第十四話 齟齬が生じて……
まず僕がこの世界の人間でないことを打ち明け、そこから兵器の身体へと転送されたこと、この国を守ることを宣言したこと、それほどの力が僕にはあり、弾けとんだ腕が戻ったのは正にその力が発動した証ということ、それらを僕なりに順を追って話した。
普通は驚きの一つや二つは見せるだろうが、黙って聞いていたシェリルはむしろ真剣な顔つきになって、納得するように引き締まった顔をこくこくと頷かせた。
「まあ、信じられないだろうけど、そういうこと」
僕はすっかり完治した腕を見せ付けるように呈した。
「そういうことでしたか……」
申し訳なさそうに俯くシェリルに、今までの男嫌いたる雰囲気が少し和らいだような印象を受ける。「でも、その身体が特別でよかったです。普通の身体だったら死んでたから……」
僕はそこで思い出したように訊ねてみた。
「なあ、あの光は何なんだ? 一瞬で僕の腕がふっとんだあれ」
シェリルの反応からして、あの白い光を自らが放ったという自覚はあるらしい。あれは確か、僕が彼女の身体に触れようとした正にその瞬間に発したものだった。
「あれは、私に掛けられた魔法です――いえ、呪いと言ったほうがいいですね」
呪い。
そのセリフを言うシェリルの表情は珍しく苦々しいものとなっていた。
「呪い?」
「私の身体は男の人を拒絶するようにできているんです」
「……」
そう言って、シェリルは僕を正面から捉えた。
男を拒絶する体。
男が触れようとした瞬間、閃光がその行為を阻む呪い。
つまり、男を避けていたんじゃなくて、避けなければいけなかったということ。触れられると、殺してしまうから。
だからはなっから男嫌いの振りをして、男を近づかせないようにしていたということか。そうでもしないと、気を抜いた瞬間に触れられるかもしれないから。男という存在に対して、絶対的な壁を用意して生きていかなければいけない運命。
「まあ、もともと男の人は苦手なんですけどね」
「……でも、何でそんな呪いを……?」
何の気なしに訊いてみたが、おそらくタブーな質問だったらしい。彼女はゆっくりと俯いて目を伏せた。ちょうど、自分の身体を包み込むように三角座りをしている。
「言えません」
「あ、いや、別に無理に訊いてるわけじゃないよ」
僕はそう言ってから、冷静に考えてみた。よくよく考えれば、僕は今現在において男嫌いの女の子の家へ勝手に上がりこんでいる状態なのだった。「――ごめん、邪魔したな」
そう言って、ゆっくり立ち上がる。さっきまで朦朧としていたから、貧血に陥っているような錯覚がある。あくまで錯覚なのだが、僕は本当にふらついてしまった。
「無理しないでください、ゆっくりしていっていいですから」
三角座りのまま、シェリルは僕を引き止めた。
「いや、でも、君は……」
僕の声に被さるようにシェリルが声を上げる。
「ハルトさんは、異世界の人間なんですよね」
名前を覚えられていた。
そういえば、名乗ったような気がする。
「そうだけど」
「だからでしょうか。どこか変わっているというか、現実離れしているというか、男の人っぽくないというか」
最後のは捉えようには失礼なこと極まりないが、まあ要はこの世界の男ではないから、あまり拒絶心も強くならないということだろう。
「なぜか近場に居られても嫌じゃないんです」
「なんでだろう」
僕はわざと訊いてみた。けれど、シェリルは「私にも分からないです」と首を傾げるばかりなので、本当に分からないのだろう。やっぱりこれも『空気が違う』という問題になってくるのかもしれない。空気の違いで襲われることもあれば、空気の違いで敬遠されないこともある。
「でも、私にはもう触れないようにしてください」
「……ん、ああ、わかった」
そこで、僕は気付いた。僕は確かにちゃんと地図を見て正確にこの家へと来た。なのに間違っているということは、やはりどこかで道を誤ったということになる。だとしたら、また一から探し始めなくちゃいけない。
だったら、シェリルに聞いたほうがよさそうだった。
「なあ、この地図のこの場所なんだけど、どこにあるか知らない?」
僕は三つ折の紙をテーブルの上において、目的地を指差した。シェリルも三角座りを崩して、前のめりにテーブルの上を覗き込んだ。
「えっと……05K7M6だから、ココです」
シェリルはさも当然のように現在位置を指差した。
「は?」
「え?」
「はあああああ!!!???」
何かおかしいとは思っていたけど、まさか……部屋共用?
いや、それはない。ないないない。
僕は、首を傾げているシェリルのことを、しばらく無言で見ていた。




