季節外れのタンポポのおはなし。
木漏れ日に気持ちよくなって、うたた寝する。
けれど、太陽が雲に隠れてしまって
陰になってしまうと寒くて堪らないんだ。
ぼくは咲いていたけれど、
周りの木々の葉っぱは地面に落っこちて
いつもぼくの近くに陣取るねこたちがいない。
なんでだろう? そういえば、さっきぼくは「寒い」と言った?
あれれ。
お空が曇って、冷たい雨が降る。
痛いな。ぼくも顔を背けてしまいたい。もう見上げてられない。
なのに、なんでぼくは咲いてしまっているのだろう。
春の訪れをみんなに報せるために、ぼくはいるはずなのに……。
これではこどもも残せずに、枯れてしまうよ。
ぼくは頭をもたげて雫を滴らせる。
何日経ったろうか。寒さがだいぶ強まってきたようだ。
暖かい陽気のなかで、たくさんの仲間たちと一緒に元気よく咲いていたかったな……。
なにも見えなくなる。冷たい風とか、周りのいろんな気配は感じられた。
それでも、ぼくはもう限界だ。
「メリークリスマス!」
ふと、そんな風なおとが聴こえた。
ぼくにはいわゆる「ひと」の声はわからない。
ただ音として、感覚で聴き取れた。
残った僅かな力でぼくはそっと空を見上げた。
ちら、ほら。
なにか、しろくって つめたくって きれいで
それが しずかに ほんとうにしずかに降ってきていた。
木々の枝にしろいのが積もっていた。
ぼくは目を凝らした。(目なんてないのだけれど)
木々の枝が ちかちかと 光るなにかで彩られていた。
これは、なんだろう。
戸惑うぼくに木々たちがざわめいてまたなにか言う。
「メリークリスマス!」
よくは、わからない。
わからないのだけど、ぼくはこのはじめての光景に、ゆらめいて。
つめたいな。
その感覚を最後になにもなにも見えなくなった。
ふゆという季節でも
たのしくてにぎやかなんだ。
でも、ぼくはまたはるに咲く。
今度 はるに咲く仲間たちに教えてあげよう。
ふゆって、しずかでにぎやかできれいなんだよ、って。