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平穏とは何か

     平穏とは何か。辞書を見てみると、『変わったこともなく穏やかなこと。

     また、そのさま。』という意味だそうだ。俺とは一番かけ離れたとこにある

     単語と言ってもいいほど、俺の人生は騒がしかった。


     生まれは我らが日本国・東京だ。幼稚園までは何事もなく平穏な人生を過ごせた。

     だが、俺のこの平穏は小学生になってから少し狂い始めた。幼稚園児のときは幼すぎたのか

     感じることができなかったが、実は俺の両親は相当な気分屋だったらしい。

    『そうだ、京都へ行こうぜ!』を実際にやり、それもいろんな所へかなり行った。

     そのせいで俺は学校を不定期に休みがちになり、自己流で勉強するしかなかった。

     だがそこは遺伝というものに助けられた。幸い両親はクソがつくほど頭がよく、

     俺も酷いことにはならずに済んだ。

      しかし、そんな生活にも慣れてきた小6の夏休みに、俺にとって最も驚くべき事態が

     起こった。両親が急に、『カジノがすぐ傍にある住みたい!』と言い出したのだ。

     これに関しては今まで何も両親の奇行に言わなかった俺も、流石に『脳ミソどっかに

      吹っ飛んだのか?』と口に出してしまうほどだった。だがこの両親ばかどもはそんなこと気にもせず、

    その言葉通り何とカジノの本場アメリカに電撃移籍した。そこからの話はもう面倒臭いから省く……。




    「……と、いうのが俺の今までの人生です。」

  

    「………まぁ君の人生の苦労はよく伝わった。大変だったな。」


     そしてここはどこかというと、この春から通うことになっている

     私立翔來高等学校の面接室だ。今日は4月4日。普通なら面接どころか春休みが

     終わる直前だ。何故こんな時期に面接をしているかというと、先に言った通り、身勝手な

     両親のせいでアメリカに居たのでここに来れなかったのである。筆記試験は送って

     もらったから大丈夫だったが、流石に面接官がこっちに来れないので、面接が

     この時期になってしまったのだ。


    「それで、君がこの高校を志望した理由は?」

 

    「はぁ、理由っすか……」


    「(……まぁ、男の子がこの学校を志望する理由なんてほぼ同じだけど)」


    「う~ん………」

 

     理由か。理由はただ単に親から離れたくて実家に戻ってきて、この高校が家から

     一番近くて費用が安いってだけなんだよなぁ……。でもそんな理由だと

     失礼だし、どうしようかねぇ……


    「……どうしたんだ?」


     でも嘘をつく方が失礼か……よしっ、ならそのまま言うか。


    「お~い、聞こえてるか~?」


    「へっ?あぁ、すいません。」

  

    「んで、志望理由は?」


    「いろいろ考えたんすけど、やっぱ嘘をつくのはいけないなと思ったんで正直に言います。」


    「ほぉ……(普通ならどうにかしてごまかすものだけど。)」


    「実は………」


    「………………。」


    「この高校が一番近いし金が安かったからです。」

    

    「……………。」


    「……………。」


    「……志望理由は?」


    「はっ??いや、だから一番近くて金が安いから……って、聞いてます?」


    「(……嘘でしょ?)」


    「あの~、どうしたんすか~?」

    

    「……はっ!あ、あぁ、そうか。まぁ近さと学費は大事だからな。別に隠すこともないぞ。」


    「へぇ…そういうもんすか。」


     ふぅ……危なかったぁ。この人、何か雰囲気が魔女みたいだったからあんなこと言ったら首で

     も狩られるかと思ったぜ全く。


    「それに、君の筆記試験の結果を見れば正直言って面接をする必要もないくらいだ。

     まさか5教科中4教科で満点を取るなんて。」


    「まぁ理科は20点も取れませんでしたけどね。」


    「気にするな。理科なんてあってないようなものだ。」


    「(……こんなこと言うとか、やっぱこの人……魔女?)」


    「この面接だって形だけのものだしな。」


    「へぇ………。」


    「ところで、君に聞きたいことがあるんだが……。」


    「なんすか?」


    「君はこの学校のことをどれくらい理解してるんだ?」


    「へっ?」


     ………ヤ、ヤッベー!!一番聞かれたくない質問だ!一番近くて学費が安いってこと以外

     何も知らねぇよ!クッソ…………でも、さっきと同じように嘘はいけないよな。


    「えっと………何か特別な教育方針でもあるんすかね?」


    「いや、全くない。勉強とかに関しては他の学校と何ら変わりはない。というか、そういう

     こと聞くということは全く知らないということだな?」


    「うっ……はい。」


    「……まぁそんなことはいい。私が聞きたいのは、去年までのこの学校のことだ。」


    「去年まで?」


    「あぁ。ここが一番大事なところだ。」


    「う~ん……なんか変わったんすか?」


    「………15人。」


    「は?」


    「今年入学した男子の人数だ。君を含めてな。」


    「はぁ!?」


     15!?!!意味分かんねぇ!


    「あ、や、その、な、何でそんなに少ないんでございましょうか?」


    「まぁ女子に人気だからな。」


    「いや、そんな理由じゃとても説明しきれてないというか……」


    「じゃあ一発で納得できる理由を言ってやろう。」


    「どんと来い!」


    「この学校、去年まで女子高だったんだよ。」


    「はへ?」


    「今年から共学になってな。君たちがこの学校初の男子生徒だ。」


     あぁなるほどね!確かにそれだと納得するな。……って!!


    「なんじゃそりゃ!?えっ!!ここ、女子高だったんすか!?」


    「そうだ。全校生徒625人全員女子だったんだ、去年まではな。だが、どういう理由

     か分からないが急に共学化することになった。」


    「何だそれ!!くそっ、誰だ共学化したのは!?」


    「正直言って今男子は急遽募集中だったんだ。だから、テストである程度点を取っていれば

     合格も同然なんだ。」


    「くぅ……何か嵌められた気分だ。」


    「だが、15人の男子の中でも君は異質だ。」


    「い、異質?」


    「ここを受験した男子はどいつもこいつも志望理由が…………言わなくてもいいか。

     とにかく、君は他の男子とは違うんだ。」


    「そっすか。はぁ…………。」


     まさか元女子高だったとはなぁ。こればっかりは予想もつかなかった。

     まぁちゃんと調べなかった俺の責任だなこりゃ。それに女子が多くても生活に支障はない

     だろ。男子も少なからずいるわけだし………


    「ともかく、これで面接は終わり。君は合格だ、入学式までに制服その他諸々はこれに住所

     を書いたらそこに届けるから。」


    「分かりました。」


    「んじゃ、入学式でな。」


    「ういっす。」


     バタン!


    「………はぁ、今年度は荒れそうだな。」


    

     


  


    

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