったが、唐突に壁を破壊して西洋の大理石の大扉が視界一面に広がる。

 そんな奇妙な光景を興味深げに見ている大沢木を引き連れて呪井は扉を開いた。



 ◇



 扉の向こうは全面大理石のどこか冷たさを感じる百メートル四方ほどの一室。

 扉の間反対に受付らしい場所があり、そこでは黒い羽のはえた黒髪の女性が暇そうにしている。

 室内に人は少なく、談話スペースとらしき場所で数人の亜人がテーブルに地図を広げて話をしているだけだ。


「なんだか思ってたのと違うような……」

「一昔前に流行った異世界モノみたいに荒くれが大勢いて依頼を取り合ってると思ったか?時期によっちゃあそういうこともあるが、大体はこんなもんだ」


 イメージが壊れたらしく不服そうな大沢木を力尽くで引きずって行った先は、大理石の壁にそぐわない木製のボードが掛かっており、そこに何十枚もの依頼書が乱雑に貼られていた。


「あ、これ!あれですよね、依頼の紙!」

「ああ、依頼内容と報酬が書いてある。受けたい依頼の用紙を剥がして向こうの受付に持っていけばそれで仕事を請け負える」


 いかにもそれらしい依頼書の束に気を持ち直したらしく大沢木のテンションがまた上がっていく。

 おもちゃ売り場の子供のようなはしゃぎっぷりを見せながら一枚の依頼書を引き剥がし、呪井のもとへそれを持ってくる。


「これなんかどうですか!?『【移動式ラビュリントス】の踏破、及びミノタウルス原種【アステリオス】の討伐』!複数の国から懸賞金がかけられていて、なんと達成報酬は十億円!」

「よし、行ってこい。そして帰ってくるな」


 キラキラした笑顔で語る大沢木を置いて、呪井は虫でも追い払うような動作をして早足で出口へ向かおうとするが、「冗談です、冗談!」と半泣きで縋り付かれ仕方なく木製のボードの前へと戻る。

 当然最初の依頼書はボードに貼り直し、今度は呪井が依頼を見繕う。


「仕方ないから俺が選んでやる。そうだなお前には……この辺がいいんじゃないか?『外区七番地区怪異調査依頼』。新人はこの手の依頼が基本だ」

「なるほど、初心者クエストってわけですね。お任せします!」


 大沢木の同意を得て、呪井が選んだ比較的初心者向けの依頼書をもって受付に持っていくと、相変わらず暇そうにしていた受付の亜人の女性が気だるげにそれを受け取る。


「あれ……束さんじゃないですか!しばらく見なかったのに、どうしたんです請負人復帰ですか?」


 亜人の女性はそれまでの気だるげな態度を一変させ、呪井にひどく親しげに話しかけてくる。

 呪井は頭をかいて、いや、ただの付き添いだとバツが悪そうに大沢木を指差して言った。


「この子ですか?わざわざ付き添いなんて……見込み有りってことですか?」

「あー……まあ、ないかあるかで言えばある、な」


 歯切れ悪くだが告げた呪井の返答に大沢木はたいそう驚いた。これまでの態度からしてまったく期待されていないと思っていたのだからそれも当然。

 えへへ~、と締まりのない顔でニヤニヤしている大沢木を呪井はなんだこいつ、と言いたげな呆れた顔で見下ろす。

 そんな二人をよそに話をしながらも亜人の女性はしっかりと受付の仕事を進めていたらしく依頼書に請け負いの判を押した。

 そしていくつかの書類の束を手に、二人。正確には大沢木に向けて依頼内容の詳しい説明を済ませた。


「まあ、なんかいろいろあるみたいですけど。『外区七番地区怪異調査依頼』の正式な請け負いを依頼します。これは該当地区で起こっている怪異と思しき現象の報告をまとめた資料です。それでは、お気をつけていってらっしゃいませ」



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