第十三話 意識して……
ちょっと短いですが、悪しからずです!
「ぐああぁぁ!!!」
僕は仰け反って天井に悲痛な叫びを上げた。レイトに斬られた時の切断式とは違い、今回はまるで千切り取られたように断面が粗く、骨もむき出しになっていた。血しぶきが自分の意識に関係なく部屋に上がる。まがまがしい痛みが腕から肩までに走っていた。
シェリルが何かの魔法を唱えたのかとも考えたが、そんな素振りは見せなかったし、彼女は今現在も僕に背を向けて泣いている。どうも彼女自身による攻撃ではないらしい。
それよりも、今はこの腕をどうにかしなければならない。断面からは止めどなく血が吹き出し、白い床を見る見るうちに赤く塗り替えている。人体をリセットすれば一瞬のうちに僕の腕は全治するだろうが、あれは僕が無意識でないとできない。
シェリルは、こちらに気付いて視線を僕に移した。心なしか『またやってしまった』という表情をしている。僕の肘先のない腕を見つめて何かを思いつめながらも、何もできないでいるようだった。
「ごめんな、部屋汚しちゃって」
手元でどんどん広がっていく血溜まりは、すでにテーブルの脚にもとどいていて、白い部屋に赤を侵略させている。血は乾いたら落ちにくかったような記憶がある。申し訳ないことをしてしまった気分だ。
シェリルは口を半開きにして、僕が痛みに悶えるのを見つめ続けていた。彼女はいきなりの事に泣くのも忘れて、呆然としている。もはや反応すら窺えない。
「っ……やべえ」
ちょっと威勢を張りすぎてしまったかもしれない。素直に助けてと言えばよかったが、彼女を安心させるために平然を装ってしまった。おかげで、血がどんどん体内から出血し、僕の意識は朦朧としている。確か、人間は身体の三分の一の血が抜けると致死する可能性があるんだよな……。
いや、死ぬことを前提に考えちゃダメだ。
明日、僕はミルと檻入りごっこをしなきゃいけない。ホノメとウイングロードの背に乗って絶叫しなきゃいけないし、せっかく手続きしたのに自分の家にも入らずに死ぬなんて御免だ。
もう無意識に頼っちゃいけない。こっちの世界に来て長い時間も経っているのだから、完全とまではいかなくても、ほぼ魂の定着は終わっているはずだ。あとは、僕が僕の新しい身体を受け入れるだけ。内に潜むラズンを自らが受け入れるだけ、なのだ。
僕は、意識を集中させる。腕が戻っていく様子を脳裏に想像し、それが現実のものとなるように願いを込める。
反応したのは、僕よりもシェリルが先だった。彼女はハッとすると、思わず口もとに手をかぶせ驚き声を殺した。完全無視を貫いていたシェリルでさえ、その光景は看過できないものなのだろう。
腕が、戻った。
断面が軟体動物のようにくねり始めたかと思うと、目にも留まらぬ速さで腕が伸びたのだった。しかも、その際に『血も戻れ』と念じたからなのか、レイトのときとは違い、血までもが床から綺麗に消えて僕の体内に染み込んでいった。
「……よし」
僕は成功に安堵し、胸を撫で下ろした。痛みの余韻すらもなく、完全に治癒している。
「何を……したんですか」
僕が治った腕を眺めていると、ふいに透き通った綺麗な声が僕の耳に届いた。喉に何もつっかえ物がなく、響きのいい綺麗な声だ。
「あ……え? 喋った?」
僕のそんな反応が気に食わなかったのか、シェリルは顔を真っ赤にしてすぐにそっぽを向いた。僕は取り繕うように身を乗り出す。
「いや! 違う違う! ちょっと驚いただけ!」
気を取り直してゆっくりこちらに向き直るシェリル。
「あー、えっと、なんだっけ? いま僕が腕を直したのが不思議なの?」
「うん」
決して、警戒は解かずに、僕の動きのひとつひとつを確認するように監視しながらシェリルはうなずいた。僕は、その警戒心と真摯に向き合わなければならない。もしも妙に濁した答を出したなら、シェリルは不審がるだろう。そうすれば、せっかく開きかけた心が完全に閉ざされるような気がしたのだ。
「話せば長くなるんだけどさ――」
僕は、包み隠さずに、今までのいきさつを全て話した。




