(短編、怪異譚)写真好き
わたしは写真が好きだ。
分厚いアルバムの中に並ぶ、過去のシーン、シーンを眺めていると、自然と笑みが零れてくる。だから、どんなものでも余さず残しておくことにしていた。
だが、彼氏ができた時は少々厄介な事になる。わたしは、昔、好きだった人の写真も取っておきたかった。実ることの無かった初恋のタカシ君を初め、今までお付き合いをした男の子達との思い出は、わたしの人生に欠かせないものだからだ。けれど、付き合っている人にとっては嫌な事らしく、誰もが必ず、黙ってそれらを抜き取ってしまった。しかも、彼らは決まって『やってない』と言い張るのだから、本当に嫌になってしまう。
だからわたしは、誰とも付き合わなくなった。このアルバムの写真を失うぐらいなら、新しい出会いに価値などないとすら思った。
ところがだ。またしても写真が抜き取られた。しかも、今度は女友達や弟、両親の写真までも無くなっていった。
怖くなってきた。
元彼の誰かがやっている事なのか?
どんなに巧みに隠しても、写真は消えていく。巨大な金庫を買ったが、それをあざ笑うように、思い出達は消えていく。先輩との思い出、友達との思い出、家族との思い出……。ついには初恋の思い出のみになってしまった。
アルバムを開いたまま、しばらく呆然としていたのだが、そこで全てを悟った。わたしはなんて間抜けなのだろうか。ケラケラと笑ってしまった。何故なら、今のアルバムこそが、わたしの望んだものだったからだ。
わたしは写真が好きだ。
分厚いアルバムの中に並ぶ、過去のシーン、シーンを眺めていると、自然と笑みがこぼれてしまう。今日も、デジカメを持って物陰から覗く。
アルバムをタカシ君の写真で一杯にするために。