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むかしむかしのちょっと前

桃太郎、のちょっと前

作者: 熊と塩

※シモネタ

 昔々の事です。


 あるところに、おじいさんとおばあさんが、仲良く暮らしていました。

 ある朝、おじいさんは山へ芝刈りに、おばあさんは川へ洗濯をしに行きました。

 おばあさんは、冷たい川の水に、おじいさんの冷えきった指先の感触を思い出しながら、昨晩汚してしまったネグリジェを洗っていました。

「まったく、おじいさんときたら、夜になるとうーんと若返るんだから」

 ひとりごとを呟いたおばあさんのほっぺたは、すこしだけ赤くなります。

 おじいさんには、いつまでも元気でいてほしい、とおばあさんは思っていました。

 おじいさんとおばあさんが結婚して間もない頃は、毎晩毎晩こんなに大変では、いつか体を壊してしまうのでは、と心配していましたが、続けてみると意外といけるものでした。


 しかし、ふしぎなことに、おじいさんとおばあさんには、子供が一人もできませんでした。

「きっと現代の医療では、どうにもならない事なのだ。だが力を合わせて頑張れば、きっといつかは……」

 まだ大卒のエリート農民だった頃のおじいさんは、そう言っておばあさんを励ましました。けれど、いくら頑張っても、例えおじいさんが一晩に三回頑張っても、子供はできませんでした。


 子宝には恵まれませんでしたが、おばあさんは、内心これを嬉しく思っていました。そのおかげで、おばあさんも毎晩元気でいられるからです。

「今夜あたり、この五十年で培ったてくにっくを、おじいさんに披露してあげようかねえ」

 時には積極的に攻めるのも、悪くないと思いました。


 おばあさんが、のんびりと脳内でシミュレーションしていた、その時です。

 どんぶらこっこ、すっこっこ。

 どんぶらこっこ、すっこっこ。

 と、川上から大きな桃が流れてくるではありませんか。

 大きいと一口に言っても、並大抵の大きさではありません。日本武道館の屋根から転げ落ちてきたのか、と見違うばかりの大きさです。

 おばあさんは驚きましたが、まだ妄想は終わっていませんでした。なので、ゆっくりと流れてくる桃の動向を見守りながら、頭の中で、おじいさんをひぃひぃ言わせる事にしました。

「ぐふふ、おじいさんもいい声で鳴きますな、ぐふふ」

 もう止め処がありませんでした。


 すると、なんという事でしょう。おばあさんの脳裏に電撃が走りました。大きな桃が、おばあさんにインスピレーションを与えてくれたのです。

「そうじゃ、お尻じゃ! おじいさんのお尻を、こう、こうして……」

 とうとう手を振り足を振り、全身を使って演習を始めてしまいます。


 宇宙規模で膨らみ続けるおばあさんの想像力でしたが、想定しうる全パターンの一仕事を終えたところでそれも一旦尽き、ふと我に返った頃には、桃はおばあさんの目の前を横切って、川下へ流れていくところでした。

 しかし、おばあさんはちっとも惜しいと思いません。むしろ桃に対して、敬意を持って見送る気持ちでした。


 その時です。川下に住む別のおばあさんが、桃に気が付いて目玉を飛び出させました。

 そうだ、とおばあさんは閃きます。

 あの桃は、マンネリ化した夫婦生活を送る川下のおばあさんに、いい刺激を与えてくれるに違いない。

 おばあさんは、しんしんとふけった夜の中にこそある感動を、川下のおばあさんにも知ってもらいたい一心で、あの桃を譲ることにしました。


 おばあさんは、両手にブイサインを作ります。

「さぷらぁいずやでな、さぷらぁいず」

 しかし、そんなおばあさんの姿は、桃をがっぷり四つに捕まえた川下のおばあさんには、見えていませんでしたとさ。


 めでたしめでたし。

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